池の水底から細い茎をのばし,夏に水面に葉を放射状にひろげ,水面をおおう一年生の水草。果実には逆歯のあるとげがあり,水底に固着して越冬する。春に,頂端部から芽を出し,泥中に根をおろし,水面に向かう茎をのばす。茎の各節には,対生し,細かく枝分れする水中根がある。葉は互生で,放射状に出る。長い葉柄があり,その中部はふくらんで浮袋となる。葉身はひし形で粗い鋸歯がある。次々と新しい葉がつくられ,枝分れもして繁茂する。花は7月ころから順次開く。若い葉の葉腋(ようえき)から出る柄の先に白い4弁の花がつき,水面に顔をのぞかせる。萼4枚,おしべ4本。めしべは1本で,子房は2室,基部は萼筒と合着しており,この部分が花後発達する。花が終わると柄がのび,水中に没する。萼片は前後の2枚は脱落するが,左右の2枚は残り,果実のとげとなる。果実の内層は堅い木質となり,1室のみが発達し,大きな1種子を有する。種子には胚乳がなく,1個の大きい子葉と1個の鱗片状の子葉とがあり,子葉には生の状態で約20%のデンプンが貯蔵されている。温帯~亜熱帯に広く分布し,北海道,本州,四国,九州,朝鮮,台湾,中国にみられる。種子をゆでたり焼いたりして,食用とする。また民間薬として使われることもあるが,効用は不明。中国では果実を熱さましなどに用いる。ヒメビシT.incisa Sieb.et Zucc.やオニビシT.natans L.var.japonica Nakaiは萼片が4枚とも残り,とげとなる。ヒメビシは実,植物体ともにヒシより小型,オニビシの実は大型である。
ヒシ属は,1属のみでヒシ科を形成し,ヨーロッパ,アジア,アフリカに数種がある。アカバナ科やミソハギ科に近縁と考えられている。
執筆者:岡本 素治
4本の平行斜線によって囲まれた四辺形を基本とする文様。原始時代から世界各地に見られ,時代がすすむにつれ複雑な文様に発展した。織物以前の網物地から生じたという説もある。おもに連続文として菱繫(ひしつな)ぎや,斜線を基本として文様化した襷文(たすきもん)として用いられる。中国唐朝で好まれた実在しない花を菱形にデザインした唐花菱,有職文(ゆうそくもん)の一つで4から20の花菱で一つの大きな菱を構成する幸菱(さいわいびし),おもに織物などの地文に用いられ菱文が隣接して並ぶ繁菱(しげびし),間隔をおいて並ぶ遠菱(とおびし),菱を4等分した割菱で甲斐武田氏が用いた武田菱(たけだびし),菱形の中に順次小さな菱を入れてゆく入子菱(いれこびし),小さい菱形をたすき状に並べた菱襷(ひしだすき),鳥文(とりもん)をたすき状に並べ間に唐花(からはな)を置いた鳥襷(とりだすき)などがある。中世の密教寺院の内陣・外陣の間仕切りには菱格子が多く用いられ,また青森,秋田地方のこぎん,菱刺しは菱繫ぎ文様に特色がある。
執筆者:一條 薫
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ヒシ科(APG分類:ミソハギ科)の一年生水草。茎は長く伸び、節から羽状に細裂した根を対生する。葉は茎の頂に放射状に束生して対生し、水面に浮かぶ。葉身は菱(ひし)形で上縁に不整の歯牙(しが)があり、表面は無毛で光沢があり、裏面は柄とともに軟毛がある。柄は一部が海綿状に膨れて、浮き袋の役目をする。7~9月、長さ3センチメートルの花柄の先に白色で径1センチメートルの4弁花を開き、果実期に下向きになる。果実は菱形で、2枚の萼片(がくへん)は刺(とげ)となる。果実を食用や薬用とする。池沼に生え、北海道から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。
ヒシ科はヒシ属だけからなるか、ときにアカバナ科に含めることがある。アジア、アフリカ、ヨーロッパの熱帯、暖帯に30種あり、日本にはヒシ、ヒメビシが分布する。
[小林純子 2020年8月20日]
APG分類ではヒシ科はミソハギ科に統合され、ヒシ科は消滅した。
[編集部 2020年8月20日]
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