マードック(読み)まーどっく(英語表記)Jean Iris Murdoch

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マードック」の意味・わかりやすい解説

マードック(Keith Rupert Murdoch)
まーどっく
Keith Rupert Murdoch
(1931― )

「メディア王」といわれるオーストラリア出身の経営者で、ニューズ・コーポレーションの会長兼CEO(最高経営責任者)。オーストラリアをはじめ、イギリス、アメリカ、インド、香港(ホンコン)などで数多くの新聞・雑誌を発行し、テレビ会社をもつマードック・ファミリーを組織する。メルボルンに生まれ、オックスフォード大学卒業後、ロンドンの『デーリー・エクスプレス』紙で働きながら新聞経営を学ぶ。新聞社主であった父から『アデレード・ニューズ』紙などの経営を引き継ぎ、やがてオーストラリア唯一の全国紙『オーストラリアン』などを買収、「マードック帝国」の地歩を固めた。1969年イギリスに進出し、『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』『サン』紙などを買収、センセーショナリズムを売り物とする新聞づくりを行い、部数を拡大。1973年アメリカにも進出して、『ニューヨーク・ポスト』紙などを獲得(のちに売却、1993年度に再度買収)した。1980年にメディア複合企業「ニューズ・コーポレーション」を設立。1981年にはイギリスの『タイムズ』紙を買収、1983年にはシカゴの名門紙『サン・タイムズ』も買収した(のちに売却)。1986年5月、アメリカ三大TVネットワークに対抗する第四のネットワークFBC(フォックス・ブロードキャスティングカンパニー)を設立。1992年には映画のフォックス社社長兼会長に就任した。また通信・衛星放送への進出も目覚ましく、ニューズ・コーポレーションは日本のCSデジタル放送の運営会社「ジェイ・スカイ・ビー(JスカイB)」(1998年パーフェクTVと合併、スカイパーフェクTVとなり、2008年スカパーJSATとなる)の主要株主でもあった。1996年には、ニューズ・コーポレーションがソフトバンクと折半でテレビ朝日株式5136株(発行済み株式総数の21.4%)を買収したことが、大きな話題をよんだ(翌1997年、同株をすべて朝日新聞社が買い戻した)。また2000年には全米10テレビ局を所有するクリス・クラフト・インダストリーズ社を買収、ニューヨーク、ロサンゼルスなど大市場でのテレビ局数を着実に増やした。2007年にはウォール・ストリート・ジャーナルを発行する金融情報会社、ダウ・ジョーンズ社を傘下に収めた。なお1997年には、アメリカ大リーグロサンゼルス・ドジャースを買収、のちに売却している。

[鈴木ケイ・伊藤高史]

『ジェローム・トッチリー著、仙名紀訳『マードック――世界制覇をめざすマスコミ王』(1990・ダイヤモンド社)』『アレックス・B・ブロック著、渡辺昭子訳『米国メディア戦争(ウォーズ)最前線――全米TV界制覇戦略』(1991・角川書店)』『桂敬一著『メディア王マードック上陸の衝撃』(1996・岩波書店)』『江戸雄介著『孫正義とマードックとJ・ヤンの野望――起業家の雄とメディア王の今後』(1996・本の森出版センター、コアラブックス発売)』『今井澂・山川清弘著『マードックの謎――世界のメディア王』(1998・東洋経済新報社)』『ウィリアム・ショークロス著、仙名紀訳『マードック――世界のメディアを支配する男』(1998・文芸春秋)』『スチュアート・クレイナー著、村山寿美子訳『マードック「直観」の法則――こうすればリスクが成功に変わる』(2000・PHP研究所)』『Michael LeapmanArrogant Aussie ; The Rupert Murdoch Story(1984, Lyle Stuart Inc., New Jersey)』


マードック(Jean Iris Murdoch)
まーどっく
Jean Iris Murdoch
(1919―1999)

イギリスの女流小説家。ダブリン生まれ。オックスフォード大学を卒業後、母校の哲学講師を15年間務める。批評家ジョン・ベイリーJohn Bayley(1925―)は夫。評論『サルトル、ロマン主義的合理主義者』(1953)に次いで出た処女長編『網のなか』(1954)は、レーモン・クノーを思わせる知的な構成を軽やかな滑稽(こっけい)さとふくよかな叙情性を備えたどたばた喜劇で、読書界は喝采(かっさい)を送った。続いて『魅惑者からのがれて』(1956)、『砂の城』(1957)と、イギリス風俗小説と現代フランスの実存主義小説の融合したような味わいの作品を発表、人間関係の稠密(ちゅうみつ)な組合せの実験を行った。第四作『鐘』(1958)はそうした試みの頂点といえよう。

