精選版 日本国語大辞典 「染料」の意味・読み・例文・類語
せん‐りょう ‥レウ【染料】
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適当な方法で繊維を染めることができ、かつ実用上、日光、洗濯、摩擦、汗、ガスなどに対して安定な色素をいう。本来は水溶液から天然繊維や合成繊維、化学繊維を染色する目的で使用されてきたが、有機溶媒を用いた溶剤染色法のくふうもある。また着色の対象材料も、繊維のみならず、ゴム、紙、皮革、プラスチック、食品、医薬品、化粧品など多様な材料にわたっている。さらには着色の目的にとどまらず、臨床検査用色素、写真用色素、色素レーザーなど、染料の利用の可能性には限りないものがある。
水や油に不溶性で、物体の表面に有色膜をつくるものが顔料である。染料としても、顔料としても利用される色素もある。
染料は、植物や一部の動物から採取される天然染料と、芳香族原料から化学合成される合成染料に大別できる。19世紀の中ごろまでは天然染料の時代であった。当時タール化学の研究を行っていたイギリスのW・H・パーキンが、不純なアニリンの酸化により、赤紫色の絹を染める染料を1856年に発見。これをモーブと名づけて翌1857年に市場に出して以来、急速に合成染料の化学と工業が発展した。今日では合成染料の時代ということができる。
[飛田満彦]
染料の分類には、化学構造によるものと、染色的性質(染色法)によるものとがある。実用的には後者のほうが便利であるが、両者を混合して用いる場合もある。
染色法により分類すると次のようである。
[飛田満彦]
直接木綿染料ともいう。中性塩水溶液から媒染剤を用いることなく、セルロースに染まる水溶性染料。
[飛田満彦]
酸性水溶液から絹、羊毛などの動物繊維、ナイロンなどのポリアミド繊維を染色する水溶性染料。
[飛田満彦]
中性または弱酸性水溶液から動物繊維やナイロンに染まる水溶性染料。この種のものは色調が鮮明で着色が高い反面、日光に対して弱い欠点がある。アクリル繊維用染料として開発されたものには鮮明でかつ耐光性の良好なものがある。これらはカチオン染料とよばれている。
[飛田満彦]
酸性染料と同様の染色性をもち、分子内に金属イオン(主としてクロムイオン)と錯塩を形成しうる原子団を有する染料。絹や羊毛を酸性染料と同様に染めたのち、重クロム酸塩で処理し、水不溶性の錯塩をつくらせるので、洗濯堅牢(けんろう)度が良好となる。染料とクロム塩を同時に使用して染色する場合もある。金属イオンとしてクロムが用いられることが多く、クロム染料ともいう。
[飛田満彦]
水不溶性で、硫化ナトリウムにより還元され水溶性となり、セルロースやビニロンに染まる。空気酸化により繊維上で染料が再生される。アミノフェノールやインドフェノールを硫黄(いおう)または多硫化アルカリと加熱して得られる複雑な構造をもつ染料である。
[飛田満彦]
建染(たてぞ)め染料ともいう。互いに共役した2個のカルボニル基をもち、水不溶性であるが、アルカリ性ハイドロサルファイト溶液により還元されて、水溶性のロイコ体となり、セルロースに直接に染まる。空気で酸化されて元の染料が繊維上で再生される。インジゴ系と縮合多環式キノン系がある。
[飛田満彦]
繊維に染まる無色のカップリング成分をアルカリ性水溶液から染めたのち、各種の芳香族第一アミンのジアゾニウム塩の液に浸(つ)けると、繊維上で水不溶性のアゾ染料が生成し発色する。カップリング成分をナフトール下漬剤、芳香族アミンをアゾイックベースという。安定化したジアゾニウム塩を顕色剤に用いることもある。これをアゾイックソルトという。アゾイック染料は一般に日光、洗濯には堅牢であるが、摩擦には若干弱い。
[飛田満彦]
水に難溶性であるが、分散剤を用いて水中に細かく分散させ、疎水性のアセテート、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維に染着する。アセテート繊維用に開発されたので、当初はアセテート染料とよばれていた。
