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労働 ろうどうlabor; Arbeit

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

労働
ろうどう
labor; Arbeit

人間と自然との関係にかかわる過程。すなわち,人間が,自ら自身の行為によって,自然との関係を統制し,価値ある対象を形成する過程が,労働である。労働は,社会内では,通常,協業や分業の形態に編成されて定在する。労働能力 (肉体的・精神的) のことを労働力という。マルクス主義によれば,資本主義社会では,生産手段を持たない多くの人 (労働者階級) は労働力を商品として売らざるをえず,生産過程に投入されて剰余価値を生み出すため,生産手段の所有者 (資本家階級) に搾取されることになる。

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デジタル大辞泉の解説

ろう‐どう〔ラウ‐〕【労働】

[名](スル)
からだを使って働くこと。特に、収入を得る目的で、からだや知能を使って働くこと。「工場で労働する」「時間外労働」「頭脳労働
経済学で、生産に向けられる人間の努力ないし活動。自然に働きかけてこれを変化させ、生産手段や生活手段をつくりだす人間の活動。労働力の使用・消費。

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世界大百科事典 第2版の解説

ろうどう【労働 labor】

社会的存在としての人間が,その生存を維持するために行う活動を,生産と消費に大別することができるとすれば,生産を支える人間の活動が広義の労働であるといえよう。しかしこれはかなり一般化したとらえ方であり,この語の伝統的な用法の中では〈労働〉は〈仕事〉としばしば対置して使い分けられ,それは英語におけるlaborとworkの使い分け方にほぼ一致している。前者は多少とも労苦をともなう活動のニュアンスを,後者は多少とも積極的な成果を展望する活動のニュアンスをもって用いられるといえよう。

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大辞林 第三版の解説

ろうどう【労働】

( 名 ) スル
〔古くは「労動」と書いた。「働」は国字〕
からだを使って働くこと。特に賃金や報酬を得るために働くこと。また、一般に働くこと。 「八時間-する」 「肉体-」
〘経〙 人間が道具や機械などの手段を利用して労働の対象となる天然資源や原材料に働きかけ、生活に必要な財貨を生みだす活動。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

労働
ろうどう
labour英語
Arbeitドイツ語
travailフランス語

労働の本質

労働とはさしあたりは人間が自己の内部に存在する肉体的・精神的能力を用いて、目的意識的に外部の自然に働きかけることによってそれらを人間に役だつように変化させる活動のことである。労働を通じて人間は自然界から生存に必要な生活諸手段を獲得することが可能になる。自然についての人間の認識、自然に働きかけるにあたっての目的の確定、自然へ働きかける人間の行為――これら一連の人間の活動が労働である。クモやミツバチはみごとな巣をつくるが、これは本能によるもので、人間の労働のように前もって頭のなかで構想していたものを実現するのではないから労働とはいえない。人間はサルから進化したが、サルを人間に変えたのは労働である。サルはもっぱら自然界に存在するものを受動的に受け取るだけであるが、人間は労働手段(道具や機械)を用いて自然に対し能動的に働きかけ、新しい生産物を次々に生み出してきた。最近の研究ではチンパンジーも道具を使用して動植物を獲得することが明らかになっているが、道具のレベルは原始的である。人間は労働手段を改良することで自然へ働きかける能力を飛躍的に高めた。言語は人間の本源的な「社会性・共同性」を背景にして生まれたものであるが(尾関周二著『言語的コミュニケーションと労働の弁証法』)、言語の発達は人々が共同して労働するうえで不可欠の役割を果たしている。
 人間は労働を通じて外的自然に働きかけるのみならず、人間自身をも変化させ、肉体的・精神的能力を発達させてきた。それとともに労働の範囲や種類は広がった。情報の生産やさまざまなサービスの供給、教育・保育・介護のように自分以外の他者とのコミュニケーションをとおして他者の成長、発達を促す活動、また文化、芸術、科学の進歩を担う活動も労働のなかで重要な位置を占めるようになった。[伍賀一道]

