ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「貝紫」の意味・わかりやすい解説
貝紫
かいむらさき
Imperial purple
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軟体動物門腹足綱アクキガイ科の貝の鰓下腺(さいかせん)から分泌される粘液が、酸化された(死んだ貝が、干からびたときなど)状態で安定した紫色になるのを利用した染料。地中海域では古代、アクキガイ科の2種ツロツブリHexaplex trunculusとシリアツブリBolinus brandariが主としてこれに用いられ、古代フェニキア人はこれらを多量に出荷したため、その港町ティルスの名を冠してツーロ紫Tyrian purpleとよばれている。しかし、この貝1万個からとれる色素がわずか1.5グラムであるため非常に高価で、ローマ時代は皇帝と元老院議員のローブにだけ用いられ「帝王紫」とよばれた。紀元前1000年以上も前の貝塚から、染料を採取された貝が出土している。同様の習慣がメキシコなどのインディオにもあり、同じアクキガイ科のレイシガイ類Purpuraを用いて現在でも細々と続けられ、民族衣装に利用されている。日本でも以前は三重県の海女(あま)が、頭にかぶる手拭(てぬぐい)にレイシガイ類の粘液をこすりつけて紫色の印をつけ、まじないにする習慣があったといわれるが、これも「貝紫」の一種である。
[奥谷喬司]
…聖書ではツロ)にちなんで,テュロス紫Tyrian purpleと称された。また南アメリカの前10世紀以前のプレ・インカの遺跡でも同じくサラレイシガイやアワビモドキからとった貝紫で染めた布が出土し,現在もメキシコの太平洋岸のオアハカ州では11~3月にサラレイシガイで染色を行っている。日本では紫の染料は植物のムラサキから採取していたので,この技術はとくには発達せず,志摩の海女が布にイボニシなどで印をつけたというくらいである。…
※「貝紫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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