鳥類(読み)ちょうるい(英語表記)bird 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳥類」の意味・わかりやすい解説

鳥類
ちょうるい
bird 英語
oiseau フランス語
Vogel ドイツ語

脊椎(せきつい)動物門鳥綱に属する動物の総称脊椎動物はもちろん、全動物群のなかで、飛翔(ひしょう)生活がもっとも高度に発達した動物群である。世界に約9000種(化石種は含まない)が分布する。生息環境は陸上、淡水、海洋のすべてにわたるが、多くのものは陸生で、樹上生活をする。

[森岡弘之]

特徴

鳥類は、体形、形態、生理はもとより、生活史、生態、行動、社会に至るまで、ほとんどあらゆる点で飛翔(ひしょう)に対する適応を示す。ダチョウやペンギンのように飛べない鳥もいるが、それらでさえ飛べる鳥と共通の特徴をもつ。おもな特徴は次のとおりである。

 (1)体に羽毛が生えている。(2)前肢は翼となり、後肢で体を支える。(3)皮膚は薄く、汗腺(かんせん)がない。(4)角質の鞘(さや)で覆われた嘴(くちばし)と、鱗(うろこ)のある足をもつ。(5)骨は含気性で、軽い。(6)頭蓋(とうがい)骨は互いに癒合して、縫合線はない。(7)頸(くび)は多少とも長く、頭はほとんどあらゆる方向に向けられる。(8)肋骨(ろっこつ)には鉤(かぎ)状突起がある。(9)胸骨には竜骨突起があり(走鳥類にはない)、鎖骨、烏口(うこう)骨は発達している。(10)消化器系には嗉嚢(そのう)、前胃、砂嚢などをもつ。(11)窒素代謝の老廃物は尿酸として排出する。(12)塩腺をもつ(主として海生のものだけ)。(13)膀胱(ぼうこう)がなく(ダチョウを除く)、総排出口をもつ。(14)気嚢とよばれる空気袋がある。(15)気管支は肺を貫通し、気嚢と連なる。(16)脳は大脳、小脳、視葉が発達する。(17)眼球は大きく、瞬膜をもち、網膜の中心窩(か)は通常二つないし三つある。(18)聴覚はよく発達している。(19)発声は鳴管で行う。(20)心臓は二心房二心室。(21)定温動物。(22)卵生。このほかにも多くの特徴をあげうるが、要するに、羽毛をもった、定温性で卵生の脊椎(せきつい)動物であり、前肢が翼となっていることなどが、ほかの脊椎動物と異なっている。

[森岡弘之]

系統と分類

鳥類にもっとも類縁が近い脊椎(せきつい)動物は爬虫(はちゅう)類である。最初の鳥は中生代中ごろのジュラ紀に生息していたアーケオプテリックス(いわゆる始祖鳥)であるが、この鳥は事実、鳥類と爬虫類の両方の特徴をあわせもっていた。しかし、哺乳(ほにゅう)類が原始的な爬虫類から進化を始めたのもほぼ同じころなので、原始的な爬虫類から現生の爬虫類、鳥類、哺乳類がだいたい平行的に進化したといえよう。

 鳥綱は、古鳥亜綱と新鳥亜綱とに大別できる。古鳥亜綱はアーケオプテリックスだけを含み、多くの尾椎よりなる尾のあることや、手指の先につめが残っていることなど、爬虫類的特徴が多い。新鳥亜綱は、あごに歯のあるものもいる点を除くと、すべての特徴は現生の鳥類と同じである。新鳥類のうちで、歯をもったものは白亜紀の歯鳥類で、ヘスペロルニスというアビに似た潜水鳥と、イクチオルニスというアジサシに似た海鳥とである。それ以外の鳥類はみな真鳥類で、歯をもっていない。

 鳥類の分類は、外部形態、比較解剖、習性や行動、血清反応、染色体、タンパク質組成などに基づいて、さまざまな意見が提出されている。比較的多くの学者によって採用されている分類は、次のようなものである。

 目としては、古鳥類、歯鳥類を除けば26目を認める。それらは、(1)ダチョウ目、(2)シギダチョウ目、(3)ミズナギドリ目、(4)ペンギン目、(5)アビ目、(6)カイツブリ目、(7)ペリカン目、(8)コウノトリ目、(9)フラミンゴ目、(10)タカ目、(11)カモ目、(12)キジ目、(13)ツル目、(14)ディアトリマ目(現生種はいない)、(15)チドリ目、(16)ハト目、(17)オウム目、(18)ホトトギス目、(19)フクロウ目、(20)ヨタカ目、(21)アマツバメ目、(22)ネズミドリ目、(23)キヌバネドリ目、(24)ブッポウソウ目、(25)キツツキ目、(26)スズメ目、である。以上の目は約158科に分類される(化石種だけの科は除く)。真鳥類のなかでは、スズメ目がいちばんあとから進化したもっとも高等な分類群で、現生の鳥類約9000種の半分以上(56科)がこの目に入る。

[森岡弘之]

分布

鳥類は、極地、高山、砂漠のごく一部を除いて、世界のほとんどすべての陸地、淡水域、海洋に分布している。しかし、世界的に分布している種はむしろ少なく、各大陸はそれぞれ独特の鳥類相をもっている。

 鳥類の地理的分布は、主としてP・L・スレーター(1858)やA・R・ワラス(1876)の研究に基づき、世界を次の六つの動物地理区に分ける。すなわち、旧北区(ヨーロッパ、中近東、北アフリカ、ヒマラヤ以北のアジア)、東洋区(ヒマラヤ以南の熱帯アジア)、エチオピア区(サハラ以南のアフリカ、マダガスカル)、新北区(北アメリカ)、新熱帯区(中央・南アメリカ)、オーストラリア区(スラウェシ島以東のオセアニア)である。このうちではエチオピア区、新熱帯区、オーストラリア区は隔離の程度が比較的高く、固有の科が多いが、旧北区、東洋区、新北区は隔離の程度が低く、固有の科はそれぞれ1科ずつしかない(旧北区はイワヒバリ科、東洋区はコノハドリ科、新北区はシチメンチョウ科である。ただし、固有の属や種は少なくない)。

