改訂新版 世界大百科事典 「フリードリヒ伝説」の意味・わかりやすい解説
フリードリヒ伝説 (フリードリヒでんせつ)
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世および1世にまつわる伝説。どのような社会にも危機に際してかつての黄金時代へ回帰しようとする願望が生まれるが,ヨーロッパ中世にも13世紀半ばころにヨアキム・デ・フローリスの世界の終末についての預言によって最後の皇帝への願望が生まれていた。シュタウフェン朝の皇帝フリードリヒ2世が死去したとき(1250)にも,ある女預言者が〈皇帝は生きているが生きていない〉と預言したこともあって,その死を信じない者は多く,皇帝はエトナ山に引きこもったと考えられていた。この伝説はドイツでは偽(にせ)のフリードリヒ(1284年か85年のティレ・コルプなど)を生み出すきっかけとなったが,やがてハルツ山地のキュフホイザーKyffhäuserの山の洞穴で世界に終末が訪れるまで眠っている皇帝についての伝説が形成されてゆく。中世末にはこの伝説の主人公はフリードリヒ1世に変わり,19世紀にはリュッケルトFriedrich Rückertのバラードによって国民的伝承となり,ナポレオンに対する解放戦争のなかではドイツの希望のしるしともなった。
執筆者:阿部 謹也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報