日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワステカ」の意味・わかりやすい解説
ワステカ
わすてか
Huasteca
メキシコ中東部、ベラクルス州北部とサン・ルイス・ポトシ州北西部に居住する民族集団。言語はマヤ・トトナカ語群マヤンセ語族に属し、マヤ文化の北限にあたる。5歳以上の人口は約6万6000人(1970)。紀元前1500年ごろ南方から移住し、前2世紀から後8世紀にかけて古典期文化を開花させた。16世紀初頭にアステカの侵入を受けた直後、スペイン人と接触し、征服戦争とカリブ海地域への奴隷売買によって人口は激減した。比較的安定したスペイン植民地時代ののち、19世紀には土地問題から二度の反乱が生じた。高温多湿な気候の下、トウモロコシ、豆、カボチャ、サツマイモなどの耕作、サトウキビ、コーヒーの生産が行われ、米やラッカセイも導入されている。社会組織としては、かつての父系氏族の存在が考えられているが、現在では親族関係はあまり重要ではない。伝統的な政治・宗教組織はほぼ消滅しているが、一部で長老会議が勢力を保っている。宗教はカトリックで、祭りの際には多くの民族舞踊が演じられる。近年はこの地域で石油開発が行われ、新たな社会経済的影響が及びつつある。
[石井 紀]