旺文社世界史事典 三訂版 「ワズィール」の解説
ワズィール
wazīr
通常は「宰相」と訳され,現在では「大臣」をさす。元来アラビア語では「補佐」や「重荷を負う者」を意味したが,「君主の助力者」というイラン思想と結びつき,アッバース朝のとき公的な肩書となった。同朝において,カリフの単なる助力者から,しだいにカリフの代理者の役割を果たすようになり,9世紀末になると,国政全般の統括者となった。彼らは,その大半がマワーリー(非アラブ人の改宗者)の書記階級出身者の子孫か,税務関係の諸官庁長官の経験者が多かった。ただし,カリフに対して絶対服従しなければならないところから,宮廷内の陰謀に巻き込まれやすく,地位は不安定だった。そののち,カリフ政権が弱体化すると,カリフの単なる書記に転落した。セルジューク朝ではスルタンを補佐する宰相職の意味に復し,これはオスマン帝国にも引き継がれた。オスマン帝国では14世紀後半になると,この称号が複数の人物に与えられ,それぞれの権限も限定されるものになった。
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