[飛田満彦]
分子中にクロロトリアジンやビニルスルホンなどの反応性基をもつ酸性染料系が主である。繊維のもつ官能基(セルロースのヒドロキシ基、絹、羊毛のアミノ基、メルカプト基、カルボン酸アミド基など)と反応性基が共有結合して染着する。
[飛田満彦]
芳香族アミンやアミノフェノールを繊維に吸収させ、酸化剤で処理して発色させる染色法。アニリンブラック染めや白毛染め、ヘアダイがある。
[飛田満彦]
蛍光増白剤ともいう。繊維に対して親和力を有し、このもの自身は無色ないし淡黄色であるが、紫色の蛍光を有するので、黄化した繊維の増白ができる。セルロース繊維用の直接染料型と、合成繊維用の分散染料型がある。
[飛田満彦]
水に不溶性で油脂や有機溶剤に可溶な染料をいう。このための特別な染料があるわけではないが、油脂、ガソリンなどの着色に用いられる。
[飛田満彦]
染料を化学構造によって分類することもある。アゾ染料は分子中にアゾ基-N=N-を有するもの、アントラキノン染料はアントラキノン骨格をもつもの、インジゴイド染料はインジゴ、チオインジゴおよびこれらの誘導体である。カルボニウムイオン染料はジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キサンテン、チアジンなどカルボニウムイオンをもつものである(ジフェニルメタン、トリフェニルメタンは慣用名。化学的にはジフェニルメチリウム、トリフェニルメチリウムというほうが正しい)。そのほかフタロシアニン染料、ニトロ染料、キノリン染料、シアニン染料、ポリメチン染料などがある。
[飛田満彦]
染料の名称は多様で、同一染料でも製造会社によって異なる名称が与えられている。またこれらの商品名に基づいた慣用名も用いられている。一般に名称は、冠称―色名―染色の記号から成り立っている。カラーインデックス名Colour Index Name(C. I. 名)は、共通の染料名を用いるという意味で、1971年にイギリスのSDC(The Society of Dyers and Colourists)とアメリカのAATCC(American Association of Textile Chemists and Colorists)が共同編集した『カラーインデックス』第3版で採用された。学問的には染料名は慣用名を用いず、C. I. 名を使用することになっている(たとえばローダミンBは「C. I. Basic Violet10」となっている)。
[飛田満彦]
染料が実用性をもつためには、日光、洗濯、摩擦などの外界よりの作用に対して安定である必要がある。したがって染料の評価に、耐光堅牢度、洗濯堅牢度、汗堅牢度、摩擦堅牢度、ガス退色堅牢度などが用いられ、その試験および評価方法がJIS(ジス)(日本工業規格)により規格化されている。耐光堅牢度は1~8級の8段階、他の堅牢度は1~5級の5段階により評価される。等級数の大きいほうが堅牢である。
染料の代表的機能は、いうまでもなく色と繊維に対する染着性である。これらはきわめて複雑な要因をもち、簡単に述べることはむずかしいが、そのあらましを説明する。
染料の分子構造はいくつかのベンゼン核を結合させて比較的大きな共役二重結合系をもっている。この共役二重結合の広がりが大きいほど、長波長の光を吸収して深色となる。さらに、分子中には発色団という二重結合をもった原子団と、助色団という非共有電子対(孤立電子対)がある。一般に発色団は電子求引性で、助色団から発色団に電子が流れやすいほど、長波長の光を吸収するようになり染料の色は深くなる。以上のことをアニリンエローとジスパーススカーレットBについて示す。
