エリス(読み)えりす(英語表記)Alexander John Ellis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス(ギリシアの地名)
えりす
Elis

ギリシア南部、ペロポネソス半島北西部の地方名および同地方の中心であった古代都市名。イオニア海に臨む。別称イリアIlia、Eleia。ピニオス川とアルフィオス川が流れ、同国でももっとも肥沃(ひよく)な沖積平野の一つで、今日も人口が稠密(ちゅうみつ)である。キリニス、カイアファなど多くの鉱泉や、オリンピアの遺跡があり、近年観光地として発展しつつある。この地方は今日エリス県を構成し、面積2681平方キロメートル、人口19万5200(2003推計)。県都はピルゴスPyrgosで、人口2万(2003推計)。

[真下とも子]

歴史

旧石器時代からこの地には人類が住み、ミケーネ時代の住居趾(し)もある。暗黒時代以後はアイトリア系の住民が住み、中心的なポリス(都市国家)がエリスであった。エリスはピサとオリンピア競技の開催権を争い、ついにはピサを滅ぼしてその開催権を手中にした。一時的に民主政体をとることもあったが、寡頭政的な国制を有していた。90人の終身の長老会員が実質的には国政をつかさどっていた。早くからスパルタの忠実な同盟国であったが、ペロポネソス戦争中の紀元前420年ごろアテネとアルゴスの同盟に加わった。このため戦後スパルタに攻められて周辺地域の解放とペロポネソス同盟加入とを強いられた。レウクトラの戦い以後ピサ人を支援したアルカディア同盟に一時オリンピア競技開催権を奪われた。前2世紀にはアカイア同盟に加盟させられ事実上独立を失ったが、ローマ統治下ではオリンピアの聖地を有し、おそらくオリンピア祭の主宰国であるという立場により自治を享受し、その後フランク、ベネチアトルコに支配された。

[古山正人]



エリス(準惑星)
えりす
Eris

準惑星の一つ。太陽系外縁天体の冥王(めいおう)星型天体(太陽系外縁天体であり、なおかつ準惑星クラスの天体)に属する。2003年10月にマイケル・ブラウンMichael E. Brown(1965― )、チャドウィック・トルヒージョChadwick A. Trujillo(1973― )、デイビッド・ラビノウィッツDavid L. Rabinowitz(1960― )により発見され、ギリシア神話の女神の名をとり、エリスと命名された。大きさは直径2326キロメートル、質量は約1.64×10の22乗キログラム。軌道長半径は約68.0天文単位(1天文単位=1億4650万キロメートル)、軌道傾斜角は43.9度、軌道離心率は約0.434、公転周期は約560年、衛星数は1(名称はデュスノミアDysnomia)である。直径2390キロメートルの冥王星より大きなエリスの発見やエッジワース・カイパーベルト天体(惑星になりきれなかった氷の小天体が海王星軌道の外側にベルト状に分布する天体)が数多く発見されたことによって、冥王星は惑星からはずされ、準惑星という新しい天体分類に含まれることになった。

[編集部 2022年10月20日]


エリス(Alexander John Ellis)
えりす
Alexander John Ellis
(1814―1890)

イギリスの言語学者、音響学者、数学者。イートン校を経てケンブリッジ大学で数学と古典学を学ぶ。初めは数学者であったが、英語の発音についての科学的研究を通して音声学を専門とする。さらには1875年にヘルムホルツの『音感覚論』を英訳して以来、音階や音律についての音響学的研究へと進み、諸民族の楽器の音律測定に大きな足跡を残し、音程の単位としてセント算法を考案した。『諸民族の音階』(1885)は、後の比較音階研究の隆盛を暗示した古典というべき著書である。

[川口明子]

『門馬直美訳『諸民族の音階』(1951・音楽之友社)』


エリス(Henry Havelock Ellis)
えりす
Henry Havelock Ellis
(1859―1939)

イギリスの医師、性心理学者。イギリスとオーストラリアの間を往復する商船の船長のひとり息子で、16歳のとき父の船でオーストラリアに渡り、神秘的経験によって性の研究に関心をもったといわれる。帰国後医師の免許をとるが、診療には従事せず著作と編集で生計をたてる。その主著『性の心理学研究』全7巻(1897~1928)は第2巻『性的倒錯』をイギリスで出版したが、内容が露骨すぎるとの批判を受け、発禁とされたため、あとはアメリカで出版する。1933年にコンパクト版『性の心理学』を出版する。夢の研究でも有名で、イギリスのフロイトとよばれることがある。

