通常、液体の表面でその表面積を小さくするように働く力をいう。水滴や水銀の粒子が丸くなるのはこの力のためであることはよく知られている。一般的には、気相、液相、固相の組合せで、気‐液、気‐固、液‐液、液‐固、固‐固の5種類の界面が考えられるが、とくに気‐液および気‐固の界面を表面といい、したがって表面張力は、二相間の界面において生じる、界面の面積を縮小するように働く力、すなわち界面張力の一種である。
表面張力が生じるのは、表面における液体分子の分布と配向が相の内部と異なるためである。液体内にある分子は、その周囲に存在する分子から引力を受けているが、表面にある分子は、その周囲にある分子数が内部の分子に比べて半分となり、受ける引力も半分となる。このことは、表面の分子は内部の分子に比べて余分のエネルギーをもっていることを意味する。このように表面における分子の状態が表面張力を決定している。
表面張力は、通常、単位長さ当りの力(dyn/cm=10-3N/m)で表される。もし液体の表面を広げようとすると、この張力に抗して仕事をしなければならない。液体の単位面積の表面をつくるのに要する仕事もすなわち表面張力と同じである。この仕事は自由エネルギーとして表面に蓄えられるわけであるから、表面張力は単位面積当りの表面自由エネルギー(erg/cm2=10-3J/m2)とも等しい。
多くの液体の表面張力は常温付近では温度に対して直線的に低下する。液体の温度が上昇すると、分子の熱運動が盛んになって分子間距離が増大し、そのため分子間引力は小さくなって表面張力は低下する。臨界温度になれば表面張力はゼロになる。
いくつかの物質の常温における表面張力を次に示す。水=72.75、エタノール=22.55、ベンゼン=28.9、クロロホルム=27.2、酢酸=27.7、トルエン=28.4、水銀=475(20℃、dyn/cm)。水銀の表面張力が非常に大きく、また水の表面張力も他の有機溶媒に比べて大きいことがわかる。水に界面活性剤を加えると、わずかの量でも表面張力が急激に減少する。これは、溶液の表面自由エネルギーが減少するように活性剤が溶液表面に移動し、表面の濃度が内部に比べて大きくなるためである。
[篠塚則子]
静的な条件で測定する方法と動的な条件で測定する方法がある。純粋な液体では表面張力はすぐ平衡に達するが、溶液では平衡に達するのに時間がかかる場合があり、静的な方法での測定には細心の注意が必要である。
静的測定の代表的方法に、毛管法、滴重法、泡圧法、輪環法などがある。このうち、毛管法はもっとも簡便で、液体でぬれるような毛細管を液中に浸し、毛管中を上昇した液の高さが表面張力と比例することを利用する方法である。輪環法はジュヌーイの表面張力計とよばれ、白金の環を液面に水平に触れさせ、静かに引き上げて液面から離れようとする瞬間に環に作用する表面張力とつり合う力を秤(はかり)で測定する方法である。
動的方法には、液面に小さな波をおこしてその進行速度と波長を測る表面張力波法や、ジェット法などがある。
[篠塚則子]
『中垣正幸著『表面状態とコロイド状態』(1968・東京化学同人)』▽『渡辺信淳・渡辺昌・玉井康勝著『表面および界面』(1973・共立出版)』
液体の表面積を縮小させようとする力。外力の影響がなければ液体は球形になる。面内に微小線分をとるとき,両側の面は,線分をはさんでその線に垂直でかつ面内にある,互いに引き合う力をおよぼし合うが,その大きさは線分の方向によらない。ふつう,単位長さ当りの力をとって表面張力という。
表面張力は液体内部では等方的に働いている分子間力が,表面ではあまって現れるものであり,温度を一定に保って表面積を単位面積だけ広げるに要する仕事に等しい。このような形で表面に蓄えられると考えられるエネルギーを一般に表面エネルギーと呼ぶ。小さな水滴が球状の形をとったり,シャボン玉が球形になるのも,表面積を小さくして表面エネルギーを極小にする効果と考えられる。液体の表面張力は温度を上昇させると分子運動が激しくなるために減少する。また不純物の存在によって著しく影響を受け,とくに表面活性の物質は表面張力を極度に低下させる。
このような力は液体と液体,液体と固体,固体と気体など,異なる相の境界面においても存在し,一般的には界面張力と呼ばれる。例えば固体の表面に液体がある場合,その接触角αは,固体-液体,液体-気体,気体-固体の界面張力をそれぞれT1,T2,T3とすれば,水平方向の合力のつりあいからT1+T2cosα=T3の関係によって定まり,T1が小さい(固体が液体にぬれやすい)と鋭角になる。また図のように二つの流体A,Bの界面に液体Cがあるようなときは,A-B,B-C,C-Aの間の界面張力をそれぞれTAB,TBC,TCAとすると,もしTAB>TBC+TCAであればつりあいが成り立たず,Cは水面に落とされた石油や界面活性剤のように薄くなって広がっていく。なお,毛管現象も表面張力の存在によって生ずる現象である。
執筆者:橋本 英典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
液体にはすべてその表面積をできるだけ小さくしようとする傾向があって,外力の作用が無視できるようなときには球形に近い形をとる.これは液体の分子間力のため,表面の分子を液体内部に引き込もうとする結果として現れる現象で,液体表面上にはたらく収縮力あるいは張力となる.これを(液体の)表面張力といい,液面上の直線に直角にはたらく力として観測される.これはこの表面を単位面積だけ等温的に拡張するのに要する仕事と数値的に等価であって,熱力学的には単位表面積に蓄えられる自由エネルギーと考えることができる.全表面エネルギーをU,表面自由エネルギー(表面張力)をγ,絶対温度をTとすれば,
となる.右辺第二項は表面潜熱である.液体の表面は可逆的に伸縮するので,一種の弾性力のようにみえるが,表面積の変化と力との間にはフックの法則(Hooke's law)は適用されない.この種のエネルギーは液体表面だけでなく,液-液,液-固,気-固,固-固など,各種の界面にも同様に考えることができる.これを界面エネルギーという.しかし,固体面では分子の運動が束縛されているので,短い時間内の現象としてその伸縮を観察することは困難で,したがって一般に固体の表面張力の測定は困難であるが,液体と固体との付着性(ぬれ)では重要な問題となる.液体の表面張力γと絶対温度Tとの関係はRamsay-Schields(1893年)によって,
で示された.ここに,Mは液体の分子量,ρは密度,Tc は液体の臨界温度,kは定数,τは6°に近い値で,γは Tc 付近で消滅することを示す.[別用語参照]ラムゼー-シールズの式
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…前述の水銀をガラスの上においた場合がこれで,このようなときはよい接着は期待できない。 表面張力surface tensionは分子間力をマクロな姿として反映するので,ぬれの問題を表面張力の観点で考察することは接着性を判断するうえで有益な場合が多い。表面にある分子は外側に分子がほとんど存在しないので,分子間力による外側との引合いができず,内側に引かれた状態にある。…
※「表面張力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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