翻訳|farce
一般には,笑わせることだけを目的とした滑稽な劇と考えられているが,元来は中世フランス世俗劇の一つ。ファルスともいう。語源的にはラテン語ファルキレfarcire〈詰め込む〉に由来するフランス語farce〈挽肉の詰物〉からきており,中世の劇上演の際,主要演目である聖史劇(宗教劇)などの幕間に詰物のごとく挿入された小品を意味するとの説と,各種地方語,隠語,地口,雑多な滑稽味が詰め込まれた小品との説がある。先駆的作品としては13世紀後半の《少年と盲人》や,ジャンルこそ違え,ファブリオー,狐物語などが考えられるが,笑劇そのものの隆盛は15世紀である。同じ時期には,主としてフランスで人気のあった道化役者(ソーsot(馬鹿者)と呼ばれた)の芝居,ソティsotie(阿呆劇)や,《エブリマン》に代表される道徳劇も流行する。しかし笑劇だけが後世まで生き残り,16,17世紀に至るまでフランス全土に栄える。特に17世紀の大喜劇作家モリエールは笑劇に新たな生命を与え,今日一般に言われる広義の笑劇が成立した。笑劇に類似するものとして,ローマのアテラ劇,イタリアのコメディア・デラルテ,日本の仁輪加(にわか)芝居などがある。ただし時代が下るにつれ,洋の東西を問わず卑俗な滑稽劇にむやみに笑劇というレッテルを貼る傾向がある。
笑劇の面目は現実の庶民生活,風俗に見いだされる純粋にコミックな要素を取り上げ,風刺することにあった。メーンテーマは色恋沙汰である。中心人物は女房族で,そろって尻軽,がみがみ屋,亭主を尻に敷く。甲斐性なしの亭主に愛想を尽かし,間男で憂さを晴らす。女房の相手には,ぺてん師あり田舎貴族ありだが,際立っているのは色好みの聖職者たちである。損な役回りの亭主族も,時として逆襲に転じ,《たらい》のごとく,みごと,女房に復讐を果たす者もいる。観客の大部分を占める男たちは,女形を含む男優だけが演じる笑劇の舞台を観ながら,時に己より間抜けな亭主を笑ったり,時にへこまされた女房の姿にひそかな溜飲を下げたりしたのである。
笑劇はさらに,馬鹿な老人,衒学(げんがく)者,三百代言,いんちき医者など,あらゆる滑稽な人間を対象とする。修道士ギヨーム・アレシスGuillaume Alexis作とも伝えられる《ピエール・パトラン先生Maître Pierre Pathelin》(1464?)は,ぺてん師まがいの代言人パトランを主人公に,だました奴がだまされる,中世笑劇の最高傑作である。
執筆者:鈴木 康司
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…キリスト教の典礼や物語にのっとった宗教劇は,バロック時代の劇作や,J.deロトルー《聖ジュネスト》,コルネイユ《ポリュクト》あるいはラシーヌ晩年の2悲劇の例はあるものの,以後は19世紀末のP.クローデルの出現まで姿を消す。 中世ゴシック都市における大聖史劇上演には,同時代の他の舞台表現,すなわち〈阿呆劇(ソティsottie,sotie)〉〈教訓劇(道徳劇)moralité〉〈笑劇farce〉などもプログラムに組み込まれることが多かった。なかでも阿呆劇のカーニバル的反世界と笑劇の風刺的喜劇性は,イタリアやスペインの喜劇の影響とともに,17世紀喜劇の底流を作る(日本で飯沢匡翻案狂言《濯ぎ川》ともなった《洗濯桶》や《ピエール・パトラン先生》等)。…
…キリスト教の典礼や物語にのっとった宗教劇は,バロック時代の劇作や,J.deロトルー《聖ジュネスト》,コルネイユ《ポリュクト》あるいはラシーヌ晩年の2悲劇の例はあるものの,以後は19世紀末のP.クローデルの出現まで姿を消す。 中世ゴシック都市における大聖史劇上演には,同時代の他の舞台表現,すなわち〈阿呆劇(ソティsottie,sotie)〉〈教訓劇(道徳劇)moralité〉〈笑劇farce〉などもプログラムに組み込まれることが多かった。なかでも阿呆劇のカーニバル的反世界と笑劇の風刺的喜劇性は,イタリアやスペインの喜劇の影響とともに,17世紀喜劇の底流を作る(日本で飯沢匡翻案狂言《濯ぎ川》ともなった《洗濯桶》や《ピエール・パトラン先生》等)。…
※「笑劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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