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貝紫 かいむらさきImperial purple

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

貝紫
かいむらさき
Imperial purple

軟体動物門腹足綱アクキガイ科の貝類より採取した紫色の染料。紀元前 10世紀地中海沿岸のフェニキアでは,シリアツブリボラ Bolinus brandaris(purple dye murex)やツロツブリボラHexaplex trunculus(trunculus murex)の鰓下腺から得られる無色の分泌液に日光をあてると紫に発色することから,これを染色に用いる技術が開発された。1つの貝からは少量しかとれず,洋服地1着分に1万 7000個,1gの染料に 2000個が使われた。このため非常に高価で帝王や法王のみが貝紫で染めた衣服を着用できたので,帝王紫 Imperial purpleの名がある。また,これをツロ (テュロス) 港から輸出したことから,ツロ紫 Tyrian purpleの名もある。これとは別にメキシコ,ペルーなどでも同様に貝紫で染色する技術が開発され,メキシコでは現在もそれが引継がれている。メキシコではサラレイシペルーではアワビモドキを使用。日本でも志摩の海女がレイシイボニシの貝紫で手拭を染めたという。要するにアクキガイ科の種類であれば,鰓下腺の分泌液から貝紫をとることができる。貝紫の成分はジブロムインジゴ C16H8Br2N2O2 である。アメフラシイトカケガイも紫色の液を分泌するが染料にはならない。

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大辞林 第三版の解説

かいむらさき【貝紫】

地中海産のアッキガイ科の貝の分泌液からとった紫色の染料。非常に高価なため、ローマ時代には皇帝と元老院議員のみの衣服に使用した。帝王紫。ティリアン=パープル。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

貝紫
かいむらさき

軟体動物門腹足綱アクキガイ科の貝の鰓下腺(さいかせん)から分泌される粘液が、酸化された(死んだ貝が、干からびたときなど)状態で安定した紫色になるのを利用した染料。地中海域では古代、アクキガイ科の2種ツロツブリHexaplex trunculusとシリアツブリBolinus brandariが主としてこれに用いられ、古代フェニキア人はこれらを多量に出荷したため、その港町ティルスの名を冠してツーロ紫Tyrian purpleとよばれている。しかし、この貝1万個からとれる色素がわずか1.5グラムであるため非常に高価で、ローマ時代は皇帝と元老院議員のローブにだけ用いられ「帝王紫」とよばれた。紀元前1000年以上も前の貝塚から、染料を採取された貝が出土している。同様の習慣がメキシコなどのインディオにもあり、同じアクキガイ科のレイシガイ類Purpuraを用いて現在でも細々と続けられ、民族衣装に利用されている。日本でも以前は三重県の海女(あま)が、頭にかぶる手拭(てぬぐい)にレイシガイ類の粘液をこすりつけて紫色の印をつけ、まじないにする習慣があったといわれるが、これも「貝紫」の一種である。[奥谷喬司]

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世界大百科事典内の貝紫の言及

【貝】より

…聖書ではツロ)にちなんで,テュロス紫Tyrian purpleと称された。また南アメリカの前10世紀以前のプレ・インカの遺跡でも同じくサラレイシガイやアワビモドキからとった貝紫で染めた布が出土し,現在もメキシコの太平洋岸のオアハカ州では11~3月にサラレイシガイで染色を行っている。日本では紫の染料は植物のムラサキから採取していたので,この技術はとくには発達せず,志摩の海女が布にイボニシなどで印をつけたというくらいである。…

※「貝紫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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