 その後、作風は黒いユーモアやグロテスクな設定に傾き、『切られた首』(1961)、『一角獣』(1963)、『イタリア女』(1964)などのようなゴシック小説風の作品が多くなったが、『偶然にもてあそばれる男』(1971)では笑いと叙情性とが大きな哲学的な主題に結び付いた、本来の彼女の調子にふたたび戻った。その後も謎(なぞ)解きの要素をもつ『ブラック・プリンス』(1973)、シェークスピアの『あらし』を枠組みにした『海よ、海』(1978。ブッカー賞受賞)、『哲学者の弟子たち』(1983)など、ほとんど毎年一作を送り出し、しかも水準以上の問題をはらんだ作品を執筆し続ける現代イギリスでもっとも力ある作家であった。1997年、夫によってアルツハイマー病にかかった旨が宣言され、世界の読書界に衝撃を与えた。

[出淵 博]

『野中涼著『アイリス・マードック』(1971・研究社出版)』『蛭川久康著『アイリス・マードック――幻想の不毛から愛の豊饒へ』(1979・冬樹社)』


マードック(George Peter Murdock)
まーどっく
George Peter Murdock
(1897―1985)

アメリカの人類学者。コネティカット州に生まれ、エール大学を1919年卒業。アメリカの文化人類学が著しい飛躍を遂げた第二次世界大戦後に、学界の指導者として果たした役割は大きい。その広範な理論的活動のなかでも、とりわけ名声を不動にしたものに、主著『社会構造』(1949)において展開された親族理論と核家族普遍説として有名な核家族の理論、および、のちに「人間関係地域ファイル」(Human Relations Area Files:HRAF(フラーフ))へと発展した通文化比較研究のシステムがあげられる。社会学、人類学、行動心理学などを総合した学際的な行動科学を構想していたが、この基本姿勢をもっとも忠実に反映しているのが先にあげた二つの業績であった。主著『社会構造』はHRAFに示される豊富な民族誌データのうえに統計的手法を駆使して展開された野心的な試みで、のちに多くの批判を集めはしたが、今日なお人類学史上類をみない労作と評価されている。

[濱本 満 2019年1月21日]

『内藤莞爾監訳『社会構造――核家族の社会人類学』(1978/新版・2001・新泉社)』


マードック(William Murdock)
まーどっく
William Murdock
(1754―1839)

イギリスの機械技術者。スコットランドのオーキンレック付近で生まれる。1778年ソーホーのボールトン‐ワット商会に入り、1779年にはコーンウォールでワット機関の組立てを指導した。石炭ガスを照明に使うというフランスのルボンPhilippe Lebon(1767―1804)の研究を聞き、1792年レッドルースで石炭ガスの実験を始め、レトルト式の炉による石炭の乾留、ガスの洗浄などの装置を考案、1802年アミアンの和約を祝するためソーホー工場をガス灯で照明した。1806年レトルト・パイプ・バーナーを製作し、マンチェスターの工場に設置した。ワットと協力し、蒸気機関の改良にも優れた業績を残した。

[山崎俊雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マードック」の意味・わかりやすい解説

マードック
Murdoch, Rupert

[生]1931.3.11. ビクトリア,メルボルン
ニューズ・コーポレーション (アメリカ第3のメディア・コングロマリット) の最高経営責任者。映画の 20世紀フォックス,出版のハーパー・コリンズ,『ロンドン・タイムズ』紙,ブリティシュ・スカイ・ブロードキャスティングなどの会社を所有している。オックスフォード大学ウースター・カレッジで政治学と経済学を学び,ビーバーブルックの『デーリー・エクスプレス』の編集にたずさわったのをきっかけにジャーナリズムの世界に入る。 1954年オーストラリアに帰り,父の遺産として引継いだアデレードの『ニューズ』『サンデー・メール』の2つの新聞と,鉱山町ブロークンヒルにあるラジオ局の経営に没頭。派手な見出しと買収を繰返し,64年オーストラリア初の全国紙『オーストレーリアン』を創刊。海外のメディアにも手を広げ,69年には手始めに,イングランドの労働者階級に人気のある老舗のタブロイド判日曜新聞『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』,さらに『サン』を買収。セックス,スポーツ,犯罪の記事に重点をおき,発行部数を1年以内に倍増させた。 70年にはロンドン・ウィークエンド・テレビジョンの部分的所有権を獲得し,これを足掛りにイギリスの放送界に関心をもちはじめ,それがスカイ・テレビジョンの衛星放送サービスへと発展する。また,サンアントニオの『ニューズ』,『エクスプレス』を買収し北アメリカに進出,76年にはニューヨークに転じて,アメリカで最も古い日刊紙『ニューヨーク・ポスト』をはじめ,『ビレッジ・ボイス』『ニューヨーク・マガジン』『ニュー・ウェスト』を買収。 85年メトロメディアのテレビ局6局を買収,アメリカ市民以外がテレビ局の 20%以上を所有することを禁じた法律に違反しないように市民権を獲得した。 87年,20世紀フォックスとメトロメディア局を合せ,フォックス・テレビジョン・ネットワークとし,その傘下には約 100局の独立局が姉妹局として参加した一大放送帝国を築き上げた。さらに『TVガイド』『セブンティーン』などの版元トライアングル・パブリケーションズを買収,これで,ニューズ・コーポレーションは,タイム・ワーナー,ガネットに次ぐ第3のメディア・コングロマリットとなった。 91年『ニューヨーク・マガジン』『セブンティーン』『レーシング・フォーム』を KIIIホールディングズに売却するなど,9つの刊行物を売払ったが,ホンコン,ハンガリーの新聞にも投資し,影響力をもち続けている。 98年アメリカ大リーグ球団ロサンゼルス・ドジャースを買収しスポーツ事業に参入した。

