改訂新版 世界大百科事典 「モエシア」の意味・わかりやすい解説
モエシア
Moesia
ドナウ川下流の南岸,今日のセルビア地方(ユーゴスラビア),ブルガリア北部,ドブロジャ地方(ルーマニア)に相当する地域に位置したローマ帝国属州の名。前29年,トラキア系を主とする原住諸族がローマ軍に敗れてその支配下に入り,後44年ころまでにはコンスル級総督をもつ皇帝管轄属州としての編制が整った。ドミティアヌス帝治下に上・下モエシア州に分かれ,ディオクレティアヌス帝により,あらためて5州に分割された。辺境属州ゆえに強力なローマ軍団が常駐し,その軍営地はローマ化の拠点となった。現ベオグラード(古名シンギドゥヌム)など同州の主要都市の多くは,ドナウ川沿岸の軍営地から発展したものである。産業としてはドナウ川流域の穀物・果樹栽培,山岳地帯の鉱業が発達していた。
執筆者:後藤 篤子
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