エリス(読み)えりす(その他表記)Elis

デジタル大辞泉 「エリス」の意味・読み・例文・類語

エリス(Eris)

準惑星の一つ。太陽系外縁天体冥王星型天体に属す。2003年、パロマー山天文台からの観測で発見された。名の由来はギリシャ神話の戦いの女神。冥王星の外側の軌道を公転する。冥王星より大きいため惑星に分類すべきか論議されたが、2006年に国際天文学連合が設けた区分の「準惑星」に分類された。衛星(ディスノミア)をもつ。直径は2400~3000キロメートルと推定される。

エリス(Henry Havelock Ellis)

[1859~1939]英国の医師・心理学者。性心理の研究で有名。著「性心理学研究」など。

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精選版 日本国語大辞典 「エリス」の意味・読み・例文・類語

エリス

  1. ( Henry Havelock Ellis ヘンリー=ハベロック━ ) イギリスの心理学者。性欲心理に関する「性心理学の研究」は広く各国に翻訳されて有名。ほかに「イギリスの天才研究」「夢の世界」など。(一八五九‐一九三九

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス(ギリシアの地名)
えりす
Elis

ギリシア南部、ペロポネソス半島北西部の地方名および同地方の中心であった古代都市名。イオニア海に臨む。別称イリアIlia、Eleia。ピニオス川とアルフィオス川が流れ、同国でももっとも肥沃(ひよく)な沖積平野の一つで、今日も人口が稠密(ちゅうみつ)である。キリニス、カイアファなど多くの鉱泉や、オリンピアの遺跡があり、近年観光地として発展しつつある。この地方は今日エリス県を構成し、面積2681平方キロメートル、人口19万5200(2003推計)。県都はピルゴスPyrgosで、人口2万(2003推計)。

[真下とも子]

歴史

旧石器時代からこの地には人類が住み、ミケーネ時代の住居趾(し)もある。暗黒時代以後はアイトリア系の住民が住み、中心的なポリス(都市国家)がエリスであった。エリスはピサとオリンピア競技の開催権を争い、ついにはピサを滅ぼしてその開催権を手中にした。一時的に民主政体をとることもあったが、寡頭政的な国制を有していた。90人の終身の長老会員が実質的には国政をつかさどっていた。早くからスパルタの忠実な同盟国であったが、ペロポネソス戦争中の紀元前420年ごろアテネとアルゴスの同盟に加わった。このため戦後スパルタに攻められて周辺地域の解放とペロポネソス同盟加入とを強いられた。レウクトラの戦い以後ピサ人を支援したアルカディア同盟に一時オリンピア競技開催権を奪われた。前2世紀にはアカイア同盟に加盟させられ事実上独立を失ったが、ローマ統治下ではオリンピアの聖地を有し、おそらくオリンピア祭の主宰国であるという立場により自治を享受し、その後フランク、ベネチア、トルコに支配された。

[古山正人]



エリス(準惑星)
えりす
Eris

準惑星の一つ。太陽系外縁天体の冥王(めいおう)星型天体(太陽系外縁天体であり、なおかつ準惑星クラスの天体)に属する。2003年10月にマイケル・ブラウンMichael E. Brown(1965― )、チャドウィック・トルヒージョChadwick A. Trujillo(1973― )、デイビッド・ラビノウィッツDavid L. Rabinowitz(1960― )により発見され、ギリシア神話の女神の名をとり、エリスと命名された。大きさは直径2326キロメートル、質量は約1.64×10の22乗キログラム。軌道長半径は約68.0天文単位(1天文単位=1億4650万キロメートル)、軌道傾斜角は43.9度、軌道離心率は約0.434、公転周期は約560年、衛星数は1(名称はデュスノミアDysnomia)である。直径2390キロメートルの冥王星より大きなエリスの発見やエッジワース・カイパーベルト天体(惑星になりきれなかった氷の小天体が海王星軌道の外側にベルト状に分布する天体)が数多く発見されたことによって、冥王星は惑星からはずされ、準惑星という新しい天体分類に含まれることになった。

[編集部 2022年10月20日]


エリス(Alexander John Ellis)
えりす
Alexander John Ellis
(1814―1890)

