改訂新版 世界大百科事典 「ネオピカレスク小説」の意味・わかりやすい解説
ネオ・ピカレスク小説 (ネオピカレスクしょうせつ)
neo-picaresque novel
第2次世界大戦後の1950年代からイギリスで流行した一連の小説に与えられた名称。J.B.ウェインの最初の小説《急いで下りろ》(1953)などがその典型で,主人公がまっとうな社会に属することを拒否し,職を転々と変えながら,既存の社会体制に対する痛烈な風刺の矢を加えていく。一貫した筋はなく,挿話の連続で,主人公の性格上の発展や精神的成長はない。18世紀に消滅していたと思われたピカレスク小説(悪者小説)の復活のように考えられるが,例えばI.マードックの《網の中》(1954)に見られるように,人間実存についての哲学的な思索が,一見支離滅裂な物語を深部で支えているなど,作者の知性が作品にあふれているあたりに,〈ネオ(新)〉という言葉が冠されている理由がある。20世紀心理小説が直面した行詰りを解決する一つの道として,行動性と滑稽と活力にあふれた小説が登場したのである。
執筆者:小池 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報