バビロン(読み)ばびろん(英語表記)Babylon

翻訳|Babylon

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バビロン」の意味・わかりやすい解説

バビロン
Aṭlāl Bābil; Babylon

イラク首都バグダードの南方約 88km,ヒッラ近郊にあった古代都市。バビロニア語でバビル Bab-ilu,古バビロニア語でバビリム Bāb-ilim,ヘブライ語でバベル Bavel; Babelと呼ばれた。ユーフラテス川のほとりに位置し,シリアとペルシア,およびチグリス川とユーフラテス川両河川を結ぶ交通の要地として,前19世紀バビロン第1王朝の首都となり,ハンムラビ王の時代に最も栄えた。以降は守護神マルドゥクの信仰を発展させ,宗教的にも重要な都市となり,後世の王たちの即位式がバビロンで行なわれた。その後ヒッタイトの侵入,アッシリアとの戦いで戦禍を被ったが,前7~前6世紀の新バビロニア時代にナボポラッサルネブカドネザル2世のもとで王国の首都として繁栄した。前539年以後アケメネス朝ペルシアの支配下に入り,クセルクセス1世治下の前482年に反乱を起こし破壊された。前323年アレクサンドロス3世(大王)のときマケドニア王国の首都に定められたが,彼の死後しだいに衰微した。1899~1917年ドイツ・オリエント学会のロベルト・コルデワイが発掘を行なったが,出現した都市遺跡は新バビロニア時代のものであった。二重の城壁で囲まれた都市のほぼ中央をユーフラテス川が流れ,東岸の旧市街と西岸の新市街に分かれている。東岸に設けられた神域(テメノス)には,マルドゥクをまつる神殿エサギラと,旧約聖書バベルの塔原型とされるジッグラト(聖塔)のエテメナンキのほか,イシュタル神殿など多くの神殿が建造されていた。旧市街の北側には城塞を南北にまたぐ王宮が建てられ,南の王宮には広い玉座の間や博物館,屋上庭園(→バビロンの吊り庭園)がつくられた。王宮の東に位置する正門はイシュタル門と呼ばれて「行列道路」に連なり,彩釉煉瓦の壁面に描かれたライオンなど動物の浮彫で知られる。城塞都市のさらに外側(東岸)にも壁が築かれ,北方には夏の王宮があった。一帯は 2019年世界遺産の文化遺産に登録された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バビロン」の意味・わかりやすい解説

バビロン
ばびろん
Babylon

古代バビロニアおよび新バビロニア(カルデア朝)の首都として繁栄した古代都市。その遺跡はイラク共和国の首都バグダード南方約110キロメートルのユーフラテス川河畔にある。バビロンの名は、シュメール語カ・ディンギル「神の門」を、バビロニア語に訳したバーブ・イル(ここからヘブライ語バベルが出た)、あるいはイル「神」を複数にしたバーブ・イラーニのギリシア語形で、もとここはメソポタミアの古い神域であった。バビロンについての記録はアッカド朝シャルカリシャッリ王(前2300ころ)にさかのぼるが、もっとも繁栄したのはバビロン第1王朝、とりわけ英主ハムラビ王(在位前1792~前1750または前1728~前1686)の時代であった。バビロン第9王朝を継ぐ新バビロニア(カルデア王朝、前625~前539)の第2代ネブカドネザル2世(在位前605~前562)のもとでバビロンは新たに補修・造営されたが、前539年にアケメネス朝ペルシアの攻撃を受けてこの王朝は倒れ、ついでこの地に入ったマケドニアアレクサンドロス大王がここで没してから、セレウコス朝(シリア王国)のもとで近くにセレウキアが建設されたためにバビロンは衰退した。

 バビロンについては『旧・新約聖書』、古典古代の著述家(とくにヘロドトス)が種々の伝承・記述を伝えている。『旧約聖書』では、いわゆるバベルの塔(ジッグラト)、バビロニアによるユダ王国の征服、バビロン捕囚(前597、前586)とバビロンからの帰還、バビロンの陥落などが記されており、とりわけバビロン(新バビロニア)の横暴を憤り、その滅亡を予言する「エレミヤ書」、捕囚の苦しみを歌う「詩篇(しへん)」第137篇などはよく知られている。

 近代になって、ハムラビ法典やバビロンの新年祭(アキトゥー祭)文書、多くの年代記などの楔形(くさびがた)文字文書から、バビロンをめぐる歴史、宗教、社会などがかなり明らかになった。また1899~1917年にはR・コルデウァイの指揮下にドイツ調査団がこの地を発掘し、主としてネブカドネザル2世治下のバビロン(ユーフラテスを挟む城壁、中央のジッグラト、イシュタル門と通り、いわゆる空中庭園の跡など)が確認された。

[矢島文夫]

『パロ著、波木居斉二訳『ニネヴェとバビロン――続・聖書の考古学』(1959・みすず書房)』『J・G・マッキーン著、岩永博訳『バビロン』(1976・法政大学出版局)』


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