日本大百科全書(ニッポニカ) 「わらび餅」の意味・わかりやすい解説
わらび餅
わらびもち
わらび粉をこねて蒸した餅菓子の一種で、奈良名物となっている。1643年(寛永20)刊の『料理物語』には、「粉一升に水一升五合もいれ、よく溶きてこね候(そうらい)て宜(よ)し」とあるが、風味が葛餅(くずもち)に類似するところから、葛餅をわらび餅と称して商うことが江戸時代すでに行われていた。現在でも実際にわらび粉を使ったわらび餅は少ないので、「本物のわらび粉でつくりました」と添え書きのあるわらび餅さえみかける。季節としては春先の菓子だが、前年の秋にワラビ根を掘り、これを砕いてデンプンを採取しなければならず、昔は山村の重労働であった。きな粉や漉し餡(こしあん)で食べるが、京都市の月餅家直正(つきもちやなおまさ)、文の助(ぶんのすけ)茶屋、滋賀県大津市の叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)などが有名である。
[沢 史生]