…そして自然発生的なスターに代わる人為的な〈スターシステム〉が強化されることになる。 サイレント映画の発展と完成の時期を経験したアメリカ映画は,20年代半ばにはアメリカの五大産業の一つに数えられていたが,危機をはらんだアメリカ経済の不況に影響されて経営が悪化し,それを打開する投機として世界最初のトーキー《ジャズ・シンガー》(1927)が公開されてトーキーの時代を迎えた。映画のトーキー化は莫大な資金を必要としたため,映画資本の高度化と金融資本との結びつきを促進し,ハリウッドはウォール街によって支配されることになる。…
…自然光に近いライティング(照明)を計算したC.ロッシャー(1885‐1974)のカメラワーク,とくに流麗な移動撮影が高く評価され,第1回アカデミー賞の撮影賞を受賞した。1927年9月23日,ムッソリーニのアメリカ国民へのメッセージを伝える最初のトーキーのニュース映画〈フォックス・ムービートーン・ニュース〉1巻をそえて封切られたが,その13日後,アル・ジョルスン主演の《ジャズ・シンガー》がニューヨークで特別公開されて,映画はトーキーの時代を迎えることになる。《サンライズ》も翌28年にはサウンド版がつくられて再公開された。…
…もっとも原始的なシステムは,劇場のスクリーンの背後に俳優や音響係りを配置して,せりふや音をスクリーンにシンクロナイズ(同調)させるもので,1895年に行われたリュミエールの映画会にも,D.W.グリフィス監督の《国民の創生》(1915)の特別公開にもこのシステムが使われたことがあるという。その後,エジソンの〈キネトフォン〉,あるいは〈キネトフォノグラフ〉をはじめ,いろいろなシステムが発明,改良されて,音響と音楽だけのサウンド版《ドン・フアン》(1926),歌唱場面だけを同時録音した〈パート(部分)トーキー〉の《ジャズ・シンガー》(1927)がつくられ,次いで全編に音声が伴う《紐育の灯》(1928)が最初の〈100%オール・トーキー〉として登場する。 ハリウッドの映画会社ワーナー・ブラザースがいちはやくトーキーの製作を始めたが,それはかならずしもそのころになってやっとトーキーの技術的基礎ができたからではなかった。…
…〈ムービー・ミュージカルmovie musical〉あるいは〈スクリーン・ミュージカルscreen musical〉とも呼ぶが,一般には舞台のミュージカルと区別せずに単に〈ミュージカルmusical〉と呼ぶ場合も多い。
[ミュージカル映画の誕生]
1920年代の初めにレコードを通じて全米のアイドルとなっていたアル・ジョルスンAl Jolson(1886‐1950)が,ワーナー・ブラザースの実験的なサウンド短編《エープリル・シャワーズ》(1926)につづく《ジャズ・シンガー》(1927)で《マイ・マミー》や《ブルー・スカイ》を歌ったとき,〈トーキー映画〉と〈ミュージカル映画〉が同時に誕生した。その後,ミュージカル映画はハリウッドの各社で次々につくられたが,そのなかで,MGMのアービング・タルバーグが2人の若いソング・ライター,すなわち作詞家のアーサー・フリード(1894‐1973)と作曲家のナシオ・ハーブ・ブラウン(1896‐1964)のコンビを起用してオリジナル・ナンバーを書かせ,ハリー・ボーモント監督により〈100%オール・トーキング,100%オール・シンギング,100%オール・ダンシング〉といううたい文句で製作してアカデミー作品賞を受賞した《ブロードウェイ・メロディー》(1929)が,初期のミュージカル映画の原型とされる(のち〈MGMミュージカル〉のシンボルの一つにすらなった名曲《雨に唄えば》もこの作品のナンバーの一つであった)。…
…そして,社長ハリーと経理担当のアルバートがニューヨークで本社業務を担当し,サミュエルが技術面を,撮影所長ジャックが製作面を担当,23年に社名を変更して,この名(ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ・インコーポレーテッド)が生まれた。25年にはバイタグラフ社を合併したが,小規模な三流会社として経済的危機を迎えて破産にし,危機打開の最後の手段として製作したパート・トーキーの試作《ドン・ファン》(1926),そしてそれにつづく本格的なトーキー第1作《ジャズ・シンガー》(1927。アル・ジョルスン主演)の成功によって,29年には逆に,純益1700万ドルというハリウッドの記録をつくった。…
※「ジャズシンガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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