ラッカセイ(読み)らっかせい(その他表記)peanut

翻訳|peanut

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラッカセイ」の意味・わかりやすい解説

ラッカセイ
らっかせい / 落花生
peanut
[学] Arachis hypogaea L.

マメ科(APG分類:マメ科)の一年草。別名ナンキンマメ。英名ピーナッツ。南アメリカ原産で、世界中の熱帯から寒冷地を除く温帯に広く栽培される。茎は基部から枝分れして、枝は地面をはって伸び、長さ1~1.5メートルになる。主茎は直立するが分枝より短い。葉は2対の4小葉からなる複葉で、暗いときは対(つい)の小葉があわさって閉じ、光が当たると開く睡眠運動をする。花は葉腋(ようえき)につき、黄色の直径1センチメートルほどの蝶形花(ちょうけいか)。夏の早朝に咲き、昼にはしぼむ。自家受精し、開花後5日後ころから子房と花托(かたく)との間(子房柄)が伸びて地中に潜り込み、先端の子房が地表下数センチメートルのところで肥大して莢(さや)となる。この性質から落花生の名がつけられた。また茎の基部の地中にある部分に地下花がつき、これらは閉花のまま自家受精して結実することがある。莢の表面は網状の凹凸のある多肉質で、ここで養分を吸収することができ、熟すると乾燥して堅い莢殻(きょうかく)となる。莢は長さ2~5センチメートルで、内部に普通は2個、品種によっては1~5個の種子(豆)がある。種子は長さ約2センチメートル(品種によっては1センチメートル未満)で、紅褐色や橙黄(とうこう)色の薄い種皮(甘皮)に包まれ、子葉は乳白色である。

[星川清親 2019年11月20日]

起源と伝播

南アメリカ、ボリビア南部のアンデスの東の山麓(さんろく)地域が起源で、この地域にはその野生型が自生している。またボリビアには変異が豊富で、もっとも利用方法も進んでいる。さらにペルーブラジルパラグアイウルグアイアルゼンチンを含む各地域で第二次中心地が形成され、種々な品種が育成された。その年代は不詳であるが、南アメリカの最古の発掘物はペルーのリマの近郊の遺跡から紀元前850年ころのものが出土しており、メキシコのテワン谷から前200年ころのものが出土している。したがって紀元前にメキシコまで伝播(でんぱ)していたことは確実である。新大陸発見時(1492)までに、南アメリカの全地域、西インド諸島およびメキシコに伝播した。16世紀にポルトガル人によってブラジルから西アフリカに、さらにアフリカを経てインドに入り、インド洋諸島各地に伝播した。同じころ、スペインに入り、南ヨーロッパに伝播した。またペルーから直接中国に伝播した。北アメリカには原産地からではなく、むしろアフリカから16世紀ころ入った。日本には、17世紀末に中国から入ったが当時は普及せず、明治初年の再導入後、1907年(明治40)ころから作物として普及し始めた。

[田中正武 2019年11月20日]

品種・栽培

ラッカセイの品種は、分枝の茂り方(立性か匍匐(ほふく)性か)、種子の大小その他によりスペイン型、バレンシア型、バージニア型、サウスイーストランナー型の4型に分けられる。日本ではおもに大粒で分枝の多いバージニア型が栽培されている。ラッカセイは温暖な気候とやや乾燥した土地によく生育する。日本では千葉県と茨城県が主産地で、収穫量は約1万5400トン(2017)である。関東地方では5月に種播(ま)きし、10月末の霜の降りるころに茎ごと引き抜いて収穫し、動力脱莢機で莢をとる。栽培の北限は青森県であるが、東北地方では生産は少ない。世界的には4398万トン(2016)の生産で、豆類としてはダイズに次ぐ生産量で、アジアで世界中の約61%を産する。主生産国は中国、インド、ナイジェリア、アメリカなどであるが、アフリカでは多くの国々で主作物として栽培され、また南ヨーロッパ諸国も収量が高い。

[星川清親 2019年11月20日]

