日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤーウェ」の意味・わかりやすい解説
ヤーウェ
やーうぇ
Yahweh
Jahve
古代ユダヤ教、とくに『旧約聖書』で用いられる神の名。邦訳聖書(日本聖書協会刊)では文語訳で「エホバ」、口語訳で「主(しゅ)」。そのほか「ヤㇵウェ」「ヤーベ」とも表記される。この神の起源や神名の意味については、種々の学説はあるが、確実なことはかならずしもわかっていない。『旧約聖書』「出エジプト記」によれば、モーセに初めてこの神の名が啓示され(6章2~3節)、またこの神の名がイェヒエ・アシェル・イェヒエ(口語訳「有って有る者」、同3章14節)から説明されている。いずれにしても、このヤーウェと、モーセに率いられてエジプトを脱出した民との間に契約(シナイ契約)が結ばれ、ここに古代イスラエルのヤーウェ宗教が基礎を据えられたのである。ところがこの契約のしるしとしての掟(おきて)(十戒)に、ヤーウェの名をみだりに唱えてはならないとの戒めがあった。古代イスラエル人は、そして今日のユダヤ教徒も、この戒めを固く守り通したため、元来子音のみで記されたこの神名YHWH(四聖文字)の発音は長く忘れられていた。これが、Yahwehと判明するのは19世紀以降のことである。「主」は古代ギリシア語訳に基づく。「エホバ」は誤り。なお、元来イスラエルの神であったヤーウェは、『旧約聖書』の預言者たちによって絶対唯一神へと高められていった。
[月本昭男]
『関根正雄著『イスラエル宗教文化史』(1952・岩波全書)』