改訂新版 世界大百科事典 「モールフィ公爵夫人」の意味・わかりやすい解説
モールフィ公爵夫人 (モールフィこうしゃくふじん)
The Duchess of Malfi
イギリスの劇作家J.ウェブスター作の悲劇。1614年初演。16世紀の著述家ウィリアム・ペインターの《快楽の宮殿》から題材を得ている。活発で美しい未亡人モールフィ公爵夫人は,ひそかに謹直な家令アントニオと結婚して2児をもうけるが,やがてその事実は家門の名誉を重んじる2人の兄,枢機卿とカラブリア公爵ファーディナンドの知るところとなる。兄たちの復讐を避けるべく彼女は夫を逃がしてみずからも他国に落ちのびようとするが捕らえられ,兄たちの手先である残忍なボゾラによって獄中で繰り返し陰惨きわまりない精神的責め苦にさらされたあげく,侍女ともども絞殺される。その後改心したボゾラは誤ってアントニオを殺したのち枢機卿を刺殺し,さらに狂人となったファーディナンドにも致命傷を負わせてみずからも刺されて死ぬ。加虐的な責め,血なまぐさい殺人,狂気の発作,狂人の踊りなどグロテスクな道具立ての中に高貴に耐える女主人公を配する一方,皮肉で病的なまでに官能的な詩的言語によって,退廃した悲愴美を表現したエリザベス朝悲劇の代表作である。
執筆者:笹山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報