ポリエチレン(読み)ぽりえちれん(英語表記)polyethylene

翻訳|polyethylene

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポリエチレン」の意味・わかりやすい解説

ポリエチレン
ぽりえちれん
polyethylene

本来はエチレンCH2=CH2重合体ポリマー)すべてをさすが、現在ではプラスチックなどに用いられる高重合体のみをいう。ポリプロピレンポリ塩化ビニルポリスチレンとともに、四大プラスチックの一つ。PEと略称される。エチレンは天然ガスや石油のクラッキング(重質石油を分解して沸点の低い軽質石油を製造すること)で得ている。エチレンの重合方法によって性質の異なったポリエチレンになる。普通は密度の値で区別しているが、重合法の発明者の名前や、方法の特徴などでよばれることもある。

[垣内 弘]

分類と製法

一般に3種類に分類される。日本工業規格(JIS(ジス))では、低密度(LDPE=Low Density Polyethylene)および中密度品は軟質で、高密度品(HDPE=High Density Polyethylene)は硬質としている。

[垣内 弘]

低密度ポリエチレン

エチレンにごく少量の酸素を触媒として加え、1000ないし2000気圧の高圧、100~300℃の温度で重合させるので、高圧法ポリエチレンともいわれる。この製法はイギリスのICI社が開発した方法(1939)で、ICI法ともいわれる。さらに超高圧法(7000気圧)がアメリカのデュポン社で開発されている。日本ではICI法とその改良法が主流で、2002年度(平成14)に約179万トン生産されている。

[垣内 弘]

中密度ポリエチレン

過酸化ベンゾイルを開始剤として約500気圧、115~120℃で重合させるドイツのBASF社の方法が有名である。高密度のものと低密度のものとをブレンドする方法もある。

[垣内 弘]

高密度ポリエチレン

特殊な有機金属触媒ツィーグラーナッタ触媒)を用い、常圧ないし10気圧程度、60~80℃で重合させる。低圧法といわれている。またアメリカのフィリップス社では30~40気圧、100~170℃でクロミア‐アルミナ系触媒を用いる中圧法、モリブデン酸‐アルミナ系触媒を用いるスタンダード社法という中圧法などが開発されている。日本でも二、三の化学会社で生産されている。HDPEの生産量は2002年度で約118万トンである。

[垣内 弘]

製造プロセスの発展

各種のポリエチレン製造プロセスを述べたが、1997年ごろから以下のような新しいプロセスの発展がみられる。

(1)低密度ポリエチレンをつくる高圧法プロセスは、反応時間が短いことが特徴で、20~120秒である。しかし高圧設備のため設備費や運転コストが高く、中低圧法の直鎖状低密度ポリエチレンLLDPE)を製造する転換プロセスに置きかわっている。

(2)高密度ポリエチレンの製造法として、中低圧法のスラリー重合が成熟してきた。スラリー重合は、重合体の融点以下で、重合体が融解しないスラリー(非溶解性固体を細分化して液体に分散させた懸濁液)の状態で重合を行う方法である。触媒としてツィーグラー系かクロム系フィリップス触媒が使われている。

(3)溶液重合は単量体(モノマー)を溶媒に溶かして重合する方法であるが、エチレンにほかの単量体を共重合(2種類あるいはそれ以上の単量体を用いて行う重合)させるのに有効な方法で、超低密度ポリエチレン(ULDPE)製造のプロセスでもある。反応終了後の溶媒の回収に多量のエネルギーを必要とする。

(4)各種密度のポリエチレンをつくる中低圧法の気相重合(気体状態の単量体中で進行する重合)が開発されている。反応時間が長く反応率が低いが、高密度から低密度までの各種グレードのポリエチレン製造法として注目されている。ツィーグラー‐ナッタ触媒の高活性化触媒としてメタロセン触媒がある。1980年ハンブルグ大学の教授ワルター・カミンスキーWalter Kaminskyにより発見されたジルコノセンジクロリドに代表されるメタロセン化合物にメチルアルモキサンを助触媒とする触媒系で、有機溶媒に可溶で重合活性が高く、従来の方法に比べて分子量分布が狭く、その他の物性面についても優れたポリエチレンを与える。

[垣内 弘]