 科によっては、旧世界または新世界のどちらか一方にだけ分布するものもある。たとえば、ミフウズラ、ノガン、ハチクイ、サイチョウ、サンショウクイ、コウライウグイス、ヒヨドリ、ムクドリ、タイヨウチョウ、ハナドリなどの諸科は旧世界だけに、コンドル、ツルモドキ、ハチドリ、タイランチョウ、モズモドキ、アメリカムシクイ、ムクドリモドキなどの諸科は新世界だけに分布している。一方、ネッタイチョウ、グンカンドリ、フラミンゴ、ヒレアシ、ハサミアジサシ、キヌバネドリ、ゴシキドリなどの諸科は新旧両大陸の熱帯地方に隔離分布しており、ウミスズメ科とペンギン科はそれぞれ北半球と南半球にだけ生息している。

 世界的な地理的分布の型は、隔離とその後の進化の結果である。一方、鳥類は分布障害を越える能力に優れ、また環境の変化に敏感に適応するので、種の分布域は、適当な生息環境の存在(とくに適当な植生と食物の存在)、気候そのほかの生理的適応限界、競争関係にある近縁種の有無などによって著しく左右され、容易に変化する。たとえば、アマサギやコシアカツバメのように近年繁殖地を北に広げているものもあれば、都市化や環境破壊によって絶滅に近くなったものも少なくない。高緯度地方や高山で繁殖する種の多くは、渡りや季節移動によって分布地を変える。こうした分布地の変遷は、地質年代を通じて大陸規模でもおこり、たとえば、氷期における鳥類分布は現在とは非常に違っていたと考えられる。

[森岡弘之]

形態

鳥類の体は、嘴(くちばし)、頭、頸(くび)、胴、翼、尾、足よりなる。また、嘴と足を除く体は羽毛で覆われ、嘴と足は角質の外皮ないし鱗(うろこ)で包まれている。足指にはとがって先の曲がったつめがあり(ダチョウとカイツブリではつめは扁平(へんぺい))、キジ科では足に1~3個のけづめをもつものがある(けづめはとくにある種の雄でよく発達している)。さらに、それらの各体部は、骨格・筋肉、消化、循環・呼吸、排出、生殖、脳と感覚、などの諸組織・器官系により構成されている。次に、鳥類に特徴的な嘴、羽毛、翼、およびそれら諸系について述べる。

[森岡弘之]

嘴は上下のあごが角質の鞘(さや)で覆われたもので、上嘴は頭骨と癒合している。鳥類では前肢は翼となっているので、嘴は食物をとるための単なる口器ではなく、手の役割も果たす。たとえば、羽づくろいするのも、体をかくのも、巣材を運ぶのも、すべて嘴である。このため、嘴には感覚細胞や血管が豊富に分布している。嘴の形態は鳥によって著しく異なり、とくに採食と食性に対する顕著な適応を示す。

[森岡弘之]

羽毛

羽毛は、全動物群を通じて、鳥類にだけ存在する独得の形態である。羽毛は皮膚から生えているが(風切羽(かざきりばね)は翼の骨についている)、そのうち風切羽、尾羽、および体の外側を覆っている体羽の大部分は正羽である。正羽は羽軸と羽弁よりなり、羽弁は多数の羽枝および羽小枝が鉤(かぎ)で組み合わされてできている。羽毛は軽く、柔らかく、じょうぶで、飛翔(ひしょう)生活によく適応しているが、また断熱性に優れているので、体温の維持にも理想的である。さらに皮膚を外傷から守るのにも非常に適している。正羽以外の羽毛である綿羽、半綿羽、糸状羽、粉綿羽は、体羽の下にあって主として保温に役だつ(粉綿羽は羽毛を汚れから守る)。

 正羽は体の表面に一面に生えている場合もあるが(たとえばダチョウ、ペンギン)、普通は羽区とよばれる一定の場所にだけ生えている。成長した羽毛はケラチンからなり、生きた細胞ではない。鳥は羽づくろいによってつねに羽毛の状態を最善に整えているが、また少なくとも1年に1回、換羽によって新しいものに取り換える。しかしまれに、たとえばチョウビケイの尾羽のように、換羽しない羽毛もある。また粉綿羽は換羽しない。

[森岡弘之]

翼は、ほかの脊椎(せきつい)動物における前肢が変形したもので、尾羽とともに飛翔器官を構成する。地上生の飛翔力を失った鳥では、翼は退化して小さい。しかし、翼が消失した鳥はなく、しかもその構造は飛翔力のある鳥の翼と基本的に同じである。このことは、少なくとも現生の鳥類はすべて飛ぶことのできた祖先に由来することを示唆している。一方、前肢が翼となったために、鳥類はみな後肢だけで体を支える二足動物である。

[森岡弘之]

骨格・筋肉系

飛翔に対する適応の結果として、鳥類の体はできるだけ軽く、じょうぶで、かつ小さくまとまり、そのうえ体重の大部分が重心の位置の近くにあるようにできている。骨格系はそのよい例の一つであろう。まず、頭骨はほかの脊椎動物の頭骨よりずっと軽く、ほとんどの骨は癒合して一体化しじょうぶで、あごも歯がなく、非常に軽い。一般に、骨は軽量化のため含気性に富み、長骨(上腕骨のような比較的大きく長い骨)はしばしば中空で、気嚢(きのう)が中まで入り込んでいる場合もある。

 癒合による骨格の単純化とそれに伴う骨の数の減少も、鳥類の特徴の一つである。翼は、腕骨が2個を残して掌骨と癒合し、1個の腕掌骨となり、指骨も3本しかない。脚も、跗(ふ)骨の一部は脛(けい)骨と癒合し、残りは蹠(しょ)骨と癒合して跗蹠骨を形成する。骨盤は、腰椎、仙椎、尾椎の一部と癒合して、一体の腰仙椎となり、それに大腿(だいたい)骨が関節結合している。一方、尾椎は癒合により著しく数が減少している。

 飛翔力の退化した鳥類を除いて、胸骨には竜骨突起がある。竜骨突起は翼を動かす大・小胸筋の付着点となり、また胸骨の構造をじょうぶにするのに役だっている。口蓋(こうがい)を形成する口蓋骨は、エミュー型、分顎型(ぶんがくがた)、合顎型、雀顎型(じゃくがくがた)に大別でき、科レベル以上の分類に重要である。

