日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトエカンザシゴカイ」の意味・わかりやすい解説
ヒトエカンザシゴカイ
ひとえかんざしごかい / 一重簪沙蚕
[学] Serpula vermicularis
環形動物門多毛綱カンザシゴカイ科に属する海産動物。らっぱ状の殻蓋(かくぶた)をかんざしに見立ててこの名がある。日本各地の沿岸に分布するが、東北地方や北海道の水深50メートル以深では大形の個体が多い。体長5~7センチメートル、体幅5ミリメートル内外で、170~250の環節からなる。体の頭端には30~40本の鰓糸(さいし)が集まってできた鰓冠と、先端に殻蓋をもった殻柄(かくへい)とがある。胸部は7剛毛節からなり、針状剛毛をもった背足枝と櫛(くし)状剛毛をもった腹足枝とがある。腹部の各節は前後に短く、背足枝に櫛状剛毛、腹足枝に梳櫛(すきぐし)状剛毛をもつ。強固な石灰質の円筒状棲管(せいかん)をつくってその中で生活する。棲管の入口から鰓冠を出してプランクトンをとらえたり、呼吸をしているが、外敵がくると鰓冠を管の中に引き入れ、殻蓋で入口を防いでしまう。
石灰質の棲管をつくる種類全体を、この属名のセルプラSerpulaとよんでいることもあるが、このような棲管をつくるものにはヒドロイド属Hydroidesやスピロブランクス属Spirobranchusなど多くの種類があるので適当ではない。
[今島 実]