ヘビ(読み)へび(英語表記)snake

翻訳|snake

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビ」の意味・わかりやすい解説

ヘビ
へび / 蛇
snake
serpent

爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目ヘビ亜目に属する四肢の退化した爬虫類の総称。有鱗目Squamataはこのヘビ亜目Ophidiaとトカゲ亜目とで構成され、ヘビの祖先型はトカゲのプラチノータ群Platynotaから分化したものと考えられている。ヘビの現生種は約2500種が知られ、南極を除く世界の各大陸に広く分布し、一部のものは北極圏付近に達している。日本には亜種を含め陸生33種、海生9種が分布している。現生ヘビはほとんどが全長1~2メートルで、最大はアミメニシキヘビPython reticulatusの9.9メートル、最小はロイターメクラヘビTyphlina reuteriなどの約10センチメートルである。

[松井孝爾]

形態

体形はきわめて細長く、尾は樹上性の長いもので全長の約3分の1を占め、地中性の短いものでは10分の1ぐらいで、自切も再生もしない。頭部は大きくて頸部(けいぶ)がくびれるが、地中種では全身が同じ太さの細長い円筒形となる。全身が表皮の角質化した体鱗に覆われ、大半の種が頭部では大形鱗に分化するが、ハブ類、ボア類など一部では頭頂部が細鱗に覆われる。腹面は胴部が幅広い腹板、尾部では1、2列の尾下板に分化し、両者の間は1、2枚の肛板(こうばん)となる。しかし地中種や水生種では腹板、尾下板ともに退化的で幅狭く、大部分のウミヘビ類ではまったく痕跡(こんせき)的である。樹上性では体鱗に隆条(キール)の発達するものが多く、まったくの地上性や地中性では滑らかなものが多い。すべて四肢を欠き、ボア科やメクラヘビ科など原始的なグループでは、つめ状をした後肢の痕跡が肛板の両側に認められ、体内に腰帯の痕跡が棒状またはY字形の小骨として残る。頭骨の側頭窓(目の後方にある開口部)は上側の1個のみで下側頭窓は形成されず、橋もなくて下方が大きく開いている。方骨は上側頭骨を介して頭蓋(とうがい)に緩く関節するため、これと関節する下顎(かがく)を上下や前後に大きく動かすことができる。また下顎骨はトカゲと違って、前端が固着せず靭帯(じんたい)組織で結合するため、左右を別々に押し下げて、さらに口を大きく開くことができる。ただメクラヘビ類は上側頭骨を欠いて方骨が頭蓋に固着し、また下顎前端が小骨を介して固着するため、口は大きく開かない。歯は顎骨の縁に癒着した頂生で、細長く鋭くて後方に曲がり、上顎では上顎骨、口蓋骨に計4列、下顎では歯骨に2列が配列するが、食性によって歯が数少なくなったものもある。毒ヘビでは上顎の1、2本が毒液を注入する毒牙(どくが)となる。脊柱(せきちゅう)は200~400個に及ぶ脊椎骨(せきついこつ)からなり、各脊椎骨は突起によって巧妙に連結され、左右に約25度、上下に25~30度も曲げることができる。したがってヘビは、自由に長い体を屈伸し、あるいは獲物を巻き締めることができる。1、2個の頸椎を除き、すべての脊椎骨には1対ずつの肋骨(ろっこつ)があり、胸骨を欠くため末端が遊離する。各肋骨は末端部で腹板に、中央部では腹板に接する体鱗とそれぞれ筋肉で連結し、歩行の原動力となる。

[松井孝爾]

