農村(読み)ノウソン

デジタル大辞泉 「農村」の意味・読み・例文・類語

のう‐そん【農村】

住民の大部分が農業を生業としている村落。「農村地帯」
[類語]村落集落漁村山村

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精選版 日本国語大辞典 「農村」の意味・読み・例文・類語

のう‐そん【農村】

  1. 〘 名詞 〙 住民の大部分が農業を生業としている村。農家が集合した村。
    1. [初出の実例]「この百年の間にも農村の経済は烈しい変遷をして居る」(出典:旅行の話(その一)(1916‐17)〈柳田国男〉六)

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改訂新版 世界大百科事典 「農村」の意味・わかりやすい解説

農村 (のうそん)

農業に従事している人々がおもに居住している地域。農業には比較的広い土地が必要なことから,散在する農場や農家の構成する小集落の形をなすことが多い。一般に地域社会は都市と農村という二つの類型に分けられるが,農村の特質を示すものとしての両者を区分する基準については,ソローキンが職業,環境,地域社会の規模,人口密度,人口の異質性,階層分化,人口移動,相互作用の型という8指標をあげたのをはじめ,多くの考え方が示されてきた。日本の場合,かつては市制施行地域が都市に,その他の郡部が農村に相当するとされていたが,今日では市制施行にあたって周辺の農村部までを含めて市域を設定することが多くなり,行政区域に基づいて都市と農村を区別することはできなくなった。さらに近年は生活様式の面で全般的に都市化が進み,都市と農村の区別が困難になるとともに,農家の兼業化が拡大して都市への通勤者が増加し近郊農村を中心に非農家で農村部に居住するものが増加して混住化が進むようになり,居住人口の職業構成の面からも都市と農村の区別が曖昧になってきている。

 当然のことながら農村のあり方は農業生産によって規定される部分が多く,歴史的にも地域的にもバラエティをもっている。作物の種類は農業労働の状況に差を生じ,農村の社会組織に影響する部分が大きい。平地農村と山地農村などの地形的条件の差も大きく,水田農村と畑作農村の区別や,都市近郊農村と遠隔地の便益性の乏しい農村などの差も無視できない。歴史的類型としては,アメリカの農村社会学者サンダーソンErza Dwight Sanderson(1878-1944)の原始農業村落,村落共同体,近代農業村落,コミュニティ,大規模農場の区分が著名である。近代以前の村落共同体と近代的農村の諸形態との間に大きな差があることはいうまでもないし,また近代的農村の中では,主として家族経営の小農によって地域社会が村落として形成されている場合,農家は農場に散在していて中心の都市的集落と一体になってコミュニティを形成する場合,大きな集団農場などが一つの地域社会を形成している場合など,それぞれに農村のあり方としては差異がある。

 資本制社会においては,農業は限られた土地に大きく依存し,しかも自然に支配されることが多いだけに工業に比べて発展が制約され,徐々に不利な位置に追いこまれて深刻な農村問題を引き起こすことになる。明治以降,日本では西欧諸国におくれて工業化を進め,きわめて速いテンポで西欧諸国に追いつこうとしただけに,農村は日本の経済発展を支える重要な役割を負わされた。先進工業諸国に追いつくために,伝統的な社会制度を活用しつつ,労働者と農民を低い生活水準においたまま急速な富国強兵策がとられた。その結果,農村には過剰人口が堆積し,寄生地主制の展開につれて高い小作料負担におわれる小作農が増加した。こうした状況の下で農村の統合を維持するために,封建遺制ともみなされる家父長的な家族制度ときびしい規制をともなった村落が機能を果たした。

 第2次大戦が終わり,日本社会の民主化が目ざされる中で農地改革をはじめ多くの改革が行われ,農村の状況は大きく変化した。これに加えてさらに大きな変化をもたらしたのは,1960年代以降の経済の高度成長である。重化学工業を中心とした大規模な工業生産の発展は,一方では農業から第2次・第3次産業への大量の労働力移動を引き起こし,他方では農村を工業生産物の市場にまき込むことになった。農業生産の機械化が急速に進み,農家の生活様式もまたたくまに都市化した。それをまかなうためには農家所得が高まらねばならないが,零細な経営規模の農業ではそれをまかなうことはできず,農家は急速に兼業化し多くの農外所得に支えられて農家生活を送ることになる。農業によって適正な水準の生活を送ることのできる自立的経営を拡大することは,農業政策のうえでも重要な課題とされているが,兼業農家の滞留や地価の騰貴などに妨げられて,容易に進展しえない。さらに食料需給構造の変化にもかかわらず,兼業化の中で労働力負担が少なく価格保障のある作物としての稲作への集中が生じる結果,一方では多くの作物を海外からの輸入に依存しているにもかかわらず米の生産過剰が生じ,水田転作を進めざるをえなくなって農家の生産意欲をも大きく阻害する結果を生んでいる。こうしたなかで,農村には過疎化(過疎・過密)と高齢化という形で人口構成の著しいゆがみが生じる。若年人口が都市へ流出して人口の絶対量が減少し,それまで維持されてきた地域社会の運営に支障が出る地域も生じている。また若年人口の減少は出生率の著しい低下を招いて,農村人口の再生産にも問題をなげかけている。
農村社会学 →
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「農村」の意味・わかりやすい解説

