日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピレモン書」の意味・わかりやすい解説
ピレモン書
ぴれもんしょ
The Epistle to Philemon
『新約聖書』中のパウロ書簡の一つ。「ピレモンへの手紙」。ピレモンはかつてパウロに導かれてキリスト教徒になり、コロサイの教会に属していた人物の名前。この手紙は、獄につながれているパウロのもとへ逃亡してきたピレモンの奴隷オネシモを、ふたたび主人へ送り返すにあたって、いまや信仰をもつに至った彼を許し、「奴隷以上のもの、愛する兄弟」として受け入れるように懇願しつつ書かれたものである。そのため、これは、初期キリスト教と奴隷制度との関係という問題を扱った重要な史料とみなされる。執筆の場所はエペソ(エフェソス)かローマと考えられる。場所をいずれに定めるかによって、執筆の時期は50年代中ごろか60年代初めになる。
[土屋 博]