ツロツブリ(読み)つろつぶり(その他表記)Tyrian murex

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツロツブリ」の意味・わかりやすい解説

ツロツブリ
つろつぶり
Tyrian murex
[学] Hexaplex trunculus

軟体動物門腹足綱アクキガイ科の菱(ひし)形の貝。殻は厚質。殻表は白地に紫褐色の螺(ら)状帯があり、成長脈は間隔のあいた多数の縦張肋(じゅうちょうろく)となり、肩の部分では棘(とげ)状に立つ。臍孔(へそあな)は開き、殻口は卵円形で前溝は短いが明らかである。殻高70ミリメートル、殻径55ミリメートル。本種の鰓下腺(さいかせん)からの分泌物は、日光に当たると紫色になる。このため、本種はシリアツブリBolinus brandarisとともに古代ローマ時代の紫色の染料貝紫)をとる材料として用いられた。この紫の色素はフェニキア人によりティルス港から輸出されたのでツーロ紫Tyrian purpleと称され、皇帝や元老院議員にのみ許された色であった。サイダシドン)付近の貝塚からは、この時代に採取された本種が多量に出土する。

[奥谷喬司]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

苦肉の策

敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。また、苦しまぎれに考え出した手立て。苦肉の謀はかりごと。「苦肉の策を講じる」...

苦肉の策の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android