アニリンエローは、2個のベンゼン核をアゾ基で連結した共役二重結合系をもつ。助色団であるアミノ基から発色団であるアゾ基の方向へ電子の流れ込みがあるために、可視光線を吸収しうる。ジスパーススカーレットBでは、助色団がエチル、オキシエチルアミノ基となり、アミノ基よりも若干電子を押し出す力が強い。さらに発色団としてのニトロ基が、アゾベンゼンの4位に連結しているので、アミノ基からアゾ基およびニトロ基の発色団への電子の流れ込みがいっそう容易となり、したがって、アニリンエローよりも、より長波長の光を吸収するので、色は深くなっていると考えることができる。
[飛田満彦]
染色系は理論的にはたいへん複雑な系で、染料の固体‐染料および各種の助剤を含む溶液‐繊維の系を染料が移動し、繊維に吸着される系である。染料、助剤、溶媒(主として水)、そして繊維間の複雑に絡み合った系と考えるべきである。染料の染着性は、染料がどれだけ早く繊維に染まるかという染着速度と、染料がどれだけ濃く繊維に飽和しうるかという染着平衡の両面からみることができる。
染着速度は、繊維内の拡散速度で支配されており、染料の大きさ、染料‐繊維分子間相互作用の強さ、繊維構造の緻密(ちみつ)さに依存する。
染着平衡は、染料の繊維に対する親和力で定まる。染料‐繊維間の相互作用には、イオン結合、双極子‐双極子結合、双極子‐誘起双極子結合などのクーロン力、水素結合、無極性ファン・デル・ワールス結合、配位結合、共有結合などがあげられる。絹、羊毛などを塩基性染料や酸性染料などのイオン染料で染色した場合、イオン間のクーロン力が働くが、水素結合やファン・デル・ワールス力の作用も重要である。セルロースに対する直接染料やバット染料では水素結合やファン・デル・ワールス力によって親和力が生まれる。
[飛田満彦]
染料はベンゼンやナフタレン、アントラセンなどの芳香族化合物を出発原料とし、これらから中間体を合成し、中間体から染料に組み立て、これを粉末化、助剤との混合などによる仕上げ加工をして製品となる。原料の芳香族化合物は、古くから石炭タールから分離したものが利用されてきたので、合成染料をタール染料(あるいはタール色素)とよぶこともある。しかし、石油化学の発達により、ベンゼン系の原料はむしろ石油化学工業から供給されることが多いので、タール染料の呼び方は妥当でない。
染料中間体および染料の合成には多種多量の反応剤(多くは無機化合物)が用いられ、かつ多種類の有機合成反応が利用されている。ベンゼンが出発原料で、ニトロベンゼン、アニリン、塩化ベンゼンジアゾニウムを経て、4-アミノアゾベンゼン(アニリンエロー)が合成される。これらの階程には、ニトロ化、還元、ジアゾ化、カップリングの反応が用いられる。
[飛田満彦]
1856年に合成染料が出現して以来、天然染料は急速に衰微し、今日では、東南アジアやアフリカなどの原始染色に、また日本の伝統染色に受け継がれているにすぎない。天然染料には植物性、動物性、鉱物性の3種があり、とくに植物性染料では、鬱金(うこん)、紅花(べにばな)、茜(あかね)、蘇芳(すおう)、藍(あい)、紫草(むらさきぐさ)など、動物性染料ではコチニールcochineal、貝紫などがよく知られている。このうち日本古来の伝統染色は、もっぱら植物性染料を主体としてきた。
これらの天然染料は、顔料のように水や油に不溶のままで、直接に被染物の表面に不透明な有色膜をつくるのとは異なり、水や油に溶けて被染物に染め着き、あるいは助剤や媒染(ばいせん)剤の助けを借りて、初めて美しい色調に発色し、定着する。したがって天然染料をそれぞれの特性によって分類すると以下の3種に分けられる。
(1)直接染料substantive dyestuffs 染料が水に溶解して直接に被染物に染め着くものをいう。ただしこの種の天然染料は非常に少なく、鬱金や紅花、その他数種の蘚苔(せんたい)類に限られる。鬱金は根茎に黄色素が、紅花は花弁に黄と赤の2種の色素が含有されている。紅花を水に浸(つ)けると、まず黄色素が抽出され、黄色素が十全に抜けてからアルカリで処理すると、赤い染料が得られる。いずれも退色しやすい不安定な染料で、酸性物質を加えることによって安定度が修正される。
