マワーリー(英語表記)mawālī

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マワーリー」の意味・わかりやすい解説

マワーリー
mawālī

アラビア語マウラー mawlāの複数形で,一般には「主人,保護者」を意味し,また定冠詞を付して「神」をさすこともあるが,歴史上の用語としては逆に「保護を受ける劣った身分の者」をさす。イスラム前のアラブ社会では解放された奴隷の多くは完全な自由人にはなれず,もとの主人の保護下におかれた。このような状態の解放奴隷マワーリーといった。また大征服により,アラブが西アジアから北アフリカにいたる広大な地域の支配者集団を形成したことにより,非アラブはイスラムに改宗してアラブの保護下に入る必要があった。このようにアラブの集団,または個人の保護下にあった非アラブのイスラム教徒もマワーリーと呼ばれた。マワーリーは同じイスラム教徒ではあっても,アラブから何かにつけ差別され,劣った身分の者として扱われたが,次第に学問,芸術面ですぐれた才能を発揮する者が現れ,軍事面でも重要な地位を占めるようになった。それに伴いマワーリーが都市に集中するようになり,農村を離れて都市でアラブと混って生活するマワーリーの増加は,租税の源である農村の人口減少を招いた。そのため,政府はマワーリーの帰農という強圧対策をとることもあり,またその差別に対する不満もあって「マワーリー」問題ウマイヤ朝時代の重大な政治問題となった。しかし,アラブが次第に混血し,内部抗争も行われて,支配者集団としてのまとまりを失うにつれて,アラブにもマワーリーにも非イスラム教徒にも同一の土地税が課せられるようになり,アラブとマワーリーの差別は事実上解消していった。

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