農村
のうそん

農業者が居住する村落をいう。現在は農業者のみが居住する純農村は少なく、農業者が養蚕、畜産、山林などを兼営したり、漁業を兼ねる場合が少なくない(半農半山村、半農半漁村など)。日本では1953年(昭和28)の町村合併促進法によって全国的に町村合併が進められて地方自治体の管内が広域化し、市、町という行政区域内にも農村集落が多く含められている。

[浅香幸雄]

立地・形態

先史・古代には、飲料水や耕地の得やすい湧泉(ゆうせん)や川のほとり、水害のおそれのない微高地、日照に恵まれた土地などが集落の立地地区として選ばれ、中世・近世と時代を経るにしたがって人口が増加し、飲料水の取得や灌漑(かんがい)・排水の技術が発達し、それらの組織が強化されるに伴って扇状地、台地、低湿地、丘陵、山地へも集落地域が拡張されるようになっていった。また熱帯地域の高原地帯や砂漠のオアシス、季節風の激しい砂丘や台風地域では風下斜面が集落立地の好条件地域として選ばれている。農村集落の形態は、土地区画(土地割)、道路網、耕地の形とその分散状況などと結合して決定され、そこでの生活や生産活動・機能にも深くかかわっていて、集落形態の研究は早くから地理学の主要研究課題とされてきた。集落の平面形態は、家屋が密集した集村と、各家屋が分散した散村(散居村)に大別される。アジアやヨーロッパの農村には集村が多く、アジアでは水稲耕作に使う農具の貸借や労力の交換に好都合で、ヨーロッパの三圃(さんぽ)式農業地域でも共同作業に便している。自然発生的な集村には家屋が不規則に密集した塊村が多いが、計画的に開拓された集村では家屋が細長く並んだ列状村や規則正しい形態のものが多い(例、日本の武蔵野(むさしの)その他の新田集落)。散村は、日本では礪波(となみ)平野(富山県西部)、出雲(いずも)平野その他にみられ、外国では、ヨーロッパの北西部(スカンジナビア、バルト海沿岸諸国)、中部(ライン河谷、オーストリアのチロル)、南部(スペイン北西部、イタリアのロンバルディア平原)、北アメリカ(アメリカ合衆国、カナダ)、南アメリカの平原にみられる。その分布は日本では大部分が不規則であるが、北海道の屯田兵(とんでんへい)村や欧米のものは規則正しいのが特色である。

[浅香幸雄]

農村社会

農村はもともと土地に強く結び付いて自給的な経済生活を主とし、集落も小さく人口密度も低かった。村民は祖先伝来の家に住み、村民相互はよく知り合っている。田植の共同作業の慣習が長く続けられ、互いに農作業や農業技術を学び合ってきた。また冠婚葬祭の手助けはもとより、講や村内での共同飲食の習慣は、新年をはじめ春秋の祭礼・農休などのおりにはいまも続けられている。農村人が自由な発言を差し控え、大勢に順応する気風が目だつとされるのは、こうした生産と生活のなかに醸成されてきたのであった。さらに村民間には、本家・分家、所得格差、教養や社会的活動の差などが加わって、村民間に階層差ができている。

[浅香幸雄]

日本農村の変貌

第二次世界大戦前には、日本の農村には共同体秩序と封建的性格の残存がみられたが、戦後はそれらは一掃され、村民気風は著しく変貌(へんぼう)している。農地解放によって地主制は解体され、小作農は地主との従属関係から解放され、村民間の階層差は著しく縮小して平均化の途をたどった。続いて日本経済の高度成長に伴って都市地域に大いに工業がおこって、多くの農村民は工業労働力となって都市へ通勤し、あるいは移動した。このため農村では専業農家が減少して兼業農家と非農家が増加し、農村人口は減少しつつある。しかし農業そのものの体質改善が行われ、蔬菜(そさい)、花卉(かき)(草花)、果樹、家畜などが導入され、特産地化しているものが少なくなく、多彩な様相を呈している。また兼業農家でも、就業先の業態によっては、すべてが所得の安定が図られているとはいいがたく、季節的離職がみられる場合も少なくなく、安定した兼業を求める声も聞かれる。

[浅香幸雄]


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百科事典マイペディア 「農村」の意味・わかりやすい解説

農村【のうそん】

おもに農業を生業とする人びとが構成する地域社会。山村漁村とともに都市に対する村落の呼名。多くは封建制下の農村の歴史的特質を受け継ぎ,父祖伝来の農業に家族が一体となって従事する住民の集団を主体とし,人と人との間の直接的接触性,血縁的結合が強く,閉鎖性,保守性等を特徴とするとされる。しかし資本主義の浸透とともに生産・消費を通じて都市を中心とする市場に巻き込まれ,農村の社会構造は変質した。とくに第2次大戦後の日本では,農地改革とつづく高度経済成長によって大きく変化し,生活様式も都市化した。また,中心作物である米の生産過剰,若年者の流出,過疎化(過疎・過密)などが問題となっている。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「農村」の意味・わかりやすい解説

農村
のうそん
rural village

経済生活の基礎を農業におく村落。平地の村では住民の多くが農業に従事しているので,一般に田舎を農村といい,都市に対する言葉としても用いられている。農村のなかには,古くから村落立地の条件に恵まれたところに自然発生の集落として成立したものもあるが,歴史時代以降,荒地を開墾したり,臨海の低地や湖沼の沿岸などを干拓して耕地として形成された開拓集落もある。

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