物語(読み)ものがたり(英語表記)narrative
story
récit[フランス]

精選版 日本国語大辞典 「物語」の意味・読み・例文・類語

もの‐がたり【物語】

〘名〙
① (━する) 種々の話題について話すこと。語り合うこと。四方山(よもやま)の話をすること。また、その話。
※書紀(720)皇極元年四月(岩崎本訓)「親ら対ひて語話(モノカタリ)す」
② (━する) 特に男女が相かたらうこと。男女が契りをかわしたことを婉曲にいう。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「もし人もちかく御ものがたりやし給し」
③ (━する) 幼児が片言やわけのわからないことを言うこと。
※枕(10C終)一四〇「また、いとちひさきちごの、ものがたりし、たがへなどいふわざしたる」
④ (━する) 特定の事柄について、その一部始終を話すこと。また、その話。特に口承的な伝承、また、それを語ることをいうことがある。
※万葉(8C後)七・一二八七「青みづら依網(よさみ)の原に人も逢はぬかも石走る淡海県の物語(ものがたり)せむ」
勝山記‐永正一五年(1518)「余り不思議さに書付て物語の為に置申候」
⑤ 日本の文学形態の一つ。作者の見聞または想像をもととし、人物・事件について人に語る形で叙述した散文の文学作品。狭義には平安時代の作り物語・歌物語をいい、鎌倉・南北朝時代のその模倣作品を含める。広義には歴史物語、説話物語、軍記物語などもいう。作り物語は、伝奇物語、写実物語などに分ける。ものがたりぶみ。
※観智院本三宝絵(984)上「又物語と云て女の御心をやる物也」
浄瑠璃歌舞伎で、時代物の主役が、過去の事件、思い出、心境の述懐などを物語る部分。また、その演出。「実盛(さねもり)物語」や、「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」の熊谷の物語などが名高い。
⑦ 江戸時代、家々の門に立ち古戦物語などの素読をして金品を乞うた者。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕
⑧ 近代文学で、ノベル(小説)に対し、一貫した筋を持つストーリーという概念にあてた語。また、…について述べたもの、の意で、題名に添えられることが多い。
[語誌]動詞の「ものがたる」が見られるのは中世以降だから、「ものがたる」の名詞形というよりは、奈良時代に成立していた「かたる」の名詞形「かたり」に「もの」を付けて、ある種の「語り」を区別するために成立した語と考えられる。多く見られるのは平安時代になってからである。

もの‐がた・る【物語】

〘他ラ五(四)〙
① 何か物事を語る。ある事について話を交す。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「或るときは諠(かまひす)しく語(モノカた)る声聞ゆ」
② あるまとまった話をする。
※談義本・根無草(1763‐69)後「譬に違はぬ鬼の目に涙ぐんで物語(モノガタ)れば」
③ ある事実がそのままある意味をはっきりと示す。
※金(1926)〈宮嶋資夫〉二「底力のある錆た声が〈略〉錬え上げた人間である事を物語(モノガタ)ってゐるようで」

もの‐がたら・う ‥がたらふ【物語】

〘他ハ四〙 物事を語り合う。話し合う。話す。また、男女が契りをかわす。
伊勢物語(10C前)二「それをかのまめ男、うちものがたらひて」

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デジタル大辞泉 「物語」の意味・読み・例文・類語

もの‐がたり【物語】

[名](スル)
さまざまの事柄について話すこと。語り合うこと。また、その内容。「世にも恐ろしい物語
特定の事柄の一部始終や古くから語り伝えられた話をすること。また、その話。「湖にまつわる物語
文学形態の一。作者の見聞や想像をもとに、人物・事件について語る形式で叙述した散文の文学作品。狭義には、平安時代の「竹取物語」「宇津保物語」などの作り物語、「伊勢物語」「大和物語」などの歌物語を経て、「源氏物語」へと展開し、鎌倉時代における擬古物語に至るまでのものをいう。広義には歴史物語・説話物語・軍記物語を含む。ものがたりぶみ。
歌舞伎人形浄瑠璃の演出の一。また、その局面。時代物で、立ち役が過去の思い出や述懐を身振りを交えて語るもの。
[類語](1)(2はなし叙事ストーリーお話作り話虚構フィクション説話小説口碑こうひ伝え話昔話民話伝説言い伝え

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改訂新版 世界大百科事典 「物語」の意味・わかりやすい解説

物語 (ものがたり)
narrative
story
récit[フランス]

物語は,一般に,文学の基本的な要素と考えられている。ある人物がなんらかの行動をなして,なんらかの筋の展開が生ずれば,そこには物語が成立しているとされ,それに対して,静的な景物描写のような場合には物語の成立が認められないのである。この意味での物語は,いわゆる英雄叙事詩バラードなどのなかにも数多く見いだされる。その特徴は,中心となる人物の行動を軸として,作品が始め,中間,終りからなる完結性をもつことであろう。イギリスの小説家E.M.フォースターが,〈小説のかなめは物語であり,物語とはできごとを時間順に語ったものである〉(《小説の諸相》1927)と述べているのも,これと似た考え方である。