[外林大作・川幡政道]

『ハヴロック・エリス著、佐藤晴夫訳『性の心理』7冊(1995~1996・未知谷)』『ハヴロック・エリス著、藤島昌平訳『夢の世界』(岩波文庫)』


エリス(ギリシア神話)
えりす
Eris

ギリシア神話で「不和、争い」を擬人化した女神。ローマではディスコルディアとよばれた。夜の神ニクスの娘で、「労苦」「忘却」「飢え」「苦痛」などさまざまの悪を体現する神々や、また「誓い」の神を生んだ。エリスは、多くの神々が出席したペレウスとテティスの結婚式に自分だけが招待されなかったのを恨み、宴席に黄金のリンゴを投げ込む。それが「パリスの審判」の原因となって、さらにトロヤ戦争にまで発展した。しかし、エリスにはよい競争を促す面もあるとされる。普通、彼女は翼をもった女性として描かれている。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス
Eris

太陽系にあり,海王星軌道と冥王星軌道の外側で太陽のまわりを公転している天体。準惑星に分類される。2005年,アメリカ合衆国のカリフォルニア州にあるパロマ山天文台で 2003年に撮影された画像のなかから発見された。エリスという名称が公式に決まるまでの仮符号は 2003 UB313。発見者によって「ゼナ」と呼ばれたほか,「第10惑星」ともいわれた。直径は約 2500kmで,冥王星より少し大きい。太陽のまわりを 560年周期で回り,軌道傾斜角の大きい楕円軌道を描く。スペクトルから,その表面はメタンの白い氷で覆われているとみられる。また少なくとも 1個の衛星を伴っている。ダイスノミアと呼ばれるその衛星はエリスの 8分の1の大きさで,公転周期は約 2週間である。エリスや冥王星は,2006年8月国際天文学連合 IAUにより,太陽のまわりを公転する天体の新しい分類として定義された準惑星に属することになった。2008年6月,IAUは,海王星の外側にあるエリスや冥王星をはじめとする準惑星を「冥王星型天体(プルートイド plutoid)」として分類した。

エリス
Ellis, (Henry) Havelock

[生]1859.2.2. サリー,クロイドン
[没]1939.7.8. サフォーク,ウォッシュブルック
イギリスの思想家,心理学者。ロンドンで医学を修めたが,転じて文学,科学に関する著作を行い,多くの資料に基づいて性欲,天才,犯罪,夢,結婚に関する研究を発表。性心理の最高権威。主著『犯罪者』 The Criminal (1890) ,『英国の天才の研究』 Study of British Genius (1904) ,『夢の世界』 The World of Dreams (11) ,『性の心理学研究』 Studies in the Psychology of Sex (7巻,1897~1928) 。

エリス
Exoat-mospheric Reentry-vehicle Interceptor System; ERIS

大気圏外再突入体迎撃システム。 SDI計画により開発されてきた地上発射型弾道ミサイル迎撃ミサイル。大気圏外で核弾頭を破壊するのが目的。軌道上のミラー衛星めがけて地上局から発射されたレーザーにより誘導されて接近し,内蔵センサーで目標物を捕捉し,ホーミング誘導で直接衝突し破壊する。 1992年にミニットマンIミサイルを目標として太平洋上で行われた実験で成功を収めている。しかし,最近の米ロ緊張緩和に伴って ICBM/SLCMなどの戦略核ミサイルに対する迎撃システムの重要性が低下したため,開発が中止される見通しである。

エリス
Eris

ギリシア神話の争いの女神。夜の女神ニュクスの子で,労苦ポノス,飢餓リモス,戦闘マケ,殺害フォノス,その他もろもろの災いを生んだとされる。トロイ戦争は,ペレウステティスの結婚を祝う神々の宴会の最中に,その場に自分が招かれなかった腹いせにエリスが投込んだ「最も美しい女神へ」と記された黄金のリンゴが,原因となって引起された。

エリス
Ēlis; Elea

ペロポネソス半島北西部に位置する古代ギリシアの都市国家。現イリア。馬の飼育と前 776年以来エリス人が司ったオリュンピア競技 (→古代競技会 ) で知られている。中心市エリスは前 572年までに全地域を統合,ときにスパルタと同盟または敵対したこともあったが,オリュンピア競技の主催者としておおむね中立を堅持し,独立を保持した。

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