日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ
むじかぽぷらーるぶらじれいら
música popular brasileira
ブラジルのポピュラー・ミュージック。略称MPB。ブラジル以外のラテンアメリカないしはアメリカス(全アメリカ大陸)世界で、ラテン・ポピュラー・ミュージックという場合に時代・地域・ジャンルを幅広く指示するのに対し、ブラジルの場合は若干の限定がある。
MPBを単純にブラジルの大衆音楽を指す用語と理解すると、ショーロやサンバもMPBに含まれるが、一般的にはこれらの音楽はMPBには含まれない。MPBは、1960年代なかば以降、国内では軍政などの問題を抱え、同時にアメリカ合衆国のポピュラー・ミュージックが大量に流れ込んでくるなかで、ブラジル人によるブラジル産の新しいポピュラー・ミュージックを生み出そうという目的をもったミュージシャンによってつくられた、単一ではない音楽の諸傾向をさす。サンバ、ボサ・ノバ、ブラジル国内のさまざまな地域の民族音楽、軍政など社会状況へのプロテスト・ソング、ロック/ロックン・ロール、トロピカリズモ(トロピカリア運動)の音楽、ジャズ、ファンクなど、それぞれが別々にありながらある場合には組み合わせられるポピュラー・ミュージックである。
代表的なミュージシャンとしては、カエターノ・ベローゾ、ジルベルト・ジル、シコ・ブアルキChico Buarque(1944― )、エリス・レジーナ、エドゥ・ロボEdu Lobo(1943― )、ミルトン・ナシメント、マリア・ベターニャMaria Betânha(1942― )、ガル・コスタGal Costa(1945―2022)、ジョアン・ボスコJoão Bosco(1946― )、イバン・リンスIvan Lins(1945― )、ジャバンDjavan(1949― )、ドリ・カイミDori Caymmi(1943― )、アルセウ・バレンサAlceu Valença(1946― )、ジョルジ・ベン・ジョールJorge Ben Jor(1942― )、シモーネSimone(1949― )、マリーザ・モンチMarisa Monte(1967― )などがいる。
[東 琢磨]
『クリス・マッガワン、ヒカルド・ペサーニャ著、武者小路実昭・雨海弘美訳『ブラジリアン・サウンド――サンバ、ボサノヴァ、MPB ブラジル音楽のすべて』(2002・シンコー・ミュージック)』