 筋肉系は複雑であるが、主要な筋肉はすでに述べた大・小胸筋と足の運動にかかわるももの部分の筋肉である。

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消化系

消化系は舌、食道、嗉嚢(そのう)、前胃(腺胃(せんい))、砂嚢(真胃)、小腸、大腸よりなる。このうち、前胃と砂嚢がほかの脊椎動物の胃に相当する部分である。鳥類はほとんどの食物をまる飲みにし(ただし、嘴や足で肉を引き裂くようなことはする)、消化酵素の分泌腺の多い前胃で化学的消化を、筋肉質の砂嚢で食物の機械的破砕を行う。嗉嚢も鳥類に特有の器官で、これは食物を一時的に貯蔵しておくところであり、とくに穀物食の鳥でよく発達している。盲腸は小腸と大腸との接続部に通常一対あるが、盲腸をもたない鳥も多い。

[森岡弘之]

循環・呼吸系

飛翔は多大のエネルギーを必要とするので、循環・呼吸系も著しい飛翔適応を示す。鳥類はすべて定温性動物で、しかも代謝率が哺乳(ほにゅう)類に比べても高い。このため、循環・呼吸系はとくに効率のよいものでなければならないが、心臓は体の大きさに比べて大きく(哺乳類と比べても大きい)、二心房二心室で、肺循環と体循環が完全に分かれ、拍動も哺乳類より速い。肺は、気管支が肺を貫通し、気嚢に開いているので、ガス交換の効率が著しく高い。気嚢は鳥類特有の器官で、通常9個(4対と1個)あり、空気袋、運動中の体温の冷却器、潜水中の体重調節、長いさえずりのための肺活量の維持など、さまざまな機能を果たしている。もう一つ鳥類の呼吸系に特有な器官は鳴管で、気管が2本の気管支に分岐するところに位置し、鳴管筋の収縮によって声を出す。

[森岡弘之]

排出系

窒素代謝の結果生じるアンモニアは、哺乳類のように尿素ではなく、尿酸として排出される。アンモニアを尿酸として排出するのは、鳥類と爬虫(はちゅう)類だけであるが、これはどちらも陸生の卵生動物で、発生が卵殻内で行われるので、水に溶けにくい尿酸のほうが、水溶性の尿素より都合がよいためと考えられている。腎臓(じんぞう)は哺乳類のものに比べて約2倍の大きさがあり、また、腎臓の機能単位である腎小体は数が非常に多い(哺乳類の20~30倍)。海岸にすむ鳥には、腎臓のほかに、塩腺とよばれる塩分排出腺がある。膀胱(ぼうこう)はダチョウだけがもっている。

[森岡弘之]

生殖系

生殖系では、精巣は一対あるが、卵巣と輸卵管は通常、発生の途中で右側のものが退化し、左側のものだけが残る。陰茎は、ダチョウ、カモ、ホウカンチョウなど、ごく一部の鳥類にだけ存在している。

[森岡弘之]

脳と感覚系

脳と感覚は非常によく発達している。なぜならば、飛翔には脳による運動の制御と、感覚とくに視覚の発達が不可欠なためである。脳は哺乳類と同じぐらいに大きく、脳が体重に占める割合は爬虫類の少なくとも10倍以上である。脳のなかでも、鳥類でとくに発達しているのは小脳と視葉である。小脳は動作、姿勢、平衡をつかさどる部分で、視葉は、視覚情報の処理ならびに統合を行うとされる部分であり、運動の制御と視覚がいかに飛翔動物にとって重要であるかを示している。目は、もちろん脊椎動物のなかではいちばんよく発達している。とくに視力と調節力に優れ、タカ類などでは視力は人間の5~6倍に達する。一方、味覚と嗅覚(きゅうかく)はほかの脊椎動物より劣っているといわれている。

[森岡弘之]

飛翔

鳥類の飛翔(ひしょう)法は、滑空と羽ばたき飛翔とに大別できる。滑空は、グライダーの滑空と同じように、自己のエネルギーは使わずに、位置エネルギーを利用した飛翔法である。したがって、滑空中の鳥は、無風状態ではしだいに高度を失うが、上昇気流にのれば長時間飛び続けることができる。空高くゆっくり輪を描いて滑空(帆翔)しながら獲物を探すトビやノスリはこの例である。また、ツルやペリカンやコウノトリ類は編隊を組み、上昇気流の強い所を探して長距離の旅をする。一般に、滑空をよく行う鳥は、沈下率(重力による降下速度)を小さくするため、幅広く翼面積の大きい翼(広翼)をもっている。また、比較的小さい速度で飛ぶ必要上、失速を防ぐために初列風切羽の先端が指を広げたときのように開く。

 アホウドリやミズナギドリが海面上を滑空する動的滑空は、上昇気流を利用した滑空ではなく、海面上を吹く風の速力の違いを利用する。つまり、風の強く吹いている比較的高い位置から風の弱い海面に滑空し、そのときに得た速度を利用してまた高所に舞い上がることを繰り返すのである。こうした動的滑空をする海鳥類は、速い飛翔速度が必要なので、その翼型は細長い高速型(長翼)である。

 羽ばたき飛翔は、翼の羽ばたきによって推力を得る飛翔法で、飛ぶ鳥は多少とも羽ばたいて飛ぶ。羽ばたきは、翼をほぼ上下方向に動かす動作の繰り返しで行われる。その際、風切羽の先端は空気の抵抗によって多少ねじれ、それがプロペラのように働いて推力を生む。したがって、鳥は翼で空気をかいて飛ぶのではない。一方、翼の根元にあたる部分(主として次列風切羽)は翼型をつくり、揚力を生む。ただし、離陸時には、普通は推力のほかに、体を空中に浮かべるのに十分な揚力もつくりだす必要がある。このため、翼の羽ばたきは単純な上下方向ではなく、打ち下ろし(下搏(かはく))は翼を上から下、さらに前へ動かし、打ち上げ(上搏)は翼を後ろに振り払うように動かす。これに必要な筋肉は主として大・小胸筋で、その一端が胸骨(竜骨突起)に付着し、他端が上腕骨に付着し、収縮によって上腕骨を動かす。羽ばたきの回数は、一般に大きな鳥ほど少なく、小鳥では多い。たとえば、ハゲワシは毎秒約1回、カモや中形のタカ類2~3回、コガラ約30回、ハチドリ40~80回などの記録がある。

 鳥が飛ぶ速さは、もちろん条件によって異なるが、レーダーを使った観測値を無風状態での巡航速度(時速)に換算した値によると、ワタリアホウドリ54キロメートル、アオサギ48キロメートル、マガモ65キロメートル、ハイタカ43キロメートル、クロヅル68キロメートル、ヒメアマツバメ40キロメートル、ツバメ32キロメートル、ホシムクドリ32~36キロメートル、ハシボソガラス50キロメートルなどである。また別の資料では、最高速度(時速)は小鳥類で80キロメートル以下、ハヤブサ約290キロメートル、カモ類約90キロメートル以下、渡りのシギ類約175キロメートルなどの記録がある。

