サトウキビ(読み)さとうきび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サトウキビ」の意味・わかりやすい解説

サトウキビ
さとうきび / 砂糖黍
[学] Saccharum officinarum L.

イネ科(APG分類:イネ科)の熱帯生の多年草。カンショ(甘蔗)ともいう。温帯で栽培されるサトウダイコンと並んで、砂糖をとる植物としてもっとも重要な作物である。高さ3~6メートルで、茎は根元で直径3~5センチメートルになる。茎には10~20センチメートル置きに節があり、各節から長さ1メートル以上もの葉がつく。葉は堅く、その両縁はかみそりのようで、皮膚を傷つける。秋、茎頂に長さ50センチメートルもある大きい穂を出し、多数の小花をつけると、花穂が灰白色になり、巨大なススキの花のようになる。種子は長さ1ミリメートルに満たない小粒で、発芽しにくい。茎は堅い薄皮に包まれ、内部は白い柔組織が充満している。穂が出る前、茎の柔組織細胞の汁液にショ糖が蓄えられ始め、成熟時には汁液の10~20%に達する。発芽から10~15か月が収穫期で、鉈(なた)で地際から茎を切り倒し、茎の頂部と葉を切り除いたのち、圧搾機で汁液を絞り取る。

 収穫後の刈り株からふたたび芽を出させて栽培を続けるほか、新植には茎を2~3節の長さに切って横たえて植え付けると、節から芽と根が出る。

 サトウキビは北回帰線(北緯23度27分)のやや北から南回帰線(南緯23度27分)あたりまでが栽培範囲で、現在はブラジル、インド、中国、タイ、パキスタンメキシコが主産地であり、全世界で年産18億9066万トン(2016)ほどの茎が収穫される。日本では沖縄県や奄美(あまみ)大島で栽培されるが、生産は少なく、157万トン(2016)程度で、外国から粗糖を輸入して需要の大部分をまかなっている。

[星川清親 2019年8月20日]

起源と伝播

ニューギニアとその周辺が起源地で、紀元前1万5000~前8000年に栽培化されたとしているが、栽培化の根拠はない。祖先種はボルネオ島からニュー・ヘブリデス諸島に自生するローバスタム種S. robustum Brandes et Jeswiet(サトウキビ属の1種)である。本種は広く東南アジアに分布するスポンタニウム種(和名はサトウキビ属のワセオバナ)とススキ属のトキワススキMiscanthus floridulus (Labill.) Warb.との自然雑種によってニューギニアで成立した。このローバスタム種から、糖分が多く繊維質が少ないノーブル・ケインと称する品種群がつくられた。これが前500~後1000年に太平洋の島々伝播(でんぱ)した。

 またこの品種群は前20世紀ころインドに伝播し、スポンタニウム種との自然雑種によってシネンセ種(カラサトウキビ)S. sinense Roxb.が、インド在来種として成立した。これはシン・ケインとよばれ、インド北東部と中国南部で、モンスーンの季節によく繁茂し、砂糖生産の実をあげた。このシン・ケインは前3世紀にヨーロッパへ、後7~8世紀に地中海沿岸地域へ伝播し、さらに10~15世紀に地中海沿岸からアフリカ東部および西海岸に伝播した。

 アメリカ大陸へは、コロンブスが1494年に西インド諸島に導入し、その後16世紀以降、中南米地域に伝播した。中国大陸へはインドから1世紀ころに、台湾へは17世紀のオランダ統治時代に、日本へは17世紀初めに奄美大島に入った。

 19世紀に入って、ジャワのパスルアン試験場において、オランダ人によって、マレーシア先住民が栽培していたノーブル・ケイン系の品種群と野生種などとの交雑育種が進められ、その結果、優良品種群の作出に成功した。現在これらの品種群が世界各地のサトウキビ栽培地域に再導入されている。

[田中正武 2019年8月20日]

文化史

サトウキビは、野生のサトウキビの一種であるローバスタムと、トキワススキとの雑種起源という説が近年出されている。1880年以降は、ワセオバナなど5種の相互交雑により品種が改良された。中国ではカラサトウキビ(チュウゴクサトウキビ)S. sinensis Roxb. emend. jeswietを唐時代から栽培しており、その栽培技術や砂糖の製法は厳重な管理下に置かれていた。これが日本へ伝えられたのは明(みん)の時代で、一説によると、船が難破して福建省に漂着した奄美(あまみ)大島の直川智(すなおかわち)という人物が、ひそかに製法を学び取り、1610年(慶長15)に3本の苗を隠して持ち帰ったのが最初と伝えられる。奄美大島の大和(やまと)村には、直川智を祀(まつ)る開饒(ひらとみ)神社がある。また江戸後期、サトウキビは薩摩(さつま)藩の重要な財源となり、明治維新を裏で支えた。

[湯浅浩史 2019年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サトウキビ」の意味・わかりやすい解説

サトウキビ(甘蔗)
サトウキビ
Saccharum officinarum; sugar cane

イネ科の多年草。東アジアの熱帯原産と推定される。砂糖の原料植物としてキューバ,オーストラリア,台湾をはじめ南方地域で大規模に栽培されている。日本でもかつて四国 (特に香川) や熊本で栽培され,また南西諸島や小笠原諸島でも栽培されたが,現在はほとんどを輸入原糖に頼っている。茎は高さ2~4m,直径2~5cm,中実の円柱状で表面は緑色,黄緑色,紅紫色などで,さらに白色のろう物質でおおわれる。茎は 10~20%のショ糖を含み,そのまま噛んで甘い汁を吸うこともある。出穂直前の時期に茎を刈取り,圧縮してそのしぼり汁から原糖をとる。この原糖から煮沸,濃縮,結晶化を繰返して精製し,白砂糖をつくる。しぼり汁を発酵させた酒を糖酎といい,さらにこれを蒸留したものがラム酒で,西インド諸島で多く産する。

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