イギリスの言語学者、音響学者、数学者。イートン校を経てケンブリッジ大学で数学と古典学を学ぶ。初めは数学者であったが、英語の発音についての科学的研究を通して音声学を専門とする。さらには1875年にヘルムホルツの『音感覚論』を英訳して以来、音階や音律についての音響学的研究へと進み、諸民族の楽器の音律測定に大きな足跡を残し、音程の単位としてセント算法を考案した。『諸民族の音階』(1885)は、後の比較音階研究の隆盛を暗示した古典というべき著書である。

[川口明子]

『門馬直美訳『諸民族の音階』(1951・音楽之友社)』


エリス(Henry Havelock Ellis)
えりす
Henry Havelock Ellis
(1859―1939)

イギリスの医師、性心理学者。イギリスとオーストラリアの間を往復する商船の船長のひとり息子で、16歳のとき父の船でオーストラリアに渡り、神秘的経験によって性の研究に関心をもったといわれる。帰国後医師の免許をとるが、診療には従事せず著作と編集で生計をたてる。その主著『性の心理学研究』全7巻(1897~1928)は第2巻『性的倒錯』をイギリスで出版したが、内容が露骨すぎるとの批判を受け、発禁とされたため、あとはアメリカで出版する。1933年にコンパクト版『性の心理学』を出版する。夢の研究でも有名で、イギリスのフロイトとよばれることがある。

[外林大作・川幡政道]

『ハヴロック・エリス著、佐藤晴夫訳『性の心理』7冊(1995~1996・未知谷)』『ハヴロック・エリス著、藤島昌平訳『夢の世界』(岩波文庫)』


エリス(ギリシア神話)
えりす
Eris

ギリシア神話で「不和、争い」を擬人化した女神。ローマではディスコルディアとよばれた。夜の神ニクスの娘で、「労苦」「忘却」「飢え」「苦痛」などさまざまの悪を体現する神々や、また「誓い」の神を生んだ。エリスは、多くの神々が出席したペレウステティスの結婚式に自分だけが招待されなかったのを恨み、宴席に黄金のリンゴを投げ込む。それが「パリスの審判」の原因となって、さらにトロヤ戦争にまで発展した。しかし、エリスにはよい競争を促す面もあるとされる。普通、彼女は翼をもった女性として描かれている。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス
Eris

太陽系にあり,海王星軌道と冥王星軌道の外側で太陽のまわりを公転している天体。準惑星に分類される。2005年,アメリカ合衆国のカリフォルニア州にあるパロマ山天文台で 2003年に撮影された画像のなかから発見された。エリスという名称が公式に決まるまでの仮符号は 2003 UB313。発見者によって「ゼナ」と呼ばれたほか,「第10惑星」ともいわれた。直径は約 2500kmで,冥王星より少し大きい。太陽のまわりを 560年周期で回り,軌道傾斜角の大きい楕円軌道を描く。スペクトルから,その表面はメタンの白い氷で覆われているとみられる。また少なくとも 1個の衛星を伴っている。ダイスノミアと呼ばれるその衛星はエリスの 8分の1の大きさで,公転周期は約 2週間である。エリスや冥王星は,2006年8月国際天文学連合 IAUにより,太陽のまわりを公転する天体の新しい分類として定義された準惑星に属することになった。2008年6月,IAUは,海王星の外側にあるエリスや冥王星をはじめとする準惑星を「冥王星型天体(プルートイド plutoid)」として分類した。

エリス
Ellis, (Henry) Havelock

[生]1859.2.2. サリー,クロイドン
[没]1939.7.8. サフォーク,ウォッシュブルック
イギリスの思想家,心理学者。ロンドンで医学を修めたが,転じて文学,科学に関する著作を行い,多くの資料に基づいて性欲,天才,犯罪,夢,結婚に関する研究を発表。性心理の最高権威。主著『犯罪者』 The Criminal (1890) ,『英国の天才の研究』 Study of British Genius (1904) ,『夢の世界』 The World of Dreams (11) ,『性の心理学研究』 Studies in the Psychology of Sex (7巻,1897~1928) 。

