改訂新版 世界大百科事典 「ムルシリ1世」の意味・わかりやすい解説
ムルシリ[1世]
Mursili Ⅰ
生没年:?-前1590ころ
ヒッタイト古王国の第3代の王。在位,前1620ころ-前1590年ころ。祖父ハットゥシリ1世の遺命により王位に就いた。祖父の征討により支配下に入っていたシリアのハルパ(今のアレッポ)に反乱が起こると,同地へ向かって出陣し,その平定ののち,余勢を駆ってさらに兵を南東に進め,故国の王城ハットゥサからは実に1200kmの山河を隔てるユーフラテス河畔のバビロンを急襲して,ハンムラピ王以来の由緒を誇るバビロン第1王朝をついに攻め滅ぼしてしまった。このバビロン急襲は,バビロン側の記録にも記されていて,前1595年ころのことと知られるので,ヒッタイト史の編年を定めていくうえで重要な手がかりの一つである。ムルシリ王はこのように祖父の業を受けて王国の武威を輝かせたのであるが,この遠征から帰ると妹婿ハンティリ1世(在位,前1590ころ-前1560ころ)に暗殺されて王位を奪われ,このあと古王国は,宮廷内の権力闘争のためにしだいに衰退に向かっていく。
執筆者:岸本 通夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報