改訂新版 世界大百科事典 「ウォルト」の意味・わかりやすい解説
ウォルト
Das Wort
ナチスに追われたドイツ亡命作家たちによって,1936年7月から39年3月までモスクワで出版された月刊文学誌。第1回文化擁護国際作家大会(1935年6月,パリ)の際にベッヒャーを中心に相談,編集はブレヒト(デンマーク滞在),フォイヒトワンガー(南フランス),ブレーデル(モスクワ),実務はエルペンベックが当たり,M.E.コリツォーフを通じてソ連の出版所の援助を得て実現した。表題の〈ウォルト〉は言葉,発言を意味し,創刊号に〈真のドイツの言葉が国内では破壊されているので,国境外で守り育てる〉と表明。統一戦線の立場から幅広い亡命作家の作品発表の場とするとともに書評欄を充実し,またヒューマニズム論や,古典文学・芸術の遺産としての継承の問題も重視した。なお表現主義からナチス支持になった作家をどうみるかに始まった〈表現主義論争〉には15人もが次々に寄稿,ソ連でのフォルマリズム批判ともからみ,やや混乱するが,当時の状況をよく示す論争であった。
執筆者:長橋 芙美子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報