エリス
Exoat-mospheric Reentry-vehicle Interceptor System; ERIS

大気圏外再突入体迎撃システム。 SDI計画により開発されてきた地上発射型弾道ミサイル迎撃ミサイル。大気圏外で核弾頭を破壊するのが目的。軌道上のミラー衛星めがけて地上局から発射されたレーザーにより誘導されて接近し,内蔵センサーで目標物を捕捉し,ホーミング誘導で直接衝突し破壊する。 1992年にミニットマンIミサイルを目標として太平洋上で行われた実験で成功を収めている。しかし,最近の米ロ緊張緩和に伴って ICBM/SLCMなどの戦略核ミサイルに対する迎撃システムの重要性が低下したため,開発が中止される見通しである。

エリス
Eris

ギリシア神話の争いの女神。夜の女神ニュクスの子で,労苦ポノス,飢餓リモス,戦闘マケ,殺害フォノス,その他もろもろの災いを生んだとされる。トロイ戦争は,ペレウステティスの結婚を祝う神々の宴会の最中に,その場に自分が招かれなかった腹いせにエリスが投込んだ「最も美しい女神へ」と記された黄金のリンゴが,原因となって引起された。

エリス
Ēlis; Elea

ペロポネソス半島北西部に位置する古代ギリシアの都市国家。現イリア。馬の飼育と前 776年以来エリス人が司ったオリュンピア競技 (→古代競技会 ) で知られている。中心市エリスは前 572年までに全地域を統合,ときにスパルタと同盟または敵対したこともあったが,オリュンピア競技の主催者としておおむね中立を堅持し,独立を保持した。

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改訂新版 世界大百科事典 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス
Henry Havelock Ellis
生没年:1859-1939

性科学(セクソロジー)の創始者として知られるイギリスの医師。ロンドン近郊に船長の長男として生まれ,世界を周遊した後にロンドンに戻って医学を修め,開業医となったが,30歳代で研究,著作に専念する生活に入った。文芸批評,犯罪心理学,天才研究などの業績もあるが,1894年の《男と女》以来,性の研究に対する偏見と弾圧の強い時代に,一貫して性の科学的研究とその体系化に力を尽くした。主著は《性の心理学的研究》全6巻(1897-1910)で,古今東西のあらゆる分野の文献を集成した,一種の性科学の百科事典というべき労作である。自体愛(オートエロティズム)やナルシシズムなどの術語をつくり,自慰の有害性を否定し,女性に対する差別,偏見を批判し,S.フロイトをいち早く評価するなど,すぐれた批判精神によって,現代にいたる性の科学的研究の基礎をつくりあげた。また1926年に国際性科学会議を創立した功績も大きい。
執筆者:


エリス
Alexander John Ellis
生没年:1814-90

イギリスの古典学,数学,音楽学の研究者。英語の発音に関する科学的な研究でも知られるが,音楽においては,自身は,音感をもっていなかったといわれるが,民族音楽学の父と呼ばれるほどの業績を残した。特に重要な著作は,《諸民族の音階》(1885,邦訳1951)で,ここで,ヨーロッパだけでなくアジアやアフリカの楽器の音高が物理的な方法で計測され,音階の多様性が提示された。エリスは,音程を振動数によらずに,平均律の半音(これを100単位とする)との比較で行うためセントという単位を提案し,今日でも広く使われている。なお,ヘルムホルツの《音感覚論》の英訳もした。
執筆者:


エリス
Ēlis

ギリシア南部,ペロポネソス半島の中西部の地方。現在の呼称はイーリア。馬,羊,ヤギなどの牧畜と干しブドウ生産を行う。古代においてこの地方は馬とアマ栽培で知られた。またオリュンピアの祭典を主催し,早くから親スパルタの立場をとるが,ペロポネソス戦争中にアテナイ側に加わり,その結果前399年に国土の一部を失う。ペネイオス川流域の町エリスは前471年ころに建設され,オリュンピアに替わり政治の中心地となった。劇場,アゴラ北西部の体育場,レスリング場など発掘された遺跡も多い。
執筆者:


エリス
William Webb Ellis
生没年:1807-72

ラグビー・フットボールの創始者。イギリスのパブリック・スクールの一つ,ラグビー校在学中の1823年秋,校内フットボール大会の試合中,彼は興奮してルールを破り,ボールを手に持って相手のゴールへ突進したが,この反則がヒントとなり,後にボールを手に持って走るラグビー・フットボールのルールが考案されたといわれている(〈ラグビー〉の項を参照)。オックスフォード大学卒業後牧師となり,フランスに移住。
執筆者:


エリス
Eris

ギリシア神話の不和,争いの女神。ペレウスと海の女神テティスの婚礼の席にただひとり招かれなかったエリスは,その腹いせに,〈最も美しい女神に〉と記した黄金のリンゴを宴の場に投げ入れたため,ヘラ,アテナ,アフロディテの3女神の争いとなったが,ゼウスに審判を命じられたトロイアの王子パリスは,彼と美女ヘレネとの結婚を約束したアフロディテに軍配をあげた。これがもとでトロイア戦争がおきたという。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「エリス」の意味・わかりやすい解説

エリス

ギリシア神話の不和と争いの女神。軍神アレスの妹で彼に従う。女神テティスとペレウスの結婚式に招かれなかった腹いせに,〈最も美しい女神に〉と記した黄金のリンゴを宴の場に投げ入れ,ヘラ,アテナ,アフロディテ3女神の争いを惹起し,パリスの審判を仰ぐことになって,これがトロイア戦争の遠因となる。

エリス[諸島]【エリス】

南西太平洋,東経176°〜180°に,北西〜南東方向に散在する9個の環礁よりなる諸島。英植民地であったが,1978年ツバルとして独立。
→関連項目キリバスギルバート[諸島]

エリス

英国の著述家,心理学者。性科学(セクソロジー)の創始者として知られる。初め医学を修めたが,開業医をやめて文筆生活に入った。文学論をはじめ多くの著書があるが,天才,犯罪,夢,特に性心理に関する研究で知られる。主著は《性の心理学研究》全6巻(1897年―1910年)。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エリス」の解説

エリス
Elis

古代ギリシアの一地方。ペロポネソス半島西北部に位置し,オリュンピアをそのなかに含む。地味に恵まれ,馬の飼育も盛んであったが,ポリスの形成が遅れ,前471年ようやく中心市への集住をみた。

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世界大百科事典(旧版)内のエリスの言及

【ツバル】より

…バチカン,モナコ,ナウルに次いで4番目に小さい国である。旧称エリス諸島Ellice Islands。
[自然]
 最北の島から最南の島まで560kmにも及ぶが,総面積は25.9km2にしかすぎず,最大のバイトゥプ島で5.6km2,最小のニウラキタ(ヌラキタ)島は0.5km2である。…

【トロイア戦争】より


[伝説の荒筋]
 人間の数が増えすぎ,これを支えるに難渋する大地母神をあわれんだ大神ゼウスは,その解決策として人間たちの間に戦争を起こす計画を立てる。後に《イーリアス》の主人公として活躍するアキレウスの両親たる女神テティスThetisと英雄ペレウスの婚儀が盛大に催され,すべての神々が出席したが,当然ながら不和の女神エリスだけは招かれなかった。立腹した女神は〈もっとも美しき女神に〉と彫った黄金のリンゴを宴席に投げ入れた。…

【民族音楽学】より

…しかし,近代的な学問としての比較音楽学は1885年以降に成立した。初期の比較音楽学の業績で最も重要なものの一つは,A.J.エリスの《諸民族の音階》(1885)である。エリスは,音程の実体を正確に表記する目的でセント法を考案して用いた。…

【性の心理学】より

…イギリスの性科学者H.H.エリスの著作。1933年刊。…

【ラグビー】より

…ラグビー創始以前のフットボールについては〈サッカー〉の項を参照されたい。
[沿革]
 今日のラグビー(近代スポーツとしてのラグビー)の発祥については諸説あるが,概ね,〈1823年,イギリスのパブリック・スクール(イートン,ハロー,ウィンチェスターなど)の一つであるラグビー校においてフットボールの試合中に,W.W.エリス少年が興奮のあまり規則と慣習に反し,ボールを腕に抱えて走ったことにはじまる〉と伝えられている。このエリス少年の行動については,〈単に故郷アイルランドのゲーリックフットボールgaelic footballのプレーをそのまま行ったにすぎない〉ともいわれており,〈ボールを抱えて走った〉彼の行為が偶然か否かは別にして今日のラグビーの礎になったといわれているのである。…

※「エリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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