改訂新版 世界大百科事典 「ノーラ」の意味・わかりやすい解説
ノーラ
Nora
イプセンの問題劇《人形の家》(1879)のヒロイン。日本ではノラと呼ばれたが,原発音はノーラ。妻や母である前に人間だといって夫と3人の子どもを置いて家を出るノーラは,女性解放の象徴的人物とされ,その行動の是非が世界中で激しく議論された。北欧のあるサロンでは〈人形の家の議論お断り〉のはり紙まで出たという。ドイツ初演の際,主演の女優が子どもを捨てる場面を拒否,イプセンはやむを得ず子どもの寝顔を見て家出をやめるという結末に書き直したが,自らそれを〈野蛮行為〉と呼んだ。世界で最初のノーラ役はデンマークの女優ベティ・ヘニングスBetty Henningsだが,イタリアのE.ドゥーゼはじめ多くの大女優が好んでノーラを演じている。日本では松井須磨子が最初に演じた(1911)。女性解放雑誌《青鞜》がノーラの特集を組んで世間に訴えたが,無理解・反発も多く,特に男の側からは,家出しても〈野良(ノラ)犬〉になるばかりと揶揄されたり,婿が目覚めて家を出るパロディ劇が書かれたりもした。
執筆者:毛利 三彌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報