日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ペーター・シュレミールの不思議な物語
ぺーたーしゅれみーるのふしぎなものがたり
Peter Schlemihls wundersame Geschichte
ドイツ・ロマン派の詩人シャミッソーの短編小説。1814年刊。貧しい男ペーター・シュレミールは悪魔との取引によって自分の影を「幸福の袋」と交換する。彼は大金持ちになるが、影をもたない人間として市民社会から疎外され、恋人にも捨てられ、精神的には惨めな生活に陥る。彼が最後にみいだした生きる道は、市民生活から離れて自然のなかに逃避し、自然科学の研究に没入することであった。この小説は、悪魔との賭(か)け、幸福の袋、七里靴の話など民間伝承のメルヒェン的素材を使用しながら、富と幸福、市民生活の因襲とアウトサイダー、愛などのきわめて現実的、社会的な諸問題を象徴的に表現し、世界的に有名になった。
[中井千之]
『手塚富雄訳『影を売った男――ペーター・シュレミールの不思議な物語』(角川文庫)』▽『池内紀訳『影をなくした男』(岩波文庫)』