日本大百科全書(ニッポニカ) 「ぬえ」の意味・わかりやすい解説
ぬえ
鵼または鵺などと書かれる怪鳥の名称。本来はトラツグミといい、山林に生息して夜さみしい声で鳴く鳥という。『古事記』上巻の八千矛神(やちほこのかみ)の長歌に「青山に鵼は鳴きぬ」という歌句がある。『平家物語』には、近衛(このえ)天皇が夜になるとおびえられるので、源頼政(よりまさ)が勅を奉じてぬえを退治した物語が記されている。夜中に黒雲が現れ、その中に怪物が見えたので頼政はこれを射落とし、従者の井の早太(いのはやた)が刺し殺した。怪物は、頭は猿、むくろは狸(たぬき)、尾は蛇、手足は虎(とら)の姿、鳴く声はぬえであった。これが源三位頼政のぬえ退治(げんさんみよりまさのぬえたいじ)として今日まで伝えられている。
[大藤時彦]