改訂新版 世界大百科事典 「トリブート」の意味・わかりやすい解説
トリブート
tributo
スペイン植民地下のフィリピンで施行された人頭税制度。スペイン政庁はトリブート,ポーロpolo(強制労働)の二つの制度を用いて,フィリピン住民から過酷な収奪を行った。トリブートは1家族または成年に達した2人を一組とする貢納単位(トリブタリオ)ごとに課せられ,その額は制定時の1571年には1年につき銀8レアル,17世紀以降はおおむね10レアルであったが,1851年に12レアル,74年に14レアルに増額され,84年に廃止された。額自体はさほど大きくはないが,実際の徴収はこの額に見合う指定の生産物で行われたので,生産物の評価額をめぐって徴税官の不正が絶えず,住民は苦しめられた。ポーロは16~60歳の男子に対して課せられ,初めは年間40日であったが,1884年に年間15日に減ぜられ,スペイン体制の末年まで続いた。ポーロで徴発された労働力は居住町の道路や教会などの建設のほか,政庁の帆船用木材の伐採,遠征隊の雑役などのために遠隔地に送られ,十分な衣食も給せられなかったので,住民の怨嗟の的になった。トリブートとポーロはそれぞれの枠内で,政庁の植民地支配に協力した一部の住民に免除の特権が認められた。このほか,スペイン支配の初期には,植民者社会が必要とする物資を一地方に強制的に割り当て,無料同然で売り渡させる,バンダーラbandalaと呼ばれる制度が実施され,住民社会を疲弊させた。
執筆者:池端 雪浦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報