バナジン酸(読み)バナジンサンエン

化学辞典 第2版 「バナジン酸」の解説

バナジン酸(塩)
バナジンサンエン
vanadic acid(vanadates)

バナジウムオキソ酸とその塩の慣用名.IUPAC体系名は配位化合物として命名する.バナジン酸塩には,VのM3VO4(慣用名,オルトバナジン酸塩),MVO3(慣用名,メタバナジン酸塩),M4V2O7(慣用名,ピロバナジン酸塩)などがある.市販の塩では,メタバナジン酸塩がもっとも多く,これを単にバナジン酸塩とよんでいることが多い.このほか,ポリ酸塩としてM6[V10O28]を代表とするイソポリ酸塩や,ヘテロポリ酸塩も知られている.M3VO4酸性にすると縮合が起こって遊離のオルト酸H3VO4は得られない.M3VO4を酸で処理すると得られる遊離酸は,反応水溶液の温度を上げた場合はピロバナジン酸H4V2O7(暗黄色の粉末),低温ではメタバナジン酸HVO3(黄色の葉状結晶)[CAS 13470-24-1]である.ただし,いずれも単量体ではない.
塩:【】テトラオキソ(2005年IUPAC命名法ではオキシド)バナジン(Ⅴ)酸塩:慣用名,オルトバナジン酸塩.M3VO4.強アルカリ水溶液中ではVO43-が存在し,これから結晶を析出させれば,M3VO4型のアルカリ金属などのイオン結晶が得られる.V2O5とKやNaの炭酸塩とを共融すると無水のオルト塩が得られる.VO43-はほぼ正四面体型で,V-O1.64~1.74 Å.[CAS 13721-39-6:Na3VO4]【】μ-オキシド-ヘキサオキシド二バナジン(Ⅴ)酸塩:ヘプタオキソ二バナジン(Ⅴ)酸塩ともいう.慣用名,ピロバナジン酸塩.M4V2O7.水溶液中では,pH に応じて [HxV2O7](4-x)-(x = 0,1,2)として存在する.天然にもCa塩(Ca2V2O7・9H2O)が,pintadoiteとして存在する.Na塩Na4V2O7(306.84)[CAS 13517-26-5]は,V2O5とNa2CO3とを共融すると無水物が得られ,水で処理すると十八水和物が得られる.これを100 ℃ に加熱すると一水和物となる.一水和物は無色の三斜晶系結晶で,[V2O7]4- の二量体陰イオンを含む.V-O1.68 Å(末端),1.82,1.84 Å(架橋).水に可溶.【】トリオキソ(2005年IUPAC命名法ではオキシド)バナジン(Ⅴ)酸塩:慣用名,メタバナジン酸塩.MVO3.塩のうちもっとも安定で,天然にもCa塩(Ca(VO3)2・2H2O)は鉱物metarossiteとして存在する.単量体のVO3は存在せず,正四面体型のVO4が2個のO原子を共有して鎖状につながった形である.工業的には,NH4VO3[CAS 7803-55-6](略称AMV)が触媒ほか化学用バナジウム化合物製造の出発物質として重要である.【】ポリ酸塩:イソポリ酸塩として,VO6八面体型構造のバナジン(Ⅴ)酸塩(十バナジン酸(塩))M6[V10O28]などがある.ヘテロポリ酸には,Vがヘテロ原子として入ったもの,たとえばH5[PMo10V2O40]がある.【】 Vなどのバナジン酸塩:[VO(H2O)5]2+ を含む水溶液にNaOHを加えると,固体のイソポリ酸塩Na12V18O42・24H2Oが得られる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のバナジン酸の言及

【バナジン酸塩】より

…各種バナジン酸の塩の総称。酸化バナジウム(V) V2O5は水に難溶であるが,各種の水和物の形で存在する。…

※「バナジン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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