人形の家(読み)にんぎょうのいえ(英語表記)Et Dukkehjem

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

人形の家
にんぎょうのいえ
Et Dukkehjem

ノルウェーの劇作家 H.J.イプセン戯曲。3幕。 1879年コペンハーゲンで初演。弁護士の妻ノラは人形のように愛玩され,安易な生活をおくっていたが,秘密にしていた借金のことで夫になじられ,その偽善的な生き方を知り,現実に目ざめてゆく。妻,母であるより前に「人間として」生きるために夫や4人の子供を捨てて新しい人生に出発するノラの生き方は,当時の婦人解放運動との関連において大きな論議を呼起し,世界中で上演された。各国の名女優がノラを演じ,日本では松井須磨子のノラ (1911) が有名。

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デジタル大辞泉の解説

にんぎょうのいえ〔ニンギヤウのいへ〕【人形の家】

《原題、〈ノルウェーEt Dukkehjemイプセンの戯曲。3幕。1879年作。弁護士の夫から人形のように愛されていただけであったことを知ったノラが、一個の人間として生きるために夫と子供を捨てて家を出る。女性解放の問題を提起した近代社会劇の代表作。

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百科事典マイペディアの解説

人形の家【にんぎょうのいえ】

イプセン作の戯曲。《Et dukkehjem》。3幕。1879年作。弁護士の妻ノーラ・ヘルメルは,夫の病気を助けようと借金した際の証書の偽サインを夫の部下に発見され,苦境に立つ。そして家庭生活,夫の愛について疑いをいだき,かわいがられるだけの人形のような妻であったことを悟り,夫も4人の子も捨てて家をとび出し,一個の人間として生きようとする。女性解放運動の宣言とみられた問題作で,ノーラは〈新しい女〉の代名詞となったが,イプセン自身はこれを人間描写の劇とした。
→関連項目文芸協会松井須磨子

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世界大百科事典 第2版の解説

にんぎょうのいえ【人形の家 Et dukkehjem】

イプセンの3幕戯曲。1879年12月出版,同月コペンハーゲンで初演。物語はクリスマス・イブから3日間のできごと。ノーラはかつて,病気の夫をそれと気づかれずに転地療養させるため,おりしも亡くなった父の偽の署名をした借用証書で金を借り,ひそかに返済しつづけている。この罪の行為が暴露されそうになり,不安と焦りの中でクリスマスを過ごしたノーラは,真相を知ったときの夫の態度から,自分は夫にかわいがられている人形にすぎぬと悟り,人間の真のあり方を探るため夫と子どもを置いて家を出る。

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大辞林 第三版の解説

にんぎょうのいえ【人形の家】

イプセンの戯曲。三幕。1879年作。主人公ノラが自分は従順でかわいい人形でしかなかったことを悟り、一個の独立した人間として生きるために家を出る過程を描く。女性解放運動に大きな影響を与えた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人形の家
にんぎょうのいえ
Et dukkehjem

ノルウェーの劇作家イプセンの三幕戯曲。1879年ドイツ滞在中の作。同年コペンハーゲン王立劇場で初演され、作者の名を世界的にした。弁護士ヘルマーの妻ノラは、3人の子供の母であり、夫からは溺愛(できあい)されている。夫は新年から銀行の頭取に迎えられることになり、その喜びにあふれたクリスマスを背景に劇は展開する。ノラは新婚早々の夫が病気になって転地療養を必要としたとき、夫には内緒で亡父の名を偽署して高利貸から借金をしていた。その悪質男グログスタはいまはその銀行に勤めている。ヘルマーは頭取就任を機に彼を解職しようとするが、相手は例の偽署をたてに逆に夫妻を失脚させるとノラを脅迫する。ついに夫の知るところとなって、彼は最愛の妻に裏切られたとののしる。しかし、グログスタが昔の愛人と結ばれたことで心機一転、借金証を送り返してきて危機は解決され、夫はふたたび妻の意を迎えようとする。しかし、ノラは、自分がこれまでただ人形妻としてかわいがられていたにすぎぬことを知り、「妻であり母である前に一個の人間として生きる」ことを求めて、哀願する夫を振り切り、子供も残して家を去る。上演と同時に、女性解放論者と教会や守旧派との間に激しい賛否の論争がおこり、上演を禁止する国もあったが、ノラは「新しい女」の代名詞となった。日本では1911年(明治44)文芸協会で初演され、松井須磨子(すまこ)(ふん)するノラが大きな反響をよんだ。[山室 静]
『『人形の家』(竹山道雄訳・岩波文庫/矢崎源九郎訳・新潮文庫/島村抱月訳・角川文庫)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

にんぎょうのいえ ニンギャウのいへ【人形の家】

(原題Et dukkehjem) 戯曲。三幕。イプセン作。一八七九年コペンハーゲンで初演。弁護士ヘルマーの妻ノラが、これまで男性のための人形にすぎなかった自分に気づき、一個の人間として独立しようとする過程を描く。婦人の解放に大きな影響を与えた社会劇。明治四四年(一九一一)日本初演。

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世界大百科事典内の人形の家の言及

【玩具】より

…このおとなから子どもへという玩具の移行のパターンは,その後もえんえんと続く。たとえば,ルネサンス期にヨーロッパでのぞき箱やミニチュア舞台などのキャビネットが大流行する中で同時に生まれた〈人形の家〉は,貴族の婦人たちのファッション玩具であり,それが多くの子どもたちの手にわたるにはほぼ200年の歳月を要している。 玩具の起源についてさらに述べておかねばならぬことは,同じ機能をもった玩具が,まったく個別にさまざまな民族の間で発生していることである。…

【人形】より

…衣装ぎれも人形用の別織で,顔だちも類型的でなく,モデルがあるらしく,また姿態の均斉も整っている。西欧の人形史からは,〈人形の家〉を逸するわけにはいかない。〈人形の家〉は貴族が自分の邸宅と,そこに住む家族の者の模型を製作させたものである。…

【模型】より

… 一般におもちゃは多少とも実物を模倣したものであり,人形もその一つであるが,模型という言葉には,精巧な,メカニカルなものというひびきがある。16~17世紀のドイツを起源とする〈人形の家doll’s house〉は,細密に仕上げた屋内に,小さな人形や家具,道具類を配置して楽しむもので,模型に含まれるであろう。帆船模型(モデルシップ)も古くから行われていたと思われ,多数の帆にロープを張る複雑な作業が主眼である。…

【イプセン】より

…78年2月ベルリンの五つの劇場が同時に上演している。続いて《人形の家》(1879),《幽霊Gengangere》(1881),《人民の敵En folkefiende》(1882)といった近代の代表的な〈社会問題劇〉(社会劇)によってイプセンの名は世界的になる。なかでも梅毒遺伝を扱った《幽霊》は,ゾラの提唱した自然主義演劇の典型とみなされ,どこの劇場もすぐには上演しようとしなかった。…

【ノーラ】より

…イプセンの問題劇《人形の家》(1879)のヒロイン。日本ではノラと呼ばれたが,原発音はノーラ。…

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