改訂新版 世界大百科事典 「ヤコプソン器官」の意味・わかりやすい解説
ヤコプソン器官 (ヤコプソンきかん)
Jacobson's organ
発見者ヤコプソンL.L.Jacobson(1783-1843)にちなんで名づけられ,鋤鼻(じよび)器官vomeronasal organともいう。陸上四足動物の鼻腔の一部が左右にふくらんでできた囊状の嗅覚器官で,嗅球の後部内側の副嗅球からのびた鋤鼻神経に支配される。ふつうは盲囊になっていて,両生類では鼻腔内へ,爬虫類と多くの哺乳類では鼻口蓋管を通じて口腔内に開く。ヘビ,トカゲ類では涙管からの涙がヤコプソン器官へ流れ,内壁を湿らせる。カメ類では発達が悪く,ワニ類と鳥類では消失し,哺乳類のなかでも霊長類,コウモリ類,水生哺乳類では退化している。
ヘビ類とトカゲ類ではよく発達していて,鼻よりもむしろ主要な嗅覚器官になっている。これらの爬虫類が頻繁に舌を出し入れするのは,舌の先端に捕らえた空中のにおい物質を口腔内に開いたヤコプソン器官の開口部へ送りこんでいるのである。哺乳類では鼻が主要な嗅覚器官となっていて,ヤコプソン器官は性フェロモンを感受するだけの器官となっている。
執筆者:疋田 努
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報