改訂新版 世界大百科事典 「バナジン酸塩」の意味・わかりやすい解説
バナジン酸塩 (バナジンさんえん)
vanadate
各種バナジン酸の塩の総称。酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5は水に難溶であるが,各種の水和物の形で存在する。これらの一般式V2O5・nH2Oを酸の形式に書いてバナジン酸vanadic acidと呼んでいる。n=3のH3VO4をオルトバナジン酸(遊離では得られない),n=2のH4V2O7を二(ピロ)バナジン酸,n=1のHVO3をメタバナジン酸という。そしてそれぞれのバナジン酸に対応してnM2O・V2O5(Mは1価の陽イオン)で表されるバナジン酸塩が存在する。オルトバナジン酸塩MI3VO4,二バナジン酸塩MI4V2O7,メタバナジン酸塩MIVO3などがそのおもなものであり,最も普通にはメタバナジン酸塩をさす。いずれも計算量の酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5とアルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩とを融解するか,水溶液中で反応させて得られる。また水溶液からは組成,構造の複雑なイソポリバナジン酸塩が析出するが,溶液のpHに応じて各種のものができる。
オルトバナジン酸塩
カリウム塩K3VO4は暗黄色結晶。水に溶けると,二バナジン酸カリウムと水酸化カリウムに分解する。ナトリウム塩Na3VO4は水に溶ける無色の結晶。水溶液からは7水和物が得られる。
二バナジン酸塩
カリウム塩K4V2O7はメタバナジン酸カリウムKVO3と水酸化カリウムの混合水溶液を煮沸し,硫酸デシケーター中で乾燥して3水和物K4V2O7・3H2Oが得られる。ナトリウム塩Na4V2O7は通常は18水和物Na4V2O7・18H2Oで,100℃で1水和物に,140℃で無水和物になる。水に溶け,エチルアルコールに不溶。不安定で,酸により容易に分解する。
メタバナジン酸塩
アンモニウム塩NH4VO3は無色ないし淡黄色結晶。バナジン酸塩水溶液に固体塩化アンモニウムを加えると沈殿する。200℃で分解して赤色となる。水に難溶,温水に可溶。比重2.326。熱したエチルアルコール,エーテルに微溶。カリウム塩KVO3は無色結晶。100℃で煉瓦色となる。水に難溶,温水に可溶。ナトリウム塩NaVO3は無色ないし黄色結晶。容易に融解し,無色となる。水溶液から結晶させると1水和物NaVO3・H2Oとなる。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報