利用

ラッカセイの組成は、100グラム中タンパク質25グラム、脂質47グラム、糖質16グラム、無機質ではカリウムの含量が比較的高く、ビタミンはB1、B2のほか、とりわけナイアシン含量が多く、栄養的に優れた食品である。一般に炒(い)って食べるが、殻付きのまま炒るものと、殻を除いた豆を炒るものとがある。間食用としては殻付きのほうが価格が高く、品質のよいものが用いられ、豆炒りのほうは、塩味をつけたり、バターピーナッツとして間食のほかビールのつまみ、また中国料理では油で揚げたりしてよく用いられる。大粒種に比して小粒種は食味が劣るので、おもに搾油原料とされるが、食用としてはすりつぶして塩味をつけ、よく練ってピーナッツバターとし、また煎餅(せんべい)、マコロンなど製菓材料にされ、豆腐やみその原料にもなっている。豆を冷却下で圧搾して得られる落花生油(ゆ)は、オレイン酸40~60%を含む弱不乾性油で、香りがよく、てんぷら油やフライ油にされ、またサラダ油、ショートニング、マーガリン原料などにもされている。搾油原料の小粒種は年間数万トンが輸入されている。なお大粒種の需要は国産でほぼまかなわれている。

 このほか、ラッカセイは未熟のうちに収穫してダイズの枝豆のように塩ゆでにして食べる。茎葉は緑肥や青刈り飼料とされる。

 なお、ラッカセイは、アレルギー物質を含み症状の重篤度が高い食品であるため、食品衛生法施行規則で「特定原材料」に指定されており、当食品を含む加工食品については、2002年(平成14)4月からその表示が義務化されている。

[星川清親 2019年11月20日]

文化史

ラッカセイ属の野生種は南米に限定され、ラッカセイのほかにブラジルの先住民はナンビクアレA. nambiquarae HoehneやウィルスリカルパA. villosulicarpa Hoehneを栽培する。ラッカセイの原種は北アルゼンチン、パラグアイ、ブラジル西部およびボリビアに分布するモンティコラA. monticola Krapovikhas et Rigoniが有力で、ラッカセイと同じ一年生の四倍体がボリビアから発見されている。スペイン人は、食糧としてラッカセイを船に積み込みフィリピン人に伝え、中南米の呼び名マンが現在もフィリピンに残る。17世紀アフリカからの奴隷船でも食糧にされた。西アフリカでは同じく地下結実性のバンバラビーンが栽培されていたため、定着が容易であった。日本には元禄(げんろく)(1688~1704)までに渡来したとみられ、貝原好古(かいばらこうこ)は『和爾雅(わじが)』(1688)で漢書を引いて落花生(らっかせい)の名をあげる。一方、『菜譜(さいふ)』(1704)では眉児豆に「なんきんまめ」をあてるが、これは紫花などの記述からフジマメと考えられる。『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)では長崎に多く植えと述べられ、『増補地錦抄(ちきんしょう)』(1710)では砂地に植え、土中に結実するなど適確に描写されており、そのころ広がったとみられる。『桃源遺事』は徳川光圀(みつくに)が水戸に導入したと記録する。沖縄ではジマミ(地豆)とよばれ、豆腐をつくり、台湾や中国では塩ゆでを朝食のおかずに添える。

[湯浅浩史 2019年11月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ラッカセイ」の意味・わかりやすい解説

ラッカセイ (落花生)
peanut
groundnut
Arachis hypogaea L.

子実(豆)を食用,あるいは搾油原料とするために栽培されるマメ科の一年草。ナンキンマメ(南京豆)やジマメ(地豆)とも呼び,英名ピーナッツの名でも知られる。茎は基部から枝分れし,枝が立ちあがる立性と,横にはう匍匐(ほふく)性との2型に分けられる。葉は柄が長く,4枚の小葉が羽状につく。小葉は倒卵形か楕円形で,先が小さくとがる。葉のつけねに黄色の蝶形花が数個ずつ咲く。おもに自家受精し,開花後5日目ごろから花の基部(子房柄)が地面にむかって伸び,先端が地中にもぐりこんで莢(さや)として肥大し地中で結実する(〈落花生〉の名はこれにちなむ)。豆は,1莢に1~5粒はいるが,2粒のものが多い。原産地は南アメリカの中央,ボリビアの高地とされ,紀元前に南アメリカから中央アメリカの各地に伝播(でんぱ)した。16世紀にスペインから南ヨーロッパに伝わり,また,奴隷の食糧としたため,奴隷船によりギニアやセネガルなどに伝えられ,徐々にアフリカ東部にまで栽培が広まった。全世界で約2200万haに作付けされ,約2800万tの生産があり,マメ類ではダイズに次いで2番目の生産量をあげている。主生産国は中国,インド,アメリカなどである。日本では約8600haに作付けされ,収穫量は約2万t(2006)である。主産地は千葉,茨城などである。品種は豆粒の大きなバージニア型,豆粒の小さなスパニッシュ型,バレンシア型,サウスイースト・ランナー型の4型に区分される。日本では5月中旬ころに種をまく。7月上旬から8月上旬にかけて開花したものが稔実する。茎葉が老化し,葉の7~8割が落葉したころを目やすとして収穫する。掘り採ったものを乾燥し,莢をおとす。豆はタンパク質を25%以上,脂質を45%以上含み,栄養的にすぐれている。大粒品種は食味がよく,いり豆などとし,小粒品種はピーナッツバターや搾油原料とし製菓原料にも使われる。また未熟な豆を塩ゆでにして食べることもある。
執筆者:

落花生の日本伝来については,黒川道祐が《遠碧軒記》(1675)に〈近来渡る〉と書いているのが最も古い記録のようである。初めは長崎地方で栽培され,中国風の料理に用いられていたようで,《普茶料理抄》(1772)や《卓子式》(1784)には落花生を使った料理が記載されている。19世紀に入って紀伊でも栽培されるようになり,それまでは花,または花の露が落ちたところに実を結ぶものだなどといわれていたが,ようやく正確な知識も得られるようになった。しかし,なお他地方へは普及せず,栽培,食用が本格化したのは明治に入ってからであった。落花生はいってそのまま食べるほか,せんべい,おこし,あめなどの菓子にも利用される。料理としては,いったものをすって泥状にし,それを調味してあえ物に用い,あるいは,葛粉(くずこ)を加え,火にかけて練って落花生豆腐にしたりする。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「ラッカセイ」の意味・わかりやすい解説

ラッカセイ(落花生)【ラッカセイ】

ナンキンマメ,ジマメ,ピーナッツなどとも。ブラジル原産のマメ科の一年草。茎の長さは30〜55cmで,草状は直立型,匍匐(ほふく)型,中間型とある。葉は長卵形の4小葉からなる羽状複葉で睡眠運動をする。夏,基部に近い葉腋に黄色の蝶(ちょう)形花をつける。受精後,子房柄は伸長して地中に入り,2〜3個の種子を含む不整形繭形の莢果(きょうか)を形成する。種子は油脂とタンパク質に富み,いり豆,ピーナッツバター,ピーナッツクリーム,菓子の原料とし,油はラッカセイ油として利用。また茎葉を飼料とする。千葉,茨城,栃木などの各県が主産地。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラッカセイ」の意味・わかりやすい解説

ラッカセイ(落花生)
ラッカセイ
Arachis hypogaea; peanut

マメ科の一年草で,南アメリカ原産。別名ナンキンマメ (南京豆) ,ピーナッツ。茎は基部から分枝し,なかば地面をはう。葉は互生し2対の小葉から成り偶数羽状複葉で,暗所では小葉は閉じる。夏に,葉のつけ根に黄色の蝶形花をつけ,花後子房柄が伸びて地中に入り,地中で莢が肥大する。この性質から落花生の名がつけられた。莢は網条の凹凸のある多肉質,熟すると乾燥して硬い殼となる。種子は普通1つの殼に2個でき,紅褐色の薄い種皮に包まれ,多くの油と蛋白質を含む。炒って食用とするほか,ピーナッツバター,ピーナッツオイルなどをつくる重要な農作物である。

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栄養・生化学辞典 「ラッカセイ」の解説

ラッカセイ

 [Arachis hypogaea].ピーナッツ,ナンキンマメともいう.マメ目マメ科ラッカセイ属の一年草ラッカセイの種子.煎って食用にしたり,潰して諸種の料理に使う.

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世界大百科事典(旧版)内のラッカセイの言及

【ホドイモ】より

…塊根は食用にされるといわれているが,小型であり,1個体あたりの数も少ない。 ホドイモ属Apiosは約10種ほどが知られているが,栽培されている種類はアメリカホドイモA.americana Medic.(英名ground nut,potato bean)で,北アメリカの原産である。紫褐色の芳香のある花をつけ,塊根はホドイモよりも大型で多数つき,食用に利用できる。…

【豆】より

…種子はまた,胚乳が退化し,かわりに発達した子葉に養分を貯蔵する。豆のこの養分は,人間が多く食用とするデンプンだけでなく,ダイズやラッカセイのように油脂やタンパク質を多く含有している場合がある(表)。 マメ科植物の種子には,しばしば硬い種皮があるか,養分を貯蔵している子葉が硬質だったりし,また貯蔵物質の特性とも相まって,人間が,そのまま食べるには消化吸収のしにくいものになっている。…

【油料作物】より

…ナタネ,ゴマ,トウゴマ,エゴマ,ラッカセイ,オリーブ,ダイズなど,油の採取を目的として栽培される作物。作物分類では工芸作物に含まれる。…

※「ラッカセイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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