歌舞伎の役柄の一つで悪人の役。またそれを専門に演ずる俳優をいう。今日では演劇一般,映画でも使われ,〈悪役〉ともいう。元禄時代には敵役(てきやく),悪人方,悪方(いやがた)ともいっていたが,のちに〈かたきやく〉という呼び方におちついた。時代が下り役の種類が複雑化するにつれて,いろいろな名称が生まれた。そのおもなものをあげると,〈実悪(じつあく)〉また〈立敵(たてがたき)〉は悪人中の悪人の役で,顔は白塗り,燕手(えんで)という凄みのあるかつらを用い,堂々たる貫禄を見せるものが多い。代表的な役は《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》の仁木弾正,《仮名手本忠臣蔵》の師直,《時桔梗出世請状》の光秀など。〈公家悪(くげあく)〉は公家の悪人で,多く藍隈などで顔をいろどり,陰険な無気味さをもつ。《菅原伝授手習鑑》の〈車引〉の時平や《妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)》の蘇我入鹿,《暫(しばらく)》のウケなど。〈色悪(いろあく)〉は美男の悪人で二枚目のあでやかさに悪の凄みを加えた役どころで,《累(かさね)》の与右衛門,《東海道四谷怪談》の伊右衛門など。〈端敵(はがたき)〉または〈平敵(ひらがたき)〉は安手な悪人で,実悪と対照的に〈赤っ面(あかつつら)〉にすることが多い。《仮名手本忠臣蔵》の薬師寺や《菅原伝授手習鑑》の〈寺子屋〉の玄蕃など。〈半道敵(はんどうがたき)〉は半分道外方(どうけがた)のような悪人の意味で〈チャリ敵〉ともいう。《仮名手本忠臣蔵》の伴内や《須磨都源平躑躅(つつじ)》の〈扇屋熊谷〉の忠太など。〈手代敵〉は世話狂言に出てくる悪い番頭や手代の役で,《隅田川花御所染》の長九郎や《心中天の網島》の善六などである。〈叔父敵〉は御家狂言で当主の叔父がお家横領を企らむ悪人側の中心になっていたところから生まれた役柄で,《伽羅先代萩》の大江鬼貫がその典型的な役である。そのほか現在はほとんど使われないが,江戸時代には実敵,親敵,世話敵,継母敵,立敵花車など,数多くの役柄があった。
執筆者:山本 二郎
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歌舞伎(かぶき)の役柄の一つで、広く悪人の役をいう。善人の男の役を意味する立役(たちやく)に対するもの。演目や役の性質により、いろいろな種類と名称がある。たとえば『先代萩(せんだいはぎ)』の仁木(にっき)、『金閣寺(きんかくじ)』の大膳(だいぜん)など、謀反の元凶は最高級の敵役で、実悪(じつあく)(または立敵(たてがたき))とよばれる。同じく位の重い敵役で、『菅原(すがわら)』の時平(しへい)、『妹背山(いもせやま)』の入鹿(いるか)など、顔に藍隈(あいぐま)を施し、魔王のような力を発揮する役は、公卿(くぎょう)の悪人の意味で公家悪(くげあく)という。ほか『累(かさね)』の与右衛門(よえもん)や『四谷怪談』の伊右衛門のような美男の悪人を色悪(いろあく)、『忠臣蔵』の薬師寺(やくしじ)のように安手な敵役を平敵(ひらがたき)または端敵(はがたき)、同じく伴内(ばんない)のように道化の要素の濃い敵役を半道敵(はんどうがたき)とよび、平敵・半道敵のなかには、『先代萩』の大江鬼貫(おにつら)や『菅原』の土師兵衛(はじのひょうえ)などを伯父敵(おじがたき)、『妹背門松(いもせのかどまつ)』の善六や『法界坊』の長九郎などを手代敵(てだいがたき)(または番頭敵)というように、役の年齢、身分からきた呼称もある。なお敵役というのは、本来悪人を専門とする俳優のことでもあり、悪人方ともよばれた。また一般語にもなっているが、今日の演劇、映画、テレビなどでは「悪役(あくやく)」ということが多い。
[松井俊諭]
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…今日では演劇一般,映画でも使われ,〈悪役〉ともいう。元禄時代には敵役(てきやく),悪人方,悪方(いやがた)ともいっていたが,のちに〈かたきやく〉という呼び方におちついた。時代が下り役の種類が複雑化するにつれて,いろいろな名称が生まれた。…
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