生理

ヘビの目は、眼瞼(がんけん)が固着して1枚の透明な鱗(うろこ)で覆われ、側頭部に位置するため立体的視覚をもたず、視力は劣る。しかし至近距離で動くものはよく見える。ハナナガムチヘビ属Ahaetullaやエダヘビ属Oxybelisなどの樹上性の種では、吻部(ふんぶ)が細長くて側扁(そくへん)し、視野が前方で交差して立体的視覚があり、瞳孔(どうこう)も横長の特殊な形状をしている。ほとんどの種は瞳孔が円形で、クサリヘビ科や日本産のマダラヘビ属Dinodonなど夜行性の種では縦長。メクラヘビ類では目は退化している。聴覚は鈍く、耳孔も鼓膜も欠くが、地上を伝わる振動には敏感である。ヤコブソン器官(鼻腔(びこう)の一部が左右に膨出してできた1対の嚢状(のうじょう)嗅受容器(きゅうじゅようき))が発達し嗅覚は鋭敏で、さらにヘビ特有の舌による嗅覚作用が加わる。すなわち、先端が二分した舌を出し入れさせて、空中に漂うにおいの微粒子をヤコブソン器官まで運び、獲物や天敵の存在を察知する。舌はまた空気の振動や流れ、温度差なども感じ取る。したがってヘビは行動時や獲物に接近したとき盛んに舌を出し入れする。ニシキヘビ亜科の上唇板とマムシ亜科の目の前下方にあるピットpit(頬窩(きょうか))は、恒温動物の体温から出る赤外線に敏感な器官である。とくにマムシ類のピットは構造的に優れ、暗夜でも、左右1対のピットで立体的に獲物や天敵の位置をとらえて、正確に毒牙を打ち込むことができる。ヘビの内臓は細長い体形に比例して長くなり、湾曲が少ない。多くの種では左肺が退化して右肺のみ長くなり、後室部分が胴の中央部まで達している。肺は遊泳の浮力を増したり、胴を膨らませて威嚇するのに役だち、また強く息を吐き出してシューッという威嚇の噴気音をたてる。ウミヘビには肺の後室がほとんど胴の末端部まで達するものがあり、空気を蓄えて海に潜る。

[松井孝爾]

毒と捕食

毒ヘビは大半が世界の熱帯・亜熱帯に分布し、約300種が致命的な毒をもつ危険種であり、人間には被害を与えない弱毒種がほぼ同数ある。上顎前端または後部に1、2対の毒牙をもち、口腔腺(こうこうせん)(唾液腺(だえき))の一種である耳下腺または唇腺から変化した毒腺を、両頬部に備えている。毒牙には歯の側面に溝のある溝牙(こうが)と、溝が完全に閉ざされて注射針状になった管牙(かんが)とがあり、毒腺とは導管で連絡する。毒牙の位置によって、ブームスランDispholidus typusやマングローブヘビBoiga dendrophilaなど溝牙を上顎後部にもつ後牙類、コブラやウミヘビなど溝牙を前部にもつ前牙類、そしてマムシやクサリヘビなど上顎前部に可動的な管牙をもつ管牙類(可動牙類)に大別される。ヘビの毒は各種酵素と毒性タンパク質などの複雑な成分からなり、おもな毒成分に出血毒、神経毒、心臓毒、溶血素などがあって、種によって成分構成が微妙に異なる。毒の主目的は獲物に注入して抵抗力を失わせ、効率よく餌(えさ)を得ることで、また成分中の酵素は餌の消化を促進させる効果がある。毒は二次的には自衛手段に用いられ、人畜に危害を与える。一般の無毒ヘビは獲物にかみつき胴で巻き締めて窒息させるが、小さな餌はそのまま飲み込む。餌は生きた哺乳類(ほにゅうるい)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などで、小形種や幼いヘビはミミズナメクジ、昆虫類をとらえ、食性は成長に伴って変化する。鳥の卵を好むものは発達した脊椎下突起で卵殻を破る。ヘビは弾力性に富んだ頭骨構造により、口を大きく開いて大きな餌を飲むことができる。胸骨を欠くため肋骨は自由に開閉し、皮膚には伸縮性があって、餌を通過させる。消化力が強く、獲物は数日で毛やつめの一部を残してすべて消化される。

[松井孝爾]

生態

ヘビの約4分の3が卵生で、ほかはマムシ類などの卵胎生である。肛門裂(こうもんれつ)は体軸に直角に開き、ここから後ろが尾である。雄には1対の半陰茎hemipenisがあって交尾を行い、1回の交尾で数回の受精が可能である。1回の産卵数は平均10~20個ほどで、最少は2個、最多はニシキヘビ類の100個余りである。普通、孵化(ふか)には30~40日を要し、短いものは南西諸島産のヒメハブTrimeresurus okinavensisなどが1、2日で卵胎生に近く、長いものはエラブウミヘビLaticauda semifasciataの約5か月である。

