日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハハソ」の意味・わかりやすい解説
ハハソ
ははそ / 柞
コナラの古名とも、ナラ・クヌギ類の総称ともいう。『万葉集』に「山科(やましな)の石田(いはた)の小野のははそ原見つつか君が山道(やまぢ)越ゆらむ」(巻9・藤原宇合(うまかい))と詠まれ、のちにこの「石田(いしだ)のははそ原」は歌枕(うたまくら)となり、また「ははそ葉の」は「母」の枕詞(まくらことば)となった。『古今集』では、とくに「佐保(さほ)山」の景物として類型化し、「秋霧は今朝はな立ちそ佐保山のははその紅葉(もみぢ)よそにても見む」(秋下)などと詠まれた。『源氏物語』「少女(おとめ)」には、六条院の冬の町の御殿に植えられたさまが記され、『更級(さらしな)日記』には、「ははその森」という紅葉の名所があげられている。『今昔物語集』巻31に、近江(おうみ)国栗太(くるもと)郡に大きな柞(カシとも読む)の木があって、朝方には丹波(たんば)、夕方には伊勢(いせ)まで日陰になったので、農作物のじゃまになるといって、勅命で切られてしまったとある。紅葉の美しさから、秋の季題。
[小町谷照彦]