改訂新版 世界大百科事典 「ルボーク」の意味・わかりやすい解説
ルボーク
lubok
ロシア民衆版画のこと。ロシアに現れたのは17世紀以降であるが,木版の素材となる樹皮を意味するこの言葉が使われるようになったのは1820年代,風俗研究家スネギリョフによってである。最初は木版が,のちに銅版や石版が使われ,さらに手書きで彩色が加えられることもあった。転じてルボークはこの版画を挿絵とした廉価版の大衆向け文学をも意味する。題材は,聖書からの宗教説話や神話,暦や算数,地理学や天文学,歴史や文学,文字教科書,世態風俗や昔話などきわめて多様である。民衆に対し内容をわかりやすく伝える普及手段として用いられると同時に,政府や教会への風刺的内容も描かれたが,行商人の手で広く流布し,ロシア社会の中で大きな啓蒙的役割を果たした。単純素朴な手法とあざやかな色彩は20世紀初頭のアバンギャルド芸術にも影響を与えた。19世紀後半の美術史家D.A.ロビンスキーによる体系的収集と研究が特に知られている。
執筆者:坂内 徳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報