自然科学(読み)シゼンカガク(英語表記)natural science

翻訳|natural science

デジタル大辞泉 「自然科学」の意味・読み・例文・類語

しぜん‐かがく〔‐クワガク〕【自然科学】

自然界の現象を研究する学問の総称。実験・観察・数理に支えられて、対象の記述・説明、さらには事実間の一般法則を見いだし実証しようとする経験科学。ふつう天文学物理学化学地学生物学などに分ける。→社会科学人文科学文化科学

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精選版 日本国語大辞典 「自然科学」の意味・読み・例文・類語

しぜん‐かがく‥クヮガク【自然科学】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] natural science の訳語 ) 自然現象を対象とする学問の総称。狭義には自然現象そのものの法則を探求する数学、物理学、天文学、化学、生物学、地学などをさし、広義にはそれらの実生活への応用を目的とする工学、農学、医学などを含むこともある。
    1. [初出の実例]「若し物質は物質として仮定して其現象のみを研究するならば夫は自然科学であります」(出典:我世界観の一塵(1894)〈井上哲次郎〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「自然科学」の意味・わかりやすい解説

自然科学 (しぜんかがく)
natural science

とくに自然科学と断らない場合でも,現在通常は〈科学〉と同義である。自然についての体系的な知識を指すが,とくに人文科学社会科学と対比させるときに用いられることが多い。英語では,18世紀までnatural scienceという使い方はなく,natural philosophyが近い概念であった。フランス語のscienceはおそらく最も古くから今日の〈自然科学〉に近い概念として用いられていたと考えられ,わざわざ〈自然〉を表す形容詞を加えて〈science naturelle〉とする場合はむしろ〈博物誌(自然史)〉の概念に近づく。ドイツ語ではscienceに相当するWissenschaftが用いられるが,この語にはそのままではとくに高度な〈学識〉の意味がこめられることが多く,やはりNaturwissenschaftというべきだろう。ドイツ語では〈自然科学〉は〈文化科学Kulturwissenschaft〉もしくは〈精神科学Geisteswissenschaft〉と対立させられることが多い。

 内容的には,経験に基礎を置き,実験・観察を重用し,数学的表現に依存することが多く,客観的普遍性を求め,確固たる因果性を法則に求める,といった特徴を言い立てられることも多いが,自然科学と他の知識領域の間に,内容上の特性からはっきりした区別を立てうる,という考え方自体,必ずしも成り立たないとする主張も最近目立つ。歴史的にみれば,ヨーロッパ中世の学問分類(自由七科)のなかでの〈トリウィウムtrivium〉の三科と〈クアドリウィウムquadrivium〉の四科は,今日の視点から内容の性格規定をすれば,〈人文系〉と〈自然系〉に分けることも可能であろう。文法,論理,修辞学のトリウィウムがことばに関する学問であるのに対して,算術,天文学,幾何学,音楽のクアドリウィウムは,自然の計測に関する学問と考えられるからである。当時音楽は〈芸術活動〉ではなく,自然の数的秩序に関する学問であった。自然科学,社会科学などの区別が意識されるようになったのは,19世紀西欧で,諸科学の独立・分化が進展して以降のことである。学際化,かつ専門領域の細分化の著しい今日,自然科学に数えられる学問を挙げることは,あまり意味はないが,常識的には,物理学,化学,生物学,地学を四つの柱として立てることが多く,高等教育機関での制度としては,これに数学を加えて〈自然科学系〉の学問とする。
科学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然科学」の意味・わかりやすい解説

自然科学
しぜんかがく

生物をも含む物質的自然を対象とする人間の認識活動であり、その成果のまとまりでもある。非常に幅広い対象および多様な手法に応じて、さまざまな分科をもつ。

 自然科学は、また非常に複雑な社会的存在でもある。かつてJ・D・バナールは自然科学を次の五つの側面、すなわち、(1)一つの制度(社会的機関)として、(2)方法として、(3)累積的に伝承された知識として、(4)生産の維持と発展の主要な一要因として、(5)宇宙と人間に対する信条と態度を形成させる強力な影響力の一つとして、の総体であると述べた。

 もともと生産活動や技術を源泉として人間の自然認識は生まれたが、19世紀以降、生産技術とより密接にかかわることによって自然科学が自立し、重要な社会的制度として成長してきた。すなわち19世紀に、力学や天文学以外の物理学、化学、生物学、地学といった分野が、記述や分類を主目的とした博物学(自然誌)や、自然についての哲学的認識体系を求める自然哲学から独立し、自然科学natural science(英語)、Naturwissenschaft(ドイツ語)としてのまとまりを認められるようになった。

 さまざまな意味で自然科学の社会的影響力の大きさが論じられている現在、単なる認識や思想の側面だけではなく、社会的存在として全面的な理解が求められている。なお、「科学」という表現で自然科学を意味することも多いが、人文科学、社会科学、技術科学(農学、工学など)と区別する際に、とくに「自然科学」の表現を用いる。

[髙山 進]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自然科学」の意味・わかりやすい解説

自然科学
しぜんかがく
natural science

自然現象を対象とする科学。自然界において本質的に重要な現象を見出し,現象の把握に有効な概念を確立し,現象を支配する法則を発見する。これにより多様な自然現象間の相互関連を明らかにし,また未発見の事物や現象を予言する。さらに観察,観測,実験,測定を行う。研究の典型的方法は,仮説を立て,推論し,実験的または理論的に検証する過程をふむ。対象とする自然現象の種類に応じて物理学化学生物学天文学地質学などに分類される。さらに,工学,農学,医学など自然の現象,概念,法則を基礎として人間,社会のための応用面に重点をおくものも,自然科学に含まれる。

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世界大百科事典(旧版)内の自然科学の言及

【科学】より

…科学とは今日通常は自然科学を指す。人文科学,社会科学という呼び方もある。…

【自然哲学】より

…一般にこの自然学と宇宙論とが近世以前の自然哲学の形態であった。近世では経験的自然科学が分化し,数学の適用による自然現象の量的・実験的解明により,自然法則の発見されうる諸現象,法則の発見により人間が利用し征服しうる諸対象が自然と解される。自然は主観の対象として,経験科学の領域,方法,目的,関心に応じた諸対象に分節され,これとともに自然的世界の認識は科学の成果として,人間の歴史的世界の内部に編入される。…

※「自然科学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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