出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
マグレブ系アラブ歌謡から発展したポピュラー・ミュージック。モロッコ、アルジェリア、フランスを中心に広く親しまれている。強靭なビートとこぶしの効いたボーカルが特徴的だが、さまざまなサウンドのバリエーションをもつ。
EU統合によってヨーロッパが一つとなる動きとは反対に、フランス、スペイン、イタリアなどでは国内で地方ごとの音楽が興隆した。またイギリスにおいても、UKエイジアンらの台頭によるエスニシティや音楽ジャンルの組み替えが行われ、新たな音楽状況を示している。
こうした流れのなかで、フランスでのライの人気はこの国のポピュラー・ミュージック全体のあり方を変えた。その勢いの背後にあるのは100万人を超えるイスラム教徒アラブ人やベルベル人の存在だ。アルジェリア出身のアラブ人でフランス在住のハレドKhaled(1960― )、シェブ・マミCheb Mami(1966― )といった、すでにライという枠組みを越え、フランスのポップ・スターになっているアーティストもいる。
ライの言葉の語源については、スペイン出身の作家でアラブ・イスラム世界に造詣の深いファン・ゴイティソーロJuan Goytisolo(1931―2017)の論を参考にまとめると以下のようになる。もともと「ライ」は「意見」を意味するイスラム教スンニー派の宗教・法律用語で「アナロジー」や「コンセンサス」に似た使われ方をする。歴史的には、1930年代に西アルジェリアのオラン地方で、アラブ系遊牧民であるべドウィンが継承している歌謡メルフーンから派生して生まれた。1960年代にはカフェの女性歌手たちがライの新しい担い手となる。シーハ・リミティCheikha Remitti(1923―2006)がそうした歌手の代表格で、彼女はライのスターであるだけではなく、キング・クリムゾンのメンバー、ロバート・フリップRobart Fripp(1946― )からも請われて共演している。1970年代にはライは風紀上好ましくないとしてメディアから排除されたが、1980年代には当時の若者たちに圧倒的に支持されるようになり、それが移民たちによってパリにもち込まれた。
1990年代前半、享楽的であるといった理由でライはイスラム原理主義者から非難され、シェブ・ハスニCheb Hasniらスター歌手が暗殺や誘拐の被害にあったことでも注目された。しかしライ自体が政治的な抵抗の音楽だったのではなく、逆にその非政治性が攻撃の対象とされたことが、ポピュラー・ミュージックの置かれた政治的・社会的な状態が新しい段階に突入したことを示した。ロックやレゲエなどの音楽がもつ抵抗の姿勢とのアナロジーでライが語られることも少なくないが、むしろ、どのようにしても政治的にならざるをえない状態からの逃避がライという音楽の新しさであった。
また、ライから派生して新しい展開を見せたのがオルケストル・ナショナル・ドゥ・バルベス(バルベス国立楽団)、グナワ・ディフュジオンらである。前者はパリのアラブ人街から国家の枠組みを超えたコミュニティへと変貌したバルベスの街を拠点とし、さまざまな国籍のミュージシャンたちによる「独立国」という含みをもつ。後者は、モロッコなどいくつかの国家にまたがる少数民族グナワの音楽の普及版(ディフュジオンはアパレル用語でブランド品の普及版)といった意味をもつ。そのほか、ベルベル系カビール人の音楽も近い存在である。彼らはアラブ系ではなく、マグレブ世界のなかではマイノリティだが、フランスにおいてマミらライのミュージシャンと協同するなどの展開を見せており、代表的な存在としてはイディールIdir(1955― )が知られている。
[東 琢磨]
『ファン・ゴイティソーロ著、山道佳子訳「ライ・ミュージック」(『嵐の中のアルジェリア』所収。1999・みすず書房)』▽『Joan Gross, David McMurray et al.Arab Noise and Ramadan Nights; Rai, Rap, and Franco Maghrebi Identities(in Displacement, Diaspora and Geographies of Identity, 1996, Duke University Press, Durham)』▽『Timothy D. TaylorGlobal Pop ; World Music, World Markets(1997, Routledge, New York)』
インドの映画監督。文学者を父にカルカッタ(現、コルカタ)に生まれる。絵画を学び広告会社の美術部に勤務、社用で渡英の際『自転車泥棒』を見て感動した。また『河』のインド・ロケでジャン・ルノワール監督に会って奮起し、私財を注ぎ込んで『大地のうた』(1955)を発表、これがカンヌ国際映画祭でヒューマン・ドキュメント賞を受賞し世界の注目を集めた。続いて『大河のうた』(1956)、『大樹のうた』(1959)と三部作を完成。さらに『大都会』(1963)、『チャルラータ』(1964)、『遠い雷鳴』(1973)の三作がいずれもベルリン国際映画祭でグランプリなどを受賞、以降も『チェスをする人』(1977)、『家と世界』(1984)などを発表した。これらの作品は、インド独自の題材によりヒューマンなテーマと詩的な写実表現で高く評価される。
[登川直樹]
大地のうた Pather Panchali(1955)
大河のうた Aparajito(1956)
大樹のうた Apur Sansar(1959)
詩聖タゴール Rabindranath Tagore(1961)
大都会 Mahanagar(1963)
チャルラータ Charulata(1964)
株式会社 ザ・カンパニー Seemabaddha(1972)
遠い雷鳴 Ashani Sanket(1973)
ミドルマン Jana Aranya(1975)
チェスをする人 Shatranj Ke Khilari(1977)
ピクー Pikoor(1981)
遠い道 Sadgati(1981)
家と世界 Ghare-Baire(1984)
見知らぬ人 Agantuk(1991)
「ハンセン病」のページをご覧ください。
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