 世界の各地で適応放散の結果、平地から4000メートルの高地に至る森林、草原、湿地、荒れ地、砂漠の至る所に生活圏を広げ、地上、樹上および地中から海洋にまで生息している。一部が居住区周辺にすみつき、家屋内にも入る。卵は大半が放置され自然孵化するが、誕生後は終生単独で生活し、少数が繁殖期に集合したり冬眠で集まる以外は、群れをつくることがない。音声を出さず行動も静かなため、生息数のわりには人目に触れることが少ない。変温動物であるため体温調節は日なたと日陰との移動によって行い、索餌(さくじ)以外はあまり行動しない。行動はヘビ特有の蛇行運動によるが、この運動による力学的な力の合成で前進するとともに、肋骨の先端を支持物に押し付けて起伏運動する。このとき、筋肉で肋骨と連結する腹板は、複雑な地形に対応して連続的に歯止めの役割を果たし、角張った両端で横滑りを防いでいる。好んで木に登る種類では腹板の両端が角張り、これを樹皮にひっかける。蛇行にもいくつかのタイプがあり、胴の太いクサリヘビ類やニシキヘビ類では体を伸ばしたまま腹壁を波打たせる匍匐運動(ほふくうんどう)であり、砂漠にすむサイドワインダーCrotalus cerastesやツノクサリヘビCerastes cerastesは特有の横ばい運動を行う。海生のウミヘビでは尾部が著しく側扁してひれ状となる。毒ヘビのサンゴヘビMicrurusなどは鮮やかな標識色(警戒色)をもつが、大半は色彩斑紋(はんもん)が有効な保護色となっている。しかし、体色は変化せず、性別による色彩変異も少ない。一般にヘビは性質が温和で、毒ヘビですら原則として自衛以外に人間を攻撃することがない。多くの種は頸部や胴を膨らませ、尾を激しく振って威嚇する。

[松井孝爾]

系統と分類

ヘビはトカゲ類を祖先として三畳紀に分化したと考えられるが、化石が少なく系統的な祖先型を知ることはむずかしい。最古の化石は南アメリカのパタゴニアにある白亜紀後期の地層から発見された全長約2メートルのディニリシアDinilysiaなどで、現生のアニリウス科Aniliidaeと近縁である。現生のヘビは主として頭骨や脊椎骨の相違によって次の3群(下目)11科に分類される。

〔1〕メクラヘビ群 地中生活をするミミズ型の小形種。頭部から尾部まで円筒形の同じ太さで、尾がきわめて短い。頭部以外は同大の細鱗に覆われ、腹板は分化しない。多くの種では腰帯と後肢の痕跡が小骨として残る。世界の熱帯・亜熱帯に分布し、全長約10~30センチメートル。メクラヘビ科Typhlopidae約180種は上顎にのみ歯があり、ホソメクラヘビ科Leptotyphlopidae約50種は下顎にのみ歯をもつ。これに対し、アメリカミミズヘビ科Anomalepididae約20種は両顎に歯があり腰帯の痕跡を欠く。

〔2〕ムカシヘビ群 頭骨の構造が原始的で、多くの種にはつめ状の後肢痕跡がある。世界の熱帯・亜熱帯に分布し、ヘビの最大種アミメニシキヘビ、アナコンダEunectes murinusをはじめ大形種が含まれる。半地中性で原始的なアニリウス科6種、キセノペルティス科Xenopeltidae1種、ウロペルティス科Uropeltidae43種、水生のヤスリヘビ科Acrochordidae3種、および大形のボア科Boidae65種の5科が属する。

〔3〕ヘビ群 頭骨の構造などの進化が進んだ一群で、毒ヘビを含む現生種の大部分が属する。分布域はヘビ亜目全般と同じで、大半が全長1~2メートル、適応放散してさまざまな形態に分化している。