 こうした考え方は今日でも根強くあるが,その一方で,とくに1960年代以降,フランスの構造主義に属する人々によって推進されてきた物語研究の新しい動きがある。この場合には,物語をいわゆる文学に固有のものとはせず,神話,伝説,民話,おとぎ話,小説,戯曲,絵画,映画,漫画,ダンスなどに共通にあらわれるものとみる。そして〈物語の構造分析には言語学そのものを基礎モデルとして与えるのが理にかなっている〉(R.バルト《物語の構造分析序説》1966)と考える。この方向での研究の早い例は,ソ連の民話学者プロップの《民話の形態学》(1928)であるとされている。彼はロシアの数多くの民話を分析することによって,そこに登場する人間その他が果たす機能には共通性があることを発見した。そしてその機能を類型化することによって,民話の体系化を試みたのである。フランスの人類学者C.レビ・ストロースは,プロップの方法から多くを学びながら,神話の分析を試みて,みごとな成果をあげた。この2人に共通しているのは,多種多様なかたちで存在する民話や神話を分析することによって,それらの深層にひそんでいる共通の構造を取り出そうとする姿勢である。この基本姿勢は,物語を研究する人々のうちにも認められる。それらの人々を代表するバルトやトドロフTzvetan TodorovやグレマスAlgirdas Julien Greimasなどの仕事は,〈物語の文法〉をめざすものであるといえるだろう。彼らは,物語のもつ表現面と内容面をひとまず区別したうえで,その特徴を分析するのに必要なさまざまの枠組みを考案した。そしてそれを利用して,さまざまの物語を具体的に分析する。そうした作業のなかから取り出された問題として,たとえば,物語分析の基本となる単位をどう設定するかとか,各単位の間にある相互関係の特性をどのようにして記述するかとか,語り手と語られる内容の関係をどうとらえるかといった問題がある。

 もうひとつの注目すべき物語論は,やはり1960年代以降,とくにアメリカとドイツの歴史哲学の分野で議論されているものである。自然科学と人文・社会科学の方法を対比した場合,自然科学とは異なる対象を扱う人文・社会科学に固有の方法とは何であるのかという問題は,19世紀以来,さまざまの角度から論じられてきた。この論争のなかで,物語のもつ意味が再検討されているのである。自然科学の論述において最もたいせつなのは,論述の過程そのものではなくて,それによって導かれる結論である。それとは対照的に,人文・社会科学の論述においては,結論のみを取り出してみてもあまり意味はない。むしろたいせつなのは,論述の過程において与えられる認識のほうであろう。できごとを時間順に語ってゆく歴史叙述においては,とくにそのことがあてはまる。そこから,歴史叙述は物語としての特性をもっており,時間軸に沿って展開する物語的な認識法こそが歴史学の特徴であるとする考え方が出てくることになる。この発想を徹底させたアメリカの歴史哲学者ホワイトHayden Whiteの《メタヒストリー》(1973)によれば,歴史叙述にはロマンス的,悲劇的,喜劇的,風刺的の四つの方向での物語性があり,歴史叙述のうちにひそむイデオロギー性もそれと密接な関連をもつことになる。

 構造主義の側からする物語論は,物語の構造そのものの分析をめざしているのに対して,歴史哲学の側からする物語論では,まず第1に,物語的な認識こそが歴史叙述の特徴であるという主張をふまえて,そのうえで物語の機能が注目をあびているといえるだろう。しかし最近では,この二つの方向からの物語論が合流するきざしも見えはじめている。その際につなぎの役割を果たすのは,おそらく修辞学ということばである。構造主義の側から物語分析に取り組んだ人々は,自分たちの仕事がかつての修辞学者のそれと共通するところをもつことに気がついていたし,アメリカの歴史哲学者の側にも,歴史叙述の特性を修辞学の用語で記述することができるという考え方があるからである。

 さらに,物語そのものを修辞的な構造と考えるとすると,ひとつの派生的な効果が生まれてくる。バルトの指摘するように,新聞の三面記事やラジオ,テレビの番組のなかにも物語がひそんでいるとして,その修辞的なごまかしや歪曲(わいきよく)を分析してゆくとすれば,それらの物語に潜在するイデオロギーを暴露することになるだろう。そのときには,物語の分析は単なる学問的な研究から抜け出し,人々の日常的思考を支配するさまざまの物語に対する批判というかたちをとった社会批判となる。つまり物語批判はイデオロギー批判のひとつとなりうるのである。バルトが《神話作用》(1957)で試みた現代の神話批判を,そのひとつの例と考えることができる。

 なお,日本文学における物語の概念については〈物語文学〉の項を見られたい。
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知恵蔵 「物語」の解説

物語

小説」のページをご覧ください。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物語」の意味・わかりやすい解説

物語
ものがたり

平安時代に発生した文学の様式。内容,性格によって,作り物語,歌物語歴史物語説話文学軍記物語擬古物語などに分類されるが,単に物語というときは『源氏物語』に代表される作り物語をさす。作り物語は,架空の人物,事件を,仮名の散文によって,和歌を交えて描いたもので,10~11世紀を頂点としておびただしい作品が生れた。『竹取物語』以下『宇津保物語』『落窪物語』を経て,『源氏物語』にいたり,思想,感情,表現などにおいて高度の文学的達成をなしとげ,以後の作品はすべて『源氏物語』を規範としている。なお,物語論においても『源氏物語』の「蛍」の巻に示された虚構論が最もすぐれている。

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世界大百科事典(旧版)内の物語の言及

【主人公】より

…運命として機能する環境ないし権力ある他者との葛藤は悲劇を生む(ロミオとジュリエット,ブリタニキュス)。あらゆる文学作品は,脈絡のある説述,事件,行動を枠組みとした物語を含むが,その物語形式の軸をなすのが,主人公の存在である。古典的物語形式は原則として単数軸(1人もしくは1組の主人公)を想定するが,近代以降,《ゴリオ爺さん》(バルザック)のような複数軸の作品が多くなった。…

【物語文学】より

…日本文学史の用語。あらゆる民族,あらゆる時代がそれぞれ物語をもつ。神話や叙事詩や昔話や小説,これらはみな物語にぞくする。…

※「物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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