労働と労働疎外

労働は他の動物にはみられないもっとも人間的活動であるが、人類の社会が原始共産制から階級社会へ移行するにつれ、労働はさまざまな非人間的性格をもつようになる。これを労働疎外または疎外された労働entfremdete Arbeit(ドイツ語)とよんでいる。奴隷制社会に典型的にみられるように、階級社会では生産手段(労働対象と労働手段)を支配階級が所有し、労働は被支配階級によって行われ、その成果の多くは支配階級の手中に帰する結果、労働する者は自己の労働の成果(生産物)をごく一部しか所有できない。労働は自己の意志に基づく活動ではなくなり、他人の意志に従属して強制的に行われるため、労働する者にとって労働は苦痛となる。労働疎外は階級社会のなかでも資本主義社会においてもっとも深まる。[伍賀一道]

賃労働と剰余価値

資本主義のもとでの労働は賃労働とよばれている。そこでは人間の労働力も商品となり、労働力商品の所有者(労働者)は、賃金と交換に購買者(資本家)に労働力を販売する。資本家は、資本の一部を賃金の支払いにあてて労働力を購買し、いま一つの資本の構成要素である生産手段(原料や機械など)を労働力と合体し労働を行わせることによって新しい生産物を生み出す。この新生産物のもつ価値の大きさと、賃金や生産手段の支払いに支出した資本部分との差が剰余価値とよばれ、利潤の源泉になる。資本家は剰余価値を従来の資本に追加することによって資本を大きくする。大きくなった資本はより多くの労働を支配し、さらに大きな剰余価値を生む。この過程を労働者の側からみれば、自己の労働が生み出した成果が剰余価値として資本家のものになり、それが資本に転化してより多くの労働者とその労働を支配することになる。これは労働疎外の資本主義的形態にほかならない。[伍賀一道]

労働の社会的連関性

産業革命を経て機械制大工業が確立し、個々の資本規模が大きくなるとともに、少数の大資本のもとへ資本が集中するようになると、生産過程の協業的性格は強められる。社会的に分散して用いられていた生産手段は資本のもとに集積され、かつて社会的に孤立して行われていた労働は、資本の指揮・監督下で分業に基づく協業の形態に組織される。労働過程の個々人の労働は分業によって部分労働化され、それ単独では無意味であるが全体の結合労働の構成要素として初めて意味をもつ。生産物は結合労働の成果になる。個々の労働者は細分化された部分労働を担うようになり、労働過程全体を見通すことは困難になる。
 階級社会における分業の最大のものは精神労働と肉体労働との分離であるが、生産過程の立案・構想、指揮・命令などの機能(精神労働)は生産手段の所有者たる資本家の機能になり、作業の実行(肉体労働)は労働者が担当する。生産力の進歩により生産過程が大規模化し、作業の構想、指揮など管理労働の範囲が拡大すると、資本家はこの機能をも労働者に譲り渡すようになり、管理・監督労働者が労働者階級内部の上層に形成された。生産力の発展は科学・技術の進歩の成果であり、またその重要性を高めていく。科学・技術労働が生産過程で重要な位置を占め、技術者が労働者階級の一員となる。こうして労働者のなかで管理・監督や科学・技術などの精神労働を担うホワイトカラーの占める割合がしだいに増加する。
 このような過程は同時に国内市場、世界市場を媒介として社会的分業を発展させ、新しい産業部門を生み出す。これに伴い運輸・通信、金融・保険、商業、サービス業、公務など労働の分野が拡大し、生産その他諸部門間の相互依存、労働の社会的連関性(社会化)が強められる。[伍賀一道]