[森岡弘之]

歩行と遊泳

多くの鳥は、飛ぶことのほかに、歩いたり、走ったり、泳いだりする。事実、歩くことも泳ぐこともほとんど不可能な鳥は、アマツバメ、ハチドリ、ヨタカ、キヌバネドリなど、ごく限られた科だけである。

 すべての鳥類は二足動物なので、歩行や走行は後肢を交互に動かして行う。走鳥類やキジ目のような地上生の鳥は、もちろん足がじょうぶで、比較的長く、また足指が短い(足指はしばしば後趾(こうし)が退化して3本となり、ダチョウでは2本しかない)。しかし、樹上で生活する鳥もしばしば地面に降りて餌(えさ)をあさる。小鳥類の多くと一部の非スズメ目の鳥は、足を交互に使う歩行のかわりに、地上では二足をそろえて跳躍(跳歩行)する。跳歩行は限られた範囲をすばやく動き回るには適しているが、歩行よりエネルギーを多く必要とするので、大形の鳥や長距離の歩行には適していない。

 水鳥や渉禽類(しょうきんるい)や海鳥の多くは遊泳し、潜水できるものも少なくない。遊泳や潜水は餌をとるためだけでなく、敵から逃れるのに有効な方法と考えられる。鳥類の場合、遊泳、潜水中の前進は、足で水をかいて進む(ペンギンとウミスズメ類は潜水中、主として翼で水をかいて進む)。したがって、泳ぎが巧みな鳥の足指には水かきがついている。また、アビやカイツブリやウのように潜水を得意とするものでは、体が細長く、足が体の後ろのほうについている。そのほか、潜水に対する適応として、気嚢(きのう)が大きく比重の調節が容易なこと、骨が比較的重いこと、羽毛が密なこと、炭酸ガスに対する許容度が大きいこと、などがあげられる。潜水の記録(水深)としては、アビ55メートル、ウ40メートル、カイツブリ23メートルなどがあり、アビは15分間も潜水できるといわれる。また、カツオドリ、ネッタイチョウ、カッショクペリカン、カワセミなどは空中から水中に飛び込んで餌をとることで知られている。

[森岡弘之]

生態

鳥類は体温が一定で、前肢の変形である翼で空を飛ぶ陸上脊椎(せきつい)動物である。この特徴は鳥類の形態だけでなく生態も大きく規定している。

浦本昌紀

食性

体温を気温よりもかなり高く(40~42℃)一定に保つことと、飛翔(ひしょう)を基本的には激しい筋肉運動による羽ばたき法によって行うことは鳥類の物質交代の速度が大きくなければならないことを意味するものであり、したがって多量の栄養を摂取しなければならないことを意味する。一方、空を飛ぶためには前述のように体が軽くなければならないが、そのためには大量の食物を消化管内に長時間保持して消化するという方式は避けなければならない。このことは、鳥類は栄養価の低い草木の枝葉を食物とすることが基本的にはできないということである。すなわち、鳥類の食物は、重量のわりに栄養価が高くて消化のよいものでなければならないということになる。

 また、鳥類は体を軽くするためと飛翔中の前後のバランスのために、頭が小さく、あごには歯がなくて、軽い嘴(くちばし)となっている。したがって鳥類の食物は小さくてまる飲みにできるものか、嘴で食いちぎれる程度の柔らかいものでなければならない。

 このように鳥類の食物は、空を飛ぶという特徴によって大きく規定されている。それは、具体的には昆虫や魚をはじめとする小動物であり、植物の果実や種子である。そのような食物は、草木の葉と違って、枝先などに散在したり、隠れていたりするので、探し回る必要があり、また、動きの速い小動物であればそれを捕らえる技術をもたなければならない。しかし、空を飛ぶという特徴はそれらに適しているので、ここにはなんら矛盾はない。後述の繁殖に関する場合のような問題はないのである。

 このように限定された食物ではあっても、そこにはまださまざまなものがある。とるのがいちばんやさしいのは、動かない食物であるが、これには二つのタイプがある。一つは果実、花蜜(かみつ)、草木の種子であり、もう一つは昆虫の卵や蛹(さなぎ)と動きの鈍い幼虫である。これらを食べるには特殊な技術は要らないが、それを発見するのが、とくに後者ではむずかしい。前者は環境内に塊状に散在しているのが普通であるから、それを探す鳥は群れをなして生活するが、その群れはあまりまとまりのよいものではない。後者の食物は普通1匹ずつ点々と隠れているから、それを探す鳥は群れにはならず、単独で茂みなどを丹念に調べて歩く。一方、昆虫の成虫や淡水魚やそのほかの小動物は、しばしば隠れているうえに動きが速いので、それをとるためには待ち伏せとか急襲とかの技術を必要とする。枝にじっと止まっていて、そこから地表で動いた動物に襲いかかるモズの方法や、枝からぱっと飛び立って空中で昆虫をとるヒタキの方法や、また猛禽(もうきん)類やカワセミの採食法など、そこには多様な方法がある。このような方法をとる鳥は仲間から離れて、じゃまされないように単独で生活しているのが普通である。

 また、海で群れをなしている魚も鳥類にとっての食物の一つで、それをとるには、空中から飛び込んだり潜水して追ったりする独特の採食法をもつことになる。さらに、この場合には採食にあたっての問題と同時に、魚群を探し当てることがたいへんで、小群をなして魚群を探し、みつけた魚群に付近の鳥が集まって採餌(さいじ)する方法をとって生活するのが普通である。

 小さな動物を草丈の低い草原や海岸などの開けた場所でとるシギ、チドリ、サギ、コウノトリなどと、開けた空中で昆虫を追うツバメやハチクイなどの場合には、食物を探すのにもとるのにも大きな問題はないが、敵にすぐ発見され襲われることと関連して大小の群れをなして生活していることが多い。

[浦本昌紀]

繁殖生活

このように鳥類にはその食物にかかわって多様な採食法と社会生活がみられるが、鳥類の生活でもう一つの問題に繁殖生活がある。

[浦本昌紀]

逐次産卵

空を飛ぶためには体が軽くなければならないし、翼を中心として前後のバランスがとれていなければならない。そのため鳥類は腹に大きな胎児を抱える胎生という繁殖方式はとることができない。これは同じく体温一定である哺乳(ほにゅう)類との大きな違いである。またそのため、卵生であるにしても、大きな卵をいくつも体内に抱えていたのでは、結果として胎生と同じことになってしまう。したがって鳥類は一度に1卵ずつ次々に卵を産むことになる。これは他の卵生動物が一度に多数の卵を産むのに比べると、鳥類の大きな特徴である。鳥類のなかには1日に2卵以上を産むものは1種もなく、大多数の種は1日1卵であり、なかには5日に1卵(コンドル)とか、6~7日に1卵(アオツラカツオドリ)という種まである。

[浦本昌紀]

抱卵

鳥類は空を飛ぶことによって食物をとり、敵から逃げる動物であるから、その卵はできるだけ早く育って空を飛べるようにならなければならない。そのためには孵化(ふか)したときにすぐ飛べるまでに育っていればよいのであるが、そうなるには卵は大量の養分をもった大きなものになってしまう。それでは多くの卵を同時にもつのと同じことになって、親鳥が空を飛ぶのに差し支える。したがって鳥類は、できるだけ大きな卵を一度に一個ずつ産むにしても、その卵から孵化する子がただちに空を飛べるようになることはできないのである。これは、爬虫(はちゅう)類の子が孵化するとすぐにひとり立ちの生活に入るのと対照的な鳥類の特徴である。

 当然のことであるが、卵は逃げることができない。この危険な時期の長さは、いくら縮めても10日以下にはできない。形をなしていない胚(はい)が雛(ひな)に育つまでにはどうしても時間が要るのである。この卵を敵にみつけられないようにする方法はいろいろあるが、ほとんどすべての鳥類が採用している方法に、親鳥が卵の上に座って隠すというものがある。鳥類は体温一定の動物であるから、こうすると卵は温められて早く育つことができ、一石二鳥ということになる。これが抱卵という鳥類独自の行動であり、鳥卵は現在では温められなければ育たないような性質をもつようになってしまった。

[浦本昌紀]

造巣

次々に時間を置いて産卵されるいくつもの卵をうまくまとめて抱卵するためには、それらを入れておく場所がなければならない。それが鳥の巣であるが、動けない卵を入れる巣は敵にみつからない場所か敵の近づけない場所になければならない。空を飛ぶという鳥類の特徴は、このような場所を利用するのに都合がよいが、木の枝先のような場所を利用するためには、卵の入れ場所は自分でつくらなければならない。また、樹幹や崖(がけ)に巣穴を自分でつくるというやり方もある。さらに、スズメ目などの鳥は、その巣の内面に保温のよい材料を張り詰めて抱卵の効果を高めるような行動をも発展させてきた。これらの造巣行動と巣の多様性は興味ある問題である。

[浦本昌紀]

育雛

前記のように、鳥類は空を飛ぶ動物であるがゆえに、卵から孵化したときに空を飛ぶまでに育っていることはできない。孵化から空を飛ぶまでの時期の鳥は雛とよばれる。そして、空を飛ぶことができるようになって初めて一人前の自立した鳥になるのであり、それまでの雛の時期には多かれ少なかれ親鳥の世話にならなければならない。この時期が育雛期であり、その時期の親鳥の行動が育雛行動である。

 このような逐次産卵、抱卵、造巣、育雛は鳥類独自の(爬虫類にも哺乳類にもみられない)行動である。そして、それらはすべて、空を飛ぶという鳥類の特徴から生じている。鳥とは空を飛ぶ動物なのである。これらの行動はもちろんすべての鳥の繁殖生活にみられるわけで、現在では空を飛ぶのをやめてしまった鳥でも同様である。

[浦本昌紀]

繁殖生活の諸様式

すべての鳥にみられる繁殖生活に関するこれらの特性は、実際にはさまざまな様式をとる。これらの繁殖生活は造巣から始まるが、前述のように巣は敵にみつからない場所か敵の近づけない場所につくらなければならない。いちばん近づけないのは離れ島や断崖(だんがい)であるが、そのような場所は限られているから、そこに営巣しようとすれば、多くの鳥が集団で繁殖することになる。それができるのは、集団で群れをなして採食する海鳥やツバメなどだけである。一方、敵にみつからないようにするには、巣はそれぞれほかの巣から離れた場所につくられなければならないが、そのためには親鳥は分散して単独で採食しなければならない。このため、シギやチドリのように、通常は群れをなして採食するが繁殖期には単独で(ときには食物をかえて)生活するという鳥がある。しかし普通は、単独で採食する鳥が茂みや樹洞などに分散して造巣することになる。

 前述のように卵は逃げることができないから、なるべく早く孵化して巣から出ることがよいのであるが、孵化した雛はまだ飛ぶことができない。そこで、鳥は二つの方法のどちらかをとることになる。すなわち、孵化してすぐに歩いて巣を出るか、あるいは飛ぶことができるまで巣にいるか、のどちらか一方である。前者は離巣性とよばれ、後者は留巣性とよばれる。前者では雛がすぐに自分で採食できるまでに育って孵化する場合が多いが、そのためにはその食物は特別な採食法を用いなくても容易にとれるもので、しかも地上か水面になければならないから、これは地上採食性のキジ・ウズラ類や走鳥類、シギ・チドリ類、ガン・カモ類に主としてみられる。このような鳥はほとんどが地上営巣性でもあるから、離巣性であることは捕食される危険を減らす有利さもある。これらの雛は孵化したときから綿羽に覆われており、運動性があって、早成性の雛とよばれる。彼らは親鳥から給餌されることはないが、親鳥(多くは雌のみ)はこの雛を連れ歩いて保護する。

 同じく早成性の雛をもつツル類、クイナ類、ノガン類、アビ類、カイツブリ類では親鳥が雛に給餌するが、これは、彼らの食物が前記の鳥のよりもとりにくいからであろう。また、カモメ・アジサシ類やウミスズメ類も早成性の雛に給餌するが、営巣場所がより安全であるために、彼らの雛は飛べるようになるまで集団営巣地にとどまっている(半早成性)。

 それ以外の大多数の鳥はすべて、食物を探したりとったりするのに多かれ少なかれ飛翔に頼っているので、飛べない雛は巣から出ても生活できないし、親鳥がその雛を連れ歩いて保護することもできない。そのため彼らは留巣性にならざるをえない。その大半では雛は孵化したときに裸で無力であって、晩成性とよばれ、羽毛が生えそろうまで巣内で親鳥に給餌されて育ち、巣立ち後もしばらくの間は親鳥に連れられ給餌される。ただし、猛禽類や海鳥類やサギ・コウノトリ類の雛は、孵化したときに綿羽で覆われている点が異なるために、半晩成性とよばれる。

 雛の育ち方と育て方がこのように主として食物にかかわってさまざまであると、それに関連してさらに別の問題が生ずる。卵の大きさは体の大きさに比例するが、雛が大きく育って孵化するために、体重が同じならば離巣性の鳥のほうが留巣性の鳥よりも卵が大きい。また、同じ離巣性の鳥を比べると、一腹の卵数が少ないほうが卵は大きい傾向がある。そしてこの場合、一腹の卵数は、母鳥にとって産卵期に食物がどれほど得やすいかに関係している。また、留巣性の鳥では一腹の卵数は、大きくなった雛に給餌する食物をどれだけとってこられるか、根本的にはどんな食物をとるか、に主として関係している。

 留巣性の鳥では、このことにかかわって雌雄で雛に給餌するものが多く、したがって一雌一雄のつがいで繁殖するのが普通であり、そのなかには造巣や抱卵も雌雄で行うものがかなりある。しかし、離巣性の鳥でも一雌一雄で繁殖するものは多く、鳥類の雌雄関係のあり方と繁殖行動の雌雄分担はさまざまであって、その理由についてはまだ研究途中といった状態である。

 また、多くの鳥では独立するとその翌年には繁殖するが、さらに1~2年しないと繁殖しない鳥も少なくないし、アホウドリ類のように5歳から場合によっては10歳になって初めて繁殖する鳥まである。これは、一方では年間死亡率、いいかえれば平均寿命ともかかわることであり、一方では一腹卵数と幼期死亡率ともかかわっている。それと食物や繁殖様式との関係は複雑で、まだ十分明らかにはなっていない。

[浦本昌紀]

渡り

空飛ぶ動物である鳥類に独自なもう一つの生態は「渡り」である。渡りとは繁殖地と非繁殖期を過ごす土地との間の定期的な季節移動というのが一般的な定義であるが、その様相は非常にさまざまであって、この定義には収まりきれない現象を示す鳥がいろいろ知られている。それについては「渡り鳥」の項で扱う。

 鳥の渡りには三つの問題がある。一つは渡りの起源であるが、これについてはまだ何もわかっていない。二つ目は渡りの生理で、一定の時期に渡りをするのはどのような生理的仕組みによるのかである。これは温帯の鳥については、日長の季節変化が脳下垂体の活動に影響を与え、そこから分泌されるホルモンの働きによって生理状態が変化する、という過程が基本であることがわかっている。しかし、日長の季節変化がほとんどない熱帯での問題はまだはっきりしていない。三つ目は出発後の方向判定(航行法)の仕組みである。これについては1950年ごろから、太陽または恒星を手掛りにする天体航法説がだいたい認められてきているが、近年になって地磁気を手掛りにしている可能性を示す研究が2、3報じられている。

[浦本昌紀]

鳥類保護

人間は自然を、自分の利用しやすい都合のよい形に改変してきた。このため鳥類は生息する環境や場所を失い、また、利用や遊びのための狩猟行為によっても鳥類はその数を減じてきている。もちろんこれは動物や植物に広くいえることであり、鳥類はその一つ、あるいは代表といえるであろう。鳥類保護とは、そのような状態にある鳥類(種)が絶滅してしまわないように、生息場所や好適環境を確保したり、繁殖のための補助策を講じたり、食料を確保したりその手段を講じたり、また人間と鳥類との利害関係を調節したりすることである。

 鳥類を保護していくためには、その鳥類が好む本来の環境を確保し、本来の生活をそのままさせること(保全)が第一である。第二は、本来の生活様式が完全に行われていない場合に、人間が手を貸して生活を保証してやること(管理)である。ついで、個体の生命を守ってやり、繁殖させていくこと(愛護)、それらを通して種の保存を図っていくことである。そのためには、自然や鳥類のことを十分に研究し、その関係や仕組みを知り、注意深く活動を進めていく必要がある。

 以上は鳥類と自然に対しての保護活動であるが、逆に人間に対する活動もある。これには、保護思想の啓蒙(けいもう)、普及、宣伝など、鳥類についてあるいは保護について多くの人間の理解を得ることと、法律の制定、保護区の設定、環境保全、狩猟の制限など、政治や行政を進めていくことの両方が含まれる。

[柳澤紀夫]

鳥類保護思想の普及

鳥類保護は、とりあえず対象を鳥類に限定し、その種の保存や生息環境を保全、保護していくことを目ざすが、そうした環境の保全は、鳥類と同一の環境、すなわち地球に生活する人間にとっても、食物連鎖など自然とのつながりを考えると無関係でいられるものではない。いわば鳥類保護は、人間にとっても安全な生活をしていくための環境指標としての効果もあり、究極的には人間のための利益になるといえよう。しかし、究極的には人間の利益につながるものであっても、思想的には二つの立場がある。一つは、鳥類による利害、たとえば狩猟の対象、資源としての意味、産業に対する利害対象、審美的な対象、研究対象、公害などの指標、衛生的な害の対象などを中心に、人間の側の論理で自然を管理していこうというものである。もう一つは、野生動物である鳥類は、人間と同等の生命の重さ、生存の権利をもつものであるから、地球で現在もっとも繁栄している動物である人間は、それを守っていく義務があるとする、鳥類の側にたった思想である。後者はまた、鳥類は国境などに拘束されない地球的な公共性を有する動物であるという考えを基本に、種の保存を目的に、あるがままに鳥類を保存していこうとする考え方である。

 こうした点を踏まえて、正しい認識のもとに鳥類保護が実行されていかなければならないが、それにはたくさんの人々がそうした思想のもとに社会生活を行っていくことである。そのためには、鳥類保護思想の普及、啓蒙活動がたいせつで、学校教育、社会教育、双方の場でもっと取り上げられていく必要がある。現在日本では、愛鳥週間が設けられ、野鳥保護を宣伝する機会にされているほか、鳥類保護の実績を発表しあう大会や、鳥獣保護のために働いた人々の表彰、愛鳥作文や愛鳥ポスターの募集、新聞や放送などによる鳥類保護についての記事や意見広告などが行われている。また家庭や学校で行われている野鳥用の巣箱がけ、給餌(きゅうじ)、実のなる木の植樹といったことも、啓蒙の効果は大きい。

 また、保護対象の鳥類については、生活史、生態的なこと、生息環境、分布、個体数などの科学的な調査や研究を十分に行い、その成果をもとに保護にあたるべきであり、その知識によって保護のための啓蒙や普及を図ることがたいせつである。

[柳澤紀夫]

法律による鳥類保護

鳥類保護に関しての国の思想や方針を知ることができるし、具体的に現在実行されている保護策の基本になるので、法律のもつ意味は大きい。

[柳澤紀夫]

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律

現在、日本の鳥類についての法律のなかでもっとも大きな範囲を占めるのは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」であり、日本にすんでいる鳥類はすべてこの法律の適用を受けている。この法律は、基本的には鳥獣(肉や毛皮が利用できるもので、海生のものを除いている)は保護および管理すべきものであるとし、その一部を狩猟鳥(あるいは狩猟獣)の名で、資格試験を通過した者だけに、決められた猟具、猟法、期間などの制限をつけて捕獲させている。しかし、産業上の有害種については別途捕獲の許可が出される。詳細は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」の項目を参照。

[柳澤紀夫]

文化財保護法

ついで重要な法律に「文化財保護法」があり、この法律により指定される天然記念物がある。「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」よりも強力な保護を講ずることができ、保護対象によっては効果の実があがっている。しかし、法律の不備により、国が直接事業を実施できないため、高度な知識や技術、判断を要する最近の鳥獣保護問題に対処できない欠点も出ている。特別天然記念物の鳥類にはトキ、アホウドリなど、天然記念物はイヌワシ、カラスバトなどがある。以上は国(文化庁)が決めているが、このほかに県が決めているものもある。

[柳澤紀夫]

種の保存法

絶滅のおそれのある鳥の譲渡を規制するものに「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」があった。これは後述する日米渡り鳥条約に関連して整えられた法律で、日本側35種および亜種、アメリカ合衆国側65種および亜種、オーストラリア側34種および亜種が、特殊鳥類として指定され、生きている鳥のほか、剥製(はくせい)、標本、羽毛製品を対象としていた。1992年(平成4)には、この法律を吸収する形で「種の保存法」(正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)が制定された。「種の保存法」では、国内希少野生動植物種の生息地は保護区とされ、保護増殖事業も行う。指定種の捕獲および採取、譲渡、輸出入等は原則禁止。国際希少野生動植物種の譲渡等も原則禁止とし、輸出入も規制している。

[柳澤紀夫]

渡り鳥条約

また鳥類には、人間がかってに区分している国についての意識はない。渡り鳥は、地球的な視野で保護を考えなければ守っていけない。そこで国際的な、渡り鳥保護のための条約を結ぶことが進められている。日本では、アメリカ、ロシア連邦、オーストラリア、中国と条約を結んでおり、施策についての情報交換や、共同調査の協議などを行っている。

[柳澤紀夫]

ラムサール条約・ワシントン条約

このほか日本は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(一般にはラムサール条約の名でよばれることが多い)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(一般にはワシントン条約の名でよばれている)などの国際条約を批准している。

[柳澤紀夫]

具体的な保護

まず保護対象の鳥類について、生活史、生態、分布、個体数、生息環境、それに何が原因で数が減少したのか、を十分に調査、研究し、その結果を有効に利用して保護策をたてることである。もちろん、現在の個体数の多少によって、対策が異なってくることもあるが、おもな方法は次のようである。

 生息環境や生息地の保全がもっとも基本的な策であって、これに勝るものはない。鳥類は種ごとに違った好適生息環境を選ぶから、多様な自然環境が保全されることが望ましいのであり、鳥獣保護区はこの思想の延長上になければならない。鳥類のための場所として、ある地域を確保し、人間をはじめ害を与えることになるものを排除するバード・サンクチャリーの考え方もここにある。

 次に、狩猟行為による圧力を除くことであるが、この方法で増加したものにはガン類、アホウドリがある。それに都市内、たとえば東京都上野の不忍池(しのばずのいけ)、兵庫県伊丹(いたみ)市の昆陽(こや)池などでのカモ類の人間を恐れない姿も効果の一つに数えられるであろう。

 人工的な給餌という方法により絶滅から免れてきたものに、タンチョウ(北海道東部)、ナベヅルやマナヅル(鹿児島県、山口県)の例がある。

 一方、トキ、コウノトリなどは、生息環境の減少や悪化のほか、農薬による汚染などが加わり、日本では野生のものはすでに絶滅した。現在絶滅の危機にある鳥類は、特殊鳥類に指定されているもの、天然記念物に指定されているもの、なにも保護策がとられていないものなど、その置かれているところは違っても、日本では60~70種およびその亜種があたると考えられており、早急な対処が望まれている。しかし、鳥類の広大な生息環境を十分に確保していくことは、ますますできにくくなる状況にあり、人工的な環境の造成、営巣場所の提供、人工飼育による種の保存などは、今後さらに行われるようになるであろう。

[柳澤紀夫]

人間と鳥類

人間の生活にとって鳥のもつ価値は、食料としての野鳥、家禽(かきん)、スポーツ、あるいは生業としての狩猟への利用(鷹狩(たかがり)、鵜飼(うかい))、愛玩(あいがん)動物としての飼育などさまざまな方面にわたるが、想像力の世界において鳥が果たしてきた役割はそれにもまして大きく、古くから神話、伝説、民間信仰のなかで強い象徴性を帯びたものとして現れている。その象徴性は、鳥の天空を飛翔(ひしょう)する自由な動態、多様な色彩、形姿、そしてそれぞれの種類に特有な鳴き声に多くを負っている。こうしたことから、数多くの民族の間で、鳥は天に住む神の化身、ないし神の意志の伝達者と考えられてきた。そのもっとも有名な例は、ホメロスの描くギリシア英雄伝説の世界にみられる占い鳥であり、しばしばワシがゼウスやアポロの意図を伝えるものとして語られている。同様の例はボルネオ島のイバン人の間で、高度に発達した形でみられる。つまり、そこでは多くの鳥が占いの対象となっており、飛跡の方向や鳴き声の様態によって吉凶が判断されているが、それはトビの姿をとるという神の意図をそこに読み取ることができると考えられているからである。これとは逆に、異様な生態、形姿をもつ鳥が悪を代表する場合がある。ギリシアでは、女神アテネの鳥として吉兆とされていたフクロウが、後世のヨーロッパではしばしば魔女との関連で語られた。マレー半島では、フクロウは産褥死(さんじょくし)した女性の幽霊の象徴と考えられており、いずれも肉食、夜行性という生態から生じたイメージである。また空を行く鳥の姿は、死後肉体を離れ去って行く霊魂の表象と結び付くこともある。古代エジプトやギリシアでは、この鳥霊魂という考えがはっきりした形でみられるが、東南アジアの諸民族の間でも死者の霊を導く鳥のイメージは広く分布しており、日本神話にみられる日本武尊(やまとたけるのみこと)の霊が白鳥となって大和(やまと)国に帰ったという話も、こうした関連で考えられるべきものであろう。

[内堀基光]

『黒田長久著『動物系統分類学10(上) 脊椎動物3 鳥類』(1962・中山書店)』『ロジャー・ピーターソン著、山階芳麿訳『ライフ大自然シリーズ2 鳥類』(1969・タイムライフインターナショナル)』『山階芳麿・黒田長久他著『野生鳥類の保護』(1971・日本鳥類保護連盟)』『池田真次郎著『野生鳥獣と人間生活』(1971・インパルス)』『山階鳥類研究所編『この鳥を守ろう』(1975・霞会館)』『鳥獣保護研究会編『鳥獣保護制度の解説』(1981・大成出版社)』『森岡弘之・中村登流・樋口広芳編『現代の鳥類学』(1984・朝倉書店)』


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百科事典マイペディア 「鳥類」の意味・わかりやすい解説

鳥類【ちょうるい】

脊椎動物門の一綱。体温が一定していて体が羽毛でおおわれ,前肢は(つばさ)になり飛ぶことができることなどが大きな特徴。また,皮膚は薄くて汗腺がなく,後肢には前方に3本,後方に1本の指がある。口はくちばしとなり,手に代わる役目もする。心臓は2心房2心室。肛門と尿道が一緒に開く総排出腔をもつ。卵生。嗅覚,味覚の発達は悪いが視覚は鋭く,それに関連して繁殖期の美しい羽毛の発達とその誇示や求愛の動作が著しく(ディスプレー),したがって雌雄二型が発達している。また渡りを行うものが多く,帰巣性,定位能力が発達。爬虫(はちゅう)類と系統上密接な関係をもつことは,ジュラ紀の始祖鳥の化石などでも知られるが,これが鳥類の直接の祖先であるかどうかは不明。化石も含めて古鳥亜綱と新鳥亜綱に分けられ,現生の鳥類はすべて新鳥亜綱に属する。現生約8600種以上とされ,世界的に分布するが,南半球には原始的で特殊な科が多い。日本では約505種が記録されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鳥類」の意味・わかりやすい解説

鳥類
ちょうるい
Aves; birds

脊椎動物門の鳥綱に分類される動物の総称。体は流線形で,羽毛に覆われる。口器はになり,前肢はに変形しており,飛翔力は多くが備えているが,ダチョウペンギン類など失った鳥もいる。定温動物卵生のほか,骨格,内臓などに,飛行に有利な軽量化や代謝のための著しい適応が見られる。こうした特徴は約 6500万年前に絶滅したとされる恐竜も共有しているものがおり,鳥類は絶滅期を生き残った恐竜の系統であると考えられるようになった。約 1億5000万年ほど前のジュラ紀後期には現れていたとみられる。生活様式は多様で,極地から熱帯まで,また地上,水中,空中など地球上のほとんどの環境に生息する。現生のものは約 1万種,40目 240科に分類されている。

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精選版 日本国語大辞典 「鳥類」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐るい テウ‥【鳥類】

〘名〙 脊椎動物の一綱。体表に羽毛をもつ飛翔性の卵生恒温動物。爬虫類から進化した動物群で、前肢が変形して翼となり、顎は歯を失い退化して嘴となった。ダチョウなどのように二次的に飛力を失って地上性となったものもある。地質時代の新生代にはいって以後非常に繁栄し、現在は世界に約九〇〇〇種があって、約二七目に分けられている。鳥。禽。羽族。
※源平盛衰記(14C前)一七「御宸筆にて鷺羽の上に汝鳥類(テウルイ)の王たるべしと遊ばして」

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デジタル大辞泉 「鳥類」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐るい〔テウ‐〕【鳥類】

鳥綱の脊椎動物の総称。体は羽毛で覆われ、前肢がとなって飛翔ひしょうに適し、くちばしをもつ、卵生恒温動物。世界中に約8600種が分布。とり。
[類語]脊椎動物無顎類魚類両生類爬虫類哺乳類

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世界大百科事典 第2版 「鳥類」の意味・わかりやすい解説

ちょうるい【鳥類 bird】

脊椎動物門鳥綱Avesに属する動物の総称。飛翔(ひしよう)生活にもっとも適応した脊椎動物で,基本的な体制は爬虫類と共通な点が多いが,両者は一見して区別することができる。鳥類のおもな特徴をあげると,(1)体は羽毛で覆われている,(2)前肢は変形して翼となり,後肢のみで体を支える,(3)体温は定温性,(4)卵生であるが,雛は両親の保育を受けるなどである。このほかにも,骨は含気性で軽いとか,気囊をもっているとか,現生の鳥には歯がないとか,いろいろの特徴がある。

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世界大百科事典内の鳥類の言及

【脊椎動物】より

…口腔には歯,舌,唾液腺が,胃には胃腺が,小腸には絨毛(じゆうもう)と漿液腺(しようえきせん)があり,その前部(十二指腸)には胆汁を出す肝臓,膵液(すいえき)を出す膵臓が細い管で開口する。排出器官は腎管から発達した前腎(成体では円口類と原始的な硬骨魚類),中腎(魚類と両生類),または後腎(爬虫類,鳥類,哺乳類)である。中枢神経系は脳と脊髄に分かれ,脳は大脳(端脳),間脳,中脳,小脳および橋,延髄からなる。…

【聴覚】より

…両生類や爬虫類には中耳がみられるが,外耳はなく,鼓膜が露出している。外耳は哺乳類で発達するが,鳥類にも一部みられる。内耳のうちで聴覚に関係するのは球形囊で,鳥類では球形囊が長くのび,哺乳類ではさらに蝸牛(かぎゆう)管に発達する。…

※「鳥類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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