(1)ナミヘビ科Colubridae 日本産無毒ヘビ(メクラヘビを除く)の全種をはじめ、現生ヘビの総数の3分の2ほどが含まれる。腹板はよく分化し腰帯や後肢の痕跡はまったく認められない。一部の種が上顎後方に溝牙をもち、さらにそのうちの少数が毒性の強い危険種である。

(2)コブラ科Elapidae コブラ、サンゴヘビ、ウミヘビなど約230種が含まれる。上顎前部に溝牙を生じ、すべてが毒性の強い危険種。神経毒が主成分である。

(3)クサリヘビ科Viperidae 約180種が属し、ピット器官をもつマムシ亜科と、これを欠くクサリヘビ亜科やトゲオマムシ亜科に分類される。上顎前部に可動的な管牙をもち、毒性の強い危険種が多い。出血毒が主成分である。

[松井孝爾]

人間生活との関係

ヘビは一般的な風習としては嫌悪されるが、危険種は毒ヘビに限られ、大形のニシキヘビでも人間を襲う例はきわめてまれである。無毒ヘビは小鳥とその雛(ひな)や卵を捕食するものの、農林業に大きな被害を与えるネズミ類をとらえ、役だっている。一部がペットにされ、また皮革細工の材料として重用される。近年では毒成分なども医療に用いられるが、本体は古くから世界の各地で民間薬用や食用に供されてきた。

[松井孝爾]

文化史

外国

ヘビの出現をなんらかの予兆と考える所は多く、たとえば中世のヨーロッパ、アラビア南アフリカのバントゥー系諸族などでは吉兆としたが、シレジア地方(ポーランド)では吉兆ではあるが不幸が起こる前兆とも考え、ノルウェーでは不吉とした。またヘビはその生態から、地界や水と関係し、しばしば地下神に結び付けられたり、死者の霊魂とみなされた。水神、雨神、作物神としても崇拝され、インド、ケララ州のドラビダ人の間では、雨と豊作をもたらすほか、生産力や生殖力をもつと信じられている。そのため不妊の女性が石像のヘビに祈ったり、コブラを神聖視してけっして殺さず、コブラに捧(ささ)げるための牛乳を入れたコップを家の庭に置いておく。

 日本の奄美(あまみ)地方では、ハブにかまれるのは、神とくに水神への信仰不足を知らせるためという。メキシコ神話に出てくる羽の生えたヘビ神ケツァルコアトルは、風や雨、トウモロコシの栽培と深い関係がある。商業の神、医学の神と結び付けられることもあり、WHO(世界保健機関)のマークにもヘビの姿がデザインされているほか、ヘビが財宝を守っているという伝説はヨーロッパ各地にある。

 反面、ヘビは呪力(じゅりょく)をもつと考えられ、イタリアのロマニア地方では妖術(ようじゅつ)や邪視を防ぐため壁にヘビの絵をかくが、ゾロアスター教ではもっとも邪悪な存在とされて、みつけしだい殺される。古代イスラエルでも、エデンの園のヘビは悪の象徴である。

 このようにヘビが善と悪の二面性および呪力をもつとされるのは、ヘビには足がなくてウロコがあるため陸上動物と魚類との区分を乱し、さらに生息場所が地上だけでなく、地下、樹上、水辺、人間の住居にも出没するという空間区分をも乱す、中間的、変則的な動物であるためと考えられる。

[板橋作美]

日本

ヘビのように人間と特殊な関係をもっている動物は少ない。日本でも古代から、山の神、水の神、雷神としてのヘビの信仰が伝えられており、記紀には八岐大蛇(やまたのおろち)についての物語や、大和(やまと)の御諸山(みもろやま)の祭神大物主命(おおものぬしのみこと)が蛇体であったことが記されている。