コンピュータ社会と労働

今日のコンピュータ技術の発展は、各種のME(マイクロエレクトロニクス)機器、OA(オフィスオートメーション)機器を生み出し、ソフトウェアの作成やプログラミング作業、機器の保守・点検など新しい科学的知識に基づいた技術労働者を必要とする一方、旧来の熟練労働者を無用化している。さらに、コンピュータと光ファイバーなど情報伝達手段との結合は、インターネットの発達に代表されるように、生産と労働の社会化を地球的規模にまで拡大している。
 このようなコンピュータ化、情報化の進展は人々がより少ない労働によって、より多くの生産物を手にすることを可能にし、部分労働へ労働者を縛りつけていた資本主義的分業が廃絶される条件を生み出している。また、今日では情報ネットワークを介して遠く離れた人々の結び付きを瞬時に可能にし、協業は世界的範囲に広がっている。だが、コンピュータ化が、資本による人員削減のための手段として利用されることによって、労働者の一部は過剰労働力となり、失業や雇用不安を増大させている。他方、職場に残った労働者はストレスの強い長時間過密労働を余儀なくされる。このことは、資本主義の経済システムのもとでのコンピュータ化、情報化の限界を意味している。[伍賀一道]

労働基準の意義

冒頭の「労働の本質」で述べたように、本来、労働は人間としてのアイデンティティの確立に深くかかわっており、人間の潜在的諸能力を発達させる条件でもある。それゆえ長期間にわたって失業状態に置かれることは、人間としての尊厳が奪われていることを意味している。しかし、労働がある一定水準を超えて、あるいは非人間的な形態で労働者に強制されるならば、それは苦役に転化する。それゆえ、労働時間を一定限度内に制限し、自由時間(生活時間)を確保するとともに、労働者が安全な環境で働けるように労働基準を設定することは労働者にとってきわめて重要な意義をもつ。
 ここでいう労働基準とは、原理的には労働者が使用者の指揮・命令のもとで行う労働の支出量と労働の形態を定めた基準であり、労働者に対する使用者の指揮・命令権への制約を意味する。労働基準は、具体的には、労働時間の上限設定、深夜労働・最低賃金・不安定な雇用形態の規制など多岐にわたっている。それゆえ、この労働基準をどのような水準で設定するか、その適用範囲をどのように定めるかによって、就労のあり方が左右される。労働基準には法制度(工場法、労働基準法、労働安全衛生法、職業安定法など)によるものと、労使の自主的交渉(団体交渉)を踏まえて労働協約の形態をとるものに分かれる。労働基準の内容とレベルいかんによって、労働は人間発達の基盤にも、苦役にもなりうる。[伍賀一道]
『R・ブラウナー著、佐藤慶幸監訳『労働における疎外と自由』(1971・新泉社) ▽H・ブレイヴァマン著、富沢賢治訳『労働と独占資本』(1978・岩波書店) ▽G・ルフラン著、小野崎晶裕訳『労働と労働者の歴史』(1981・芸立出版) ▽尾関周二著『言語的コミュニケーションと労働の弁証法』(1989・大月書店) ▽F・エンゲルス著、大月書店編集部編『猿が人間になるについての労働の役割』(大月書店・国民文庫)』

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世界大百科事典内の労働の言及

【経済学】より

…これに対してマクロ経済学は,一つの国民経済ないしは市場経済全体に関する集計的な経済変量がどのようなメカニズムによって決まり,その間にどのような関係が存在するかということを考察する。すなわち労働雇用量,国民総生産,国民所得,物価水準,利子率,貨幣供給量,財政支出,輸出入,為替レートなどがどのようにして決まってくるか,これらの諸量がどのように変動するかという問題を分析の対象とするわけである。マクロ経済学は雇用理論,所得理論,景気変動論ないしは景気循環論,恐慌論などに分類されることもある。…

【実践】より

…西欧語では,practice(英語),Praxis(ドイツ語),pratique(フランス語)など。その場合,自然に対する働きかけを,とくに〈労働〉と呼び,社会に対する働きかけを,倫理的・政治的活動として,とくに〈行為〉(英語conduct,ドイツ語Handlung,フランス語conduite)と呼ぶことがある。これに対して,〈行動〉(英語behavior,ドイツ語Verhalten,フランス語comportement)は,主として外部から観察しうる人間や動物の,なんらかの物あるいはできごとに対する反応活動をいう場合が多い。…

【賃労働】より

…賃金収入を得るために雇用主に労働を提供すること。資本主義社会になって初めてこのような形態の労働が行われるようになった。…

※「労働」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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