改訂新版 世界大百科事典 「ナイトハルト」の意味・わかりやすい解説
ナイトハルト(ロイエンタールの)
Neidhart von Reuental
バイエルン出身のドイツの詩人,ミンネゼンガー。生没年不詳。推定詩作年代は1210-40年ころ。最初はバイエルン公の,後にはオーストリア公の宮廷で活躍し,晩年のワルター・フォン・デル・フォーゲルワイデと衝突した形跡がある。彼の残した全作品(約70編の舞踏歌)は,二つのタイプに分類される。ひとつは,牧歌的背景と騎士が村の娘にもてることをほのめかす会話とを中心にする〈夏の歌Sommerlieder〉で,もうひとつは,騎士がその恋人を騎士のまねをしたがる村の伊達者に奪われる物語風の〈冬の歌Winterlieder〉である。農村が舞台になってはいるが農民文学ではなく,ミンネザングのパロディという形式を借りて,騎士階級の堕落と騎士文化の凋落を,騎士社会の側から告発しているものと解釈される。ミンネザングの崩壊を決定的に推進したこの不協和音の詩人は,生前からひじょうに有名であったらしく,ナイトハルトという名は,上記のタイプの歌の亜流作品の名称となり,さらに14世紀以降〈ナイトハルト劇Neidhartspiel〉という笑劇Schwankの主人公として,農民の敵役に仕立てられた。16世紀のハンス・ザックスも《ナイトハルトと菫》という笑劇を書いた。
執筆者:岸谷 敞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報