日本大百科全書(ニッポニカ) 「リプチンスキー定理」の意味・わかりやすい解説
リプチンスキー定理
りぷちんすきーていり
Rybczynski theorem
現代の貿易理論の柱である要素賦存理論を補完する理論命題。1955年に経済学者T・M・リプチンスキーによって初めて明確にされたので、その名を冠してよばれている。それぞれの国で完全競争が行われ完全雇用が達成されるものとし、複数の生産要素(たとえば労働と資本)によって両国で等しい技術水準のもとで複数の種類の財が生産される場合に、一国はどのような産業に比較優位をもつことになるのかを、各国の生産要素の豊富さの程度(賦存比率)に関連づけて解明し、また貿易を通じて各財の価格や生産要素の報酬率(生産要素価格)がどう変化するのかを示した外国貿易に関する理論がヘクシャー‐オリーンの理論であるが、リプチンスキー定理は、そのような理論のもとで、各財の価格や生産要素の価格が一定に保たれるとき、一国におけるある一種類の生産要素(たとえば労働)の賦存の増加が、その国の各財の生産にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした理論命題であり、「ある生産要素(労働)の増加は、その要素を集約的に投入する産業(労働集約的産業)の生産を増加し、その要素を集約的に投入しない産業(非労働集約的産業)の生産を減少する」というものである。
[志田 明]