化学辞典 第2版 「ぬれ」の解説
ぬれ
ヌレ
wetting
液体と固体とが付着する現象を“ぬれる”といい,それにいろいろの程度が考えられる.液滴を水平においた固体表面上におくと,液滴と固体面との間に種々の角度を保って静止するのが見られる.このとき,固体表面と液滴との接触点において,これに引いた接線と固体表面とのなす角を接触角(θ)とすると,液体および固体の種類によってθの値がかわり,次の関係がT. Youngによって考えられた(1805年).
γ1 = γ1,2 + γ2 cosθ
ここに,γ1,γ2 および γ1,2 はそれぞれ固-気,気-液および固-液界面張力である.固-液および固-気界面張力は,液体の表面張力と同様な収縮力は考えにくいが,現在では,熱力学的に上の関係は成立するものと考えられている.また,液体と固体が接触するときの界面エネルギーの変化から考えて,付着の仕事 Wa は,A. Dupre(1869年)によって
Wa = γ1 + γ2 - γ1,2
で与えられているので,上式と組み合わせて
Wa = γ2(1 + cosθ)
となり,さらに液体の凝集の仕事を Wc とすると
γ2 = Wc/2
となるので
Wa = (1/2)Wc(1 + cosθ)
となり,接触角θが液体と固体面との付着力,すなわち“ぬれやすさ”の目安となる.そして,θ = 0のとき,完全にぬれることになる.厳密には,上の諸量は液体の飽和蒸気と平衡する状態で測定されるべきである.W.A. Zismanは,種々の表面張力を示す液体を固体面(ポリエチレンやテフロンなど)の上において接触角を測定して,cosθ = 1,すなわちθ = 0になるときの液体の表面張力 γc が固体面に特有な値を示すことを発見して,これをその固体の臨界表面張力(critical surface tension)とよんだ.その値(dyn cm-1)は,ポリエチレンでは31,ポリスチレンでは43,ナイロンでは42~46になることを示した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報