(2)バット染料vat dyestuffs 藍に代表される染料をいう。すなわち、媒染剤を必要とせず、アルカリ液に溶解し、被染物に付着した色素は、空気中で酸化することによって発色し、定着する。藍染めはアジア全域(極端に北のほうを除く)にわたって広く行われており、とくにインジゴを含んだ植物は今日50種以上のものが知られている。また貝紫もこの種の染料で、巻き貝の白いミルク状の分泌物を布に摺(す)り着けると、酸化するにしたがって美しい紫色が得られる。
(3)媒染染料mordant dyestuffs 鉄やミョウバンのような媒染剤の力を借りて、色素が発色し定着する染料をいい、天然染料の多くはこの種に属する。媒染染めのもっとも素朴な形は、タンニンを含んだ繊維や布を、鉄分のある泥に浸けて黒色に染める「泥染め」であろう。アルミニウム(ミョウバン)を媒染剤として茜や蘇芳、コチニールから鮮やかな赤が、またミョウバンと鉄媒染の兼ね合いによって、紫から暗赤色までの微妙な色調を得ることもできる。
[小笠原小枝]
『浅原照三他編『新しい合成化学7 新しい染料・顔料』(1965・共立出版)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
可視光線を選択的に吸収して固有の色をもつ物質(色素)のうち,適当な染色法によって繊維に染着し,かつ,日光,洗濯,摩擦など日常遭遇する外的条件に対して相当な堅ろう度を示すものを染料という.現在の染料,すなわち合成染料は,1856年W.H. Perkin(パーキン)がモーブとよばれる赤紫色の絹用の染料を合成したのにはじまる.ついで,ジアゾ化反応(1859年)やカップリング反応(1868年)の発見によるアゾ染料の出現,アリザリン(1876年)やインジゴ(1880年)の構造決定と合成,バット染料(1901年)や分散染料(1923年)の発見,蛍光増白剤(1928年)やなせん(1938年)などの技術的進展,反応染料(1956年)の発明などにより染料の領域が築かれ今日に至っている.この間,合成化学の発展に大いに貢献した.現在,わが国における市販染料は千数百種類に及ぶが,これらを染色的性質によって分類すると,酸性染料,塩基性染料,媒染染料,酸性媒染染料,直接染料,分散染料,硫化染料,建染め染料,アゾイック染料,酸化染料,反応染料,油溶染料,食品用色素,蛍光増白剤などの部属になる.またそれらを化学構造によって分類すると,アゾ染料,アントラキノン染料,フタロシアニン染料,インジゴイド染料,アゾイック染料,ジフェニルメタン染料,トリフェニルメタン染料,キサンテン染料,アクリジン染料,硫化染料,フタレイン染料,酸化染料などとなる.染料本来の目的は,天然繊維,化学繊維,合成繊維の染色にあるが,このほか紙,皮革,ゴム,プラスチック,油脂,食品,化粧品などの染色または着色に,また特殊な応用として,写真材料,分析用指示薬,生体染色などきわめて広範囲に使用されている.市販の染料の情報を集めたものにカラーインデックスがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…染色は染料のもつ繊維材料への染着性を利用して,繊維等に染料を収・固着させる技術である。したがって繊維材料に顔料を固着材で固定する技術,たとえば顔料捺染(なつせん)などは染色には含めない。…
…そのような樹脂,ロウやゴム質成分も,その特異な性質を利用し,種々な用途に利用される。植物体に含有される色素は,19世紀の合成染料の出現以前には重要な染料源であった。染料植物は特に衣服の加工や装飾に重要な役割を果たしていた。…
※「染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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