マードック
Murdoch, Dame Jean Iris

[生]1919.7.15. ダブリン
[没]1999.2.8. オックスフォード
イギリスの女流作家。作家 J.ベーリーの夫人。オックスフォード,ケンブリッジ両大学に学び,オックスフォードで哲学を講じた。『サルトル-ロマン的合理主義者』 Sartre,Romantic Rationalist (1953) のあと著作に専念,『網のなか』 Under the Net (54) ,『魔術師から逃れて』 The Flight from the Enchanter (56) ,『砂の城』 The Sandcastle (57) ,『鐘』 The Bell (58) ,『ユニコーン』 The Unicorn (63) など次々に作品を発表。特に 1970年代には『ブラック・プリンス』 The Black Prince (73) ,『愛の機械』 The Sacred and Profane Love Machine (74) など,年に1作のペースで精力的な活動を続けた。幻想と現実,自由と責任,自然と不自然などの問題を扱って,しばしば形而上学的な傾向を示しながら,観念臭を感じさせない,現代イギリスを代表する小説家の1人。 78年発表した『海よ,海』 The Sea,The Seaでブッカー賞を受賞した。

マードック
Murdock, William

[生]1754.8.21. エアシャー,オーキンレック
[没]1839.11.15. バーミンガム
イギリスの発明家。 1777年 M.ボールトンと J.ワットに雇われて,バーミンガムのソホー工場で働いた。2年後コーンウォールに移されて,ワット蒸気機関の設計,据付けの監督をした。その頃レッドルースで石炭乾留の実験を続け,92年石炭ガスで点灯することに成功。 99年バーミンガムに帰ってからは石炭ガスの精製,貯蔵法を改良して実用化した。 1802年アミアンの和約を祝ってソホー工場の外面をガス灯で照し,工場内にもガス灯を常設した。 07年ガス灯はロンドンの街路灯に用いられ,エジソンが電灯を発明する (1879) まで約1世紀にわたってガス灯の時代が続いた。また蒸気機関の改良についても,D字形スライドバルブ,遊星歯車機構など重要な発明を行なった。ほかに蒸気銃の発明 (03) も知られている。

マードック
Murdoch, James

[生]1856.9.27. イギリス,キンカーディン
[没]1921.10.30. オーストラリア,ボールカムヒルズ
イギリスの日本研究家。アバディーン大学のギリシア語助教授だったが,胸を病んでオーストラリアに移り,ウェスタンオーストラリア州とクイーンズランド州で中学校教師をし,1888年シドニーの有力新聞社のためにホンコンでクーリー(苦力)問題の取材活動にあたり,1889年訪日して九州の炭鉱事情を取材して『ジャパン・ガゼット』に寄稿。中津中学校教師,次いで第一高等学校講師(1889~93)を務めた。のち再び訪日して第四高等学校,第七高等学校の講師を歴任。この間,山県五十雄の協力で日本歴史の研究に従事し,メルボルン大学日本学教授となった。著書に『日本史』A History of Japan(3巻,1903~25)などがある。

マードック
Murdock, George Peter

[生]1897.5.11. コネティカット,メリデン
[没]1985.3.29. ペンシルバニア,デボン
アメリカの文化人類学者。エール大学で博士号を取得。 1960~73年ピッツバーグ大学教授。アメリカインディアン,ミクロネシア人などの現地調査を行い,通文化調査により人間行動の一般的法則の体系化に努めた。主著に,核家族の概念を提示した『社会構造』 Social Structure (1949) ,世界の民族誌的資料を分類,比較した"Ethnographic Atlas" (67) など。また 62年には民族学雑誌"Ethnology"を創刊,その編集を行なった。

マードック
Murdoch, James Edward

[生]1811.1.25. フィラデルフィア
[没]1893.5.19. シンシナティ
アメリカの俳優。せりふ回しにすぐれ,喜劇で人気を集めた。当り役は『から騒ぎ』のベネディック,『ロミオとジュリエット』のマキューシオなど。 1832年に誤ってヒ素を服用し,以来病身となるがその後も舞台活動を続けた。 58年に舞台を引退し,61年以後は朗読と講演活動に専念した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報