日本大百科全書(ニッポニカ) 「バラード」の意味・わかりやすい解説
バラード(James Graham Ballard)
ばらーど
James Graham Ballard
(1930―2009)
イギリスのSF作家。1960年代におきたニュー・ウェーブ運動の中心となり、前衛的な作品を書いてSFの世界に新しい展望を開いた。したがって彼はタイム・トラベルとかエーリアンといったSFの既成のテーマは取り上げず、その関心はもっぱら近未来の地球に発生する災厄とデカダンスに集中している。『沈んだ世界』(1962)は両極の氷が融(と)けて水没していく都市を、『燃える世界』(1964)は大干魃(かんばつ)に襲われる地球を、そして『結晶世界』(1966)では物質が宝石のように結晶化していく地球の終末を描き、外宇宙の変化に対応する登場人物たちの内宇宙(意識世界)がとらえられている。その後自伝的小説『太陽の帝国』(1984)がベストセラーとなり、後にスピルバーグの監督で映画化もされた。ほかに短編集では『時間都市』『残虐行為展覧会』『バーミリオン・サンズ』など、また『太陽の帝国』の続編ともいえる『女たちのやさしさ』(1991)がある。
[厚木 淳]
『峰岸久訳『沈んだ世界』(創元推理文庫)』▽『中村保男訳『燃える世界』(創元推理文庫)』▽『中村保男訳『結晶世界』(創元推理文庫)』▽『法水金太郎訳『残虐行為展覧会』(1980・工作舎)』▽『浅倉久志訳『ヴァーミリオン・サンズ』(早川文庫)』▽『高橋和久訳『太陽の帝国』(1987・国書刊行会)』▽『高橋和久訳『女たちのやさしさ』(1996・岩波書店)』
バラード(文芸用語)
ばらーど
ballade フランス語
文芸用語。ラテン語のballare(踊る)に由来し、物語詩、譚詩(たんし)、民謡、歌謡と訳され、教会、宮廷中心の詩に対し、民衆のなかから生まれた詩で、内容的には英雄、悲恋を主題とするロマンチックな口承伝説詩である。12世紀フランスの吟遊詩人に発し、15、6世紀にヨーロッパ各地に広まった。八行のスタンザ三つにエンボイenvoyという呼びかけの四行がつく形で、ビヨンの『首吊(つ)りのバラード』に代表される。各スタンザの終わりにリフレーンがつくのは本来の舞踏歌の性格を示す。イギリスではバラッドballadとよび、多くは四行詩の長連の形をとり、イングランドとスコットランドの国境地帯で盛んに歌われた。
[船戸英夫]
西洋音楽でバラードという場合、わが国ではドイツのバラーデBalladeとフランスのバラードをともにバラードとよぶことが多い。バラーデは譚詩曲と訳され、18、9世紀のドイツで愛好されたピアノ伴奏歌曲。中世の歴史上あるいは架空のロマン的な物語を扱ったもので、代表的な作曲家はレーベ(1796―1869)である。後者は14世紀にフランスで多く作曲され、マショー(1300ころ―77)が多声の優れたバラードを残した。
[石多正男]