性質

ポリエチレンは、分子量の大小や重合方法によって分子構造が異なり、そのために性質が異なる。分子量は数千から数十万のものがあり、とくに超高圧法では100万以上の分子量をもっている。さらに低密度ポリエチレンの分子は直鎖状でなく、ところどころ分岐している。規則的な配列をしていないため結晶化しにくいので軟らかい。高密度ポリエチレンはだいたい整然とした直鎖状をしているので結晶部分が多く、硬質になる。各鎖の末端はメチル基-CH3であるから、分子中のメチル基の数によって分岐の程度がわかる。高密度のものは低密度のものに比べて軟化温度が30℃も高く、機械的強度も大きい。しかしフィルムにしたりチューブに押し出す加工の容易さ、フィルムのしなやかさ、透明性などは低密度のほうが優れているので、用途に応じて選択される。

 ポリエチレンの一般的性質としては、乳白色半透明で水より軽く、燃焼するとパラフィンと同様でぽたぽた落ちていく。耐水性、電気絶縁性、耐酸・耐アルカリ性に優れている。熱安定性もよく成形しやすい。欠点としては、軟化点が低いことと、化学的に不活性のため直接に印刷したり、接着させることがむずかしい、などである。接着のかわりには溶着法を用いる。これには、加熱→溶融/冷却→固化という熱可塑性樹脂の性質を利用した熱溶着法がある。熱板を直接プラスチックに接触させる熱板溶着法、振動を加えその摩擦熱で溶融・接合させる振動溶着法などである。

[垣内 弘]

用途

もっとも生産量の多いプラスチックであり、その生産量は日本国内では2002年で約318万トンに達している。用途はフィルム、シート、瓶、タンクなどの中空容器、パイプ、電線被覆として海底電線ケーブルや電話架線、ラジオ、テレビ、レーダーなどの高周波絶縁材料、合成繊維など多方面にわたっている。

[垣内 弘]

『工業調査会編・刊『プラスチック技術全書8 ポリエチレン樹脂』(1970)』『辻川浩雄ほか著『工業化プロセス』(1987・日刊工業新聞社)』『高分子学会編『共重合3 工学解析』(1987・培風館)』『功刀利夫ほか著『高強度・高弾性率繊維』(1988・共立出版)』『R. J. Ehrig編著、プラスチックリサイクリング研究会訳『プラスチックリサイクリング――回収から再生まで』(1993・工業調査会)』『松本喜代一著『フィルムをつくる』(1993・共立出版)』『日本化学会編、今井淑夫・岩田薫著『高分子構造材料の化学』(1998・朝倉書店)』『小松公栄ほか著『メタロセン触媒でつくる新ポリマー――新製品の開発・生産性の向上』(1999・工業調査会)』『曽我和雄編『メタロセン触媒と次世代ポリマーの展望』(2001・シーエムシー)』『松浦一雄・三上尚孝編著『ポリエチレン技術読本――触媒・製造プロセスの進歩と材料革新』(2001・工業調査会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポリエチレン」の意味・わかりやすい解説

ポリエチレン
polyethylene

エチレンの重合によって得られる合成樹脂。比較的安価に製造されるため,最も広く使用されている合成樹脂の一つで,石油化学工業の中心製品である。触媒の違いにより高圧法,中圧法,低圧法などの製法があり,それぞれ製品の性質が異なる。高圧法は 1000~3000 kgf/cm2 の高圧でエチレンを液化し,150~300℃の高温でラジカル重合によりきわめて短時間反応させることによって重合体を生成する方法である。この方法では生成した重合体に枝があって結晶化しにくいため,密度が 0.91~0.92と小さく,高圧ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンと呼ばれる。低圧法はチーグラー型触媒 (四塩化チタンとトリエチルアルミニウム) により,常圧から 10 kgf/cm2 の低圧で 60~80℃と比較的低温で配位重合により重合体を生成する方法である。生成重合体は枝が少く,結晶性が高いため,密度が 0.94~0.95と大きく,低圧ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンと呼ばれる。高圧ポリエチレンは軟らかくて延びやすく,軟質ポリエチレンとも呼ばれ,軟質フィルム,加工紙などに用いられる。低圧ポリエチレンは硬く,強度が大きく,軟化点が高いので,硬質ポリエチレンとも呼ばれ,主として成形品 (バケツ,ごみ箱,ビールコンテナなど) に用いられる。ポリエチレンは耐薬品性,電気絶縁性がよいので,このほか多くの分野で使用されている。

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