 諸地方の神事や雨乞(あまご)いには蛇体をつくって引き回す例が多く、奈良県御所(ごせ)市の野口神社では、蛇祭(じゃまつり)といってこの蛇体を村中引き回すが、家々ではこれにみそ汁をかけるため、汁掛祭(しるかけまつり)ともよんでいる。島根県出雲(いずも)地方では、梅雨神(つゆがみ)といって梅雨期だけに岩の割れ目からヘビが頭を出すというが、これは田植開始のたいせつな兆候から生まれた信仰と思われる。長野県佐久(さく)市などには、蛇の枕石(まくらいし)、蛇石(へびいし)といって、雨乞いをするときにこの石の所で経を読むという。また民家では、ヘビを土蔵の守り神とする例が多くみられ、とくに白蛇がよいとされるが、一方、白蛇は弁天様(べんてんさま)(弁才天)の使いともされ、鎌倉の円覚寺には、白ヘビがとぐろを巻いた上に弁天様が座している像がある。

 ヘビについての昔話や伝説は全国各地に語られている。昔話には、ヘビが人間の婿(むこ)あるいは女房の姿となって結婚し、最後に幸福に終わるという「蛇婿入り」「蛇女房」などがあり、和歌山県の道成寺縁起(どうじょうじえんぎ)として知られる「安珍清姫(あんちんきよひめ)」のように、人が執念のあげく蛇体になるという伝説もある。愛媛県をはじめ四国には、蛇筋(へびすじ)、蛇持(へびも)ちという憑き物(つきもの)持ちの家があると伝えられているほか、越後(えちご)(新潟県)の五十嵐(いがらし)家や九州の緒方家などには、蛇の子孫という古くからの家伝も伝えられている。

[大藤時彦]

 『和名抄(わみょうしょう)』に、ヘミ、クチナハ、ヲロチ、カラスヘミ、ニシキヘミなどの異名が掲げられているように、古くはヘミとよばれた。記紀などに早くからみられ、須佐之男命(すさのおのみこと)が八岐大蛇を退治する話、大国主神(おおくにぬしのかみ)が須勢理毘売(すせりびめ)に求婚して蛇の室に入れられる話、神体が蛇である大物主神が人の娘に通って正体が知られる話(三輪山伝説(みわやまでんせつ))などがよく知られている。『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』の行方郡(なめかたぐん)条には夜刀の神(やつのかみ)(角のある蛇という)が田の耕作を妨げた話、香島郡(かしまぐん)条には蛇が角(つの)を折ったという角折(つのおれ)の浜の話、那賀郡(なかぐん)条には人の娘が神の子の小蛇を産んだ話があり、他の国の風土記にもいくつか説話が記されている。『日本霊異記(にほんりょういき)』中巻には、蟹(かに)が恩返しに、蛙(かえる)を救うために蛇の妻となろうとした娘を助ける話などがあり、『今昔物語集』をはじめとして説話文学には蛇の話が数多く語られ、邪淫(じゃいん)や執着にまつわる内容の話などが伝えられている。『仏足石歌(ぶっそくせきか)』には、人間の肉身を不浄の物として、「四つの蛇(へみ)五つの鬼の集まれる穢(きたな)き身をば厭(いと)ひ捨つべし離れ捨つべし」という歌謡がある。『蜻蛉日記(かげろうにっき)』中巻には、蛇が肝を食う夢の記事があり、『枕草子(まくらのそうし)』の蟻通(ありどおし)の明神の説話にも蛇が出てくる。『うつほ物語』「俊蔭(としかげ)」には「悪を含める毒蛇」とあり、『堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)』「虫めづる姫君」には、作り物の蛇に驚く場面がある。『徒然草(つれづれぐさ)』には、蛇に食われたときに用いる薬草のことや、祟(たた)りを恐れずに蛇塚を崩した話などが書かれている。季題は夏。

[小町谷照彦]

『『学研の図鑑 爬虫・両生類』(1973・学習研究社)』『中村健児・上野俊一著『原色日本両生爬虫類図鑑』(1976・保育社)』『吉野裕子著『ものと人間の文化史32――蛇』(1979・法政大学出版局)』『『小学館の学習百科図鑑36 両生・はちゅう類』(1982・小学館)』『日高敏隆監修『日本動物大百科第5巻 両生類・爬虫類・軟骨魚類』(1996・平凡社)』


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