鼻孔(びこう)(鼻の穴)から咽頭(いんとう)に至るまでの腔で、「びこう」とも読む。鼻腔は外気と肺との間の空気の出入路として働き、空気の清浄化、空気の温度と湿度の調節を行うほか、一部分は嗅覚器(きゅうかくき)としての機能をもち、発声にも関与する。鼻腔は、鼻中隔によって、ほぼ左右対称的な、同大な腔に分けられている。鼻腔の形態はこれを取り囲む骨性鼻腔と同じである。鼻腔は前方の鼻前庭と狭義の鼻腔とに分けられる。鼻前庭への入口が外鼻孔である。鼻前庭に生えている鼻毛は短い剛毛であるが、密生、交錯し、空気の塵埃(じんあい)や異物を除去する役を果たしている。鼻前庭を除いた狭義の鼻腔の内面は、血管に富む厚い粘膜に覆われ、外側壁からは上・中・下の3個の鼻甲介が内腔に向かって突出している。鼻甲介の下側にそれぞれ鼻道が縦走している。鼻道は後方で鼻咽道を通って後鼻孔から咽頭に抜ける。鼻腔の上部の一部粘膜には、嗅覚をつかさどる嗅細胞が配列している嗅部がある。多くの哺乳(ほにゅう)動物では、鼻中隔軟骨の下縁にある切歯管の直上部にヤコブソンの鋤鼻器(じょびき)(デンマークの解剖学者ヤコブソンL. Jacobson(1783―1843)にちなむ)とよばれる器官が発達し、嗅粘膜と同じ働きをしている。ヒトでは胎生期には発達しているが、成人になると、ほとんど萎縮(いしゅく)退化してしまう。鼻腔を囲む骨壁内には鼻腔に通じる内腔が4個あり、副鼻腔とよばれる。4個の副鼻腔とは前頭洞、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、および上顎洞(じょうがくどう)である。
[嶋井和世]
医学的には〈びくう〉と読む。鼻は,外から見える突出部としての外鼻と,外鼻孔から後鼻孔にいたる気道のはじまりとしての顔面内の空間である内鼻に分けられるが,後者を鼻腔という。鼻腔を左右に境する壁は鼻中隔septum nasiと呼ばれ,ヒトを除くと平らである。鼻腔の外側壁の構造は非常に複雑で,骨,海綿状血管組織,粘膜からなる鼻甲介conchae nasalesという突出物が3~4個あり,下から下鼻甲介,中鼻甲介,上鼻甲介,最上鼻甲介と呼ばれている。鼻甲介の間の陥凹は通常空気の通り道となるので鼻道meatus nasiと呼ばれ,鼻甲介に対応した名前がつけられている。中・上鼻道には副鼻腔との交通路が開く。鼻腔は呼吸の道として空気が出入する以外に,吸気を温めたり湿らせる空気調節作用がある。また,粘膜表面の粘液層や鼻毛などは,異物,細菌を排除する感染防御作用や,においを感じたり音を共鳴させたりする作用も有している。
→嗅覚(きゅうかく)
執筆者:市村 恵一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…医学的には〈びくう〉と読む。鼻は,外から見える突出部としての外鼻と,外鼻孔から後鼻孔にいたる気道のはじまりとしての顔面内の空間である内鼻にわけられるが,後者を鼻腔という。鼻腔を左右に境する壁は鼻中隔septum nasiと呼ばれ,ヒトを除くと平らである。…
…寒冷地に住むエスキモーの鼻示数は小さく,熱帯に住む黒人のそれは大きい。
[鼻腔nasal cavity]
イヌやネコなどでは,外鼻のみならず内鼻も顔面の前方に突き出ており,〈はなづら〉となっている。ヒトでは大脳の一部である前頭葉が発達して鼻腔の上におおいかぶさり,眼球も側方から前方に移動して,鼻腔が顔面骨の中に埋めこまれて退化した形態を示す。…
…嗅上皮はこのくぼみの底に並行のひだをつくっている。頭部が前後に長い魚では入水孔と出水孔が多少ともかけ離れ,皮膚の下で管状の鼻腔がそれらをつないでいる。古生代の高等硬骨魚であった総鰭(そうき)類では,鼻は単なるくぼみではなく,左右のそれぞれが口腔の天井,つまり口蓋の両わきに